デジタル大辞泉
「業」の意味・読み・例文・類語
わざ【業】
1 おこない。行為。所業。しわざ。「神のみ業」「人間業」
2 職業。仕事。「物書きを業とする」
3 こと。ありさま。おもむき。「容易な業ではない」「腹ふくるる業」
4 仏事。法要。
「安祥寺にてみ―しけり」〈伊勢・七七〉
5 たたり。害。
「―をするものはだますといふほどに」〈虎明狂・附子〉
ごう〔ゴフ〕【業】
《〈梵〉karmanの訳》
1 仏語。人間の身・口・意によって行われる善悪の行為。
2 前世の善悪の行為によって現世で受ける報い。「業が深い」「業をさらす」「業を滅する」
3 理性によって制御できない心の働き。
なり【▽業】
生活のための仕事。生業。なりわい。
「ひさかたの天路は遠しなほなほに家に帰りて―をしまさに」〈万・八〇一〉
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わざ【業・技】
- 〘 名詞 〙
- ① 深い意味や、重大な意図をもつ行為や行事。
- [初出の実例]「吾妻に 他(ひと)も言問へ 此の山を うしはく神の 昔より いさめぬ行事(わざ)ぞ」(出典:万葉集(8C後)九・一七五九)
- ② 意識的に何事かをすること。また、その行為。しわざ。おこない。
- [初出の実例]「塞上、恒に作悪(あしきワサ)す」(出典:日本書紀(720)皇極元年二月(岩崎本訓))
- 「昔をとこ、みそかに語らふわざもせざりければ」(出典:伊勢物語(10C前)六四)
- ③ 仏事。法要。
- [初出の実例]「我れ三宝を供養する事(ワザ)に財物を須ゐむとす」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六)
- ④ 習慣化した行為で、目的をもつもの。仕事。つとめ。職業。
- [初出の実例]「汝等の習(なら)ふ業(ワサ)、何の故か、就(な)らざる」(出典:日本書紀(720)敏達元年五月(前田本訓))
- 「くれ、えもいはぬ大木ども、ただこの牛一つして、運ぶわざをなんしける」(出典:古本説話集(1130頃か)五〇)
- ⑤ できごと。事柄。物事のもつ深い事情や状態、次第などを問題にしていう。
- [初出の実例]「いにしへに 有りける和射(ワザ)の 奇(くす)ばしき 事と言ひつぐ」(出典:万葉集(8C後)一九・四二一一)
- ⑥ 技芸。技術。手段。腕前。
- [初出の実例]「口鼓(くちつづみ)を撃(う)ち、伎(わざ)を為(な)して」(出典:古事記(712)中(古事記伝訓))
- 「風をふせぐたよりもなく、雨をもらさぬわさもなし」(出典:高野本平家(13C前)九)
- ⑦ 特に、相撲・柔道・剣道などで、勝敗を決める一定の型をもった技術、技法。
- [初出の実例]「三四郎にはこの見事な業の判断もつかなかった」(出典:姿三四郎(1942‐44)〈富田常雄〉巻雲の章)
- ⑧ わざわい。たたり。害。
- [初出の実例]「いづれに天下にわざある程に事とよませたぞ」(出典:土井本周易抄(1477)二)
ごうゴフ【業】
- 〘 名詞 〙 ( [梵語] karman の訳語 )
- ① 仏語。意志による身心の活動、行為。一般に身・口・意の三業に分ける。また、身・口の二業に、他に示すことのできる表業と他に示すことのできない無表業の二つを分ける。善心による善業、悪心による悪業、善悪いずれでもない無記業の三業に分けることもある。カルマ。
- [初出の実例]「百年の間(あひだ)なせるところの三途の業いくそばくぞ」(出典:法華修法一百座聞書抄(1110)閏七月一一日)
- 「善し悪しともに、心の業にて候へども」(出典:不動智神妙録(1638頃)石火之機)
- [その他の文献]〔勝鬘経‐摂受章〕
- ② 前世の善悪の行為によって、現世においてうける応報。
- [初出の実例]「ごうにやあらざりけむ。御病おこたりぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
- ③ 特に悪業、罪業をいう。
- [初出の実例]「我が重き病を得しは、殺生の業に由るが故に」(出典:日本霊異記(810‐824)中)
- ④ 「ごうはら(業腹)」の略。
ぎょうゲフ【業】
- 〘 名詞 〙
- ① やるべきこと。しごと。事業。
- [初出の実例]「三日を不過ず、常に相互に行き会て、酒を呑むを以て業とす」(出典:今昔物語集(1120頃か)一〇)
- 「且(しばら)く存命(ぞんみゃう)の間、業を修し学を好まんには」(出典:正法眼蔵随聞記(1235‐38)二)
- [その他の文献]〔書経‐周官〕
- ② 暮らして行くための仕事。なりわい。職業。
- [初出の実例]「釣を業とする者在り」(出典:今昔物語集(1120頃か)二〇)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐昭公元年〕
- ③ 学問。学業。技芸。
- [初出の実例]「既にして医科の業を卒(お)へければ」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉八)
- [その他の文献]〔易経‐乾卦〕
なり【業】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「なる(業)」の連用形の名詞化 ) 暮らしのための仕事。生業。なりわい。
- [初出の実例]「ひさかたの天路は遠しなほなほに家に帰りて奈利(ナリ)を為まさに」(出典:万葉集(8C後)五・八〇一)
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普及版 字通
「業」の読み・字形・画数・意味
業
常用漢字 13画
[字音] ギョウ(ゲフ)・ゴウ(ゴフ)
[字訓] いた・わざ
[説文解字]
[金文]
[字形] 象形
上部は鑿歯(さくし)(ぎざぎざ)の形。下に長い柄があり、これで地を撲(う)って固めた。撲はもと業と廾(きよう)とに従い、業を両手でもつ形である。〔説文〕三上に「大版なり。鼓を縣する以なり。捷業(せふげふ)(楽器かけ)は鋸齒の如し。白を以て之れを畫く。其の(そご)相ひ承くるに象るなり」という。〔詩、周頌、有瞽〕に「業を設けを設く」、その〔毛伝〕に業を「大板なり。(しゆん)をりて縣を爲す以なり」とみえる。版築において土を撲つのに用いるものと、楽器を懸ける(しゆんきよ)に用いるものと、その形が似ているので、同じ名でよばれているのであろう。事業の意は、版築によって城壁を造営することから出ており、当時としては大事業であったので、〔詩、大雅、常武〕「赫赫業業として 嚴たる天子り」のように、形況の語に用いる。〔爾雅、釈詁〕に「業は事なり」とあり、版築のことが字の本義である。
[訓義]
1. いた。版築のとき、土を撲つ板。
2. 鐘鼓を懸けるの飾り板。上に鑿歯を加える。かざり板。
3. 版築のような大土木事業、わざ、こと、しごと、しわざ、つとめ。
4. 王朝の創始のような新しいしごと。基礎。
5. 大きい、さかん、動く、活動する状態。
6. 書版、字をかく板、学問。
7. と通じ、あやうい。
8. 已と通じ、すでに。
9. 仏教語。前世と因縁の関係を業(ごう)という。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕業 ナリハヒ・ノリ・ツトム・ナル・モトサシ・オソシ・ウゴク・オソル・ミチ・オホイナリ・ハゲム・ナリ/家業 ナリハヒ
[部首]
〔説文〕三上に(さく)を部首とし、業・叢・對(対)をその部に属する。を「叢生の艸(くさ)なり」とするのは、叢との字形の関係よりいうものであろうが、は鑿歯(さくし)の形。業は版築の土を撲ち固める器。これをもつことを對といい、相対して土を撲つ意であろう。業を両手でもつことを(ほく)といい、〔説文〕にまたを部首とするが、すべての系列に属する字である。
[声系]
〔説文〕に業声としてを収める。は地名。
[語系]
業ngiapはngyet、已jiと声に通ずるところがあり、通用する。「業已」を連用して「すでに」とよむ。
[熟語]
業宇▶・業峩▶・業貫▶・業業▶・業戸▶・業産▶・業師▶・業次▶・業主▶・業儒▶・業習▶・業祚▶・業泰▶・業土▶・業命▶・業余▶・業履▶・業力▶・業因▶・業縁▶・業果▶・業苦▶・業障▶・業塵▶・業魔▶・業累▶
[下接語]
悪業・医業・偉業・肄業・遺業・懿業・因業・永業・営業・王業・家業・稼業・課業・開業・学業・官業・勧業・企業・基業・旧業・居業・虚業・兢業・勲業・経業・敬業・建業・兼業・現業・故業・工業・功業・弘業・洪業・興業・鴻業・作業・財業・罪業・三業・産業・纂業・至業・志業・始業・師業・嗣業・詩業・資業・自業・事業・失業・執業・実業・受業・授業・習業・修業・終業・就業・従業・宿業・術業・巡業・筍業・遵業・所業・書業・商業・捷業・障業・職業・身業・進業・垂業・世業・正業・盛業・聖業・設業・絶業・専業・賤業・善業・祖業・争業・創業・喪業・操業・卒業・大業・怠業・定業・帝業・殄業・田業・伝業・統業・同業・徳業・内業・農業・破業・覇業・敗業・廃業・丕業・非業・罷業・畢業・婦業・副業・復業・分業・文業・別業・本業・末業・民業・夜業・余業・力業・立業・林業・烈業
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業
ごう
サンスクリット語のカルマンkarmanの訳語。もともとクルk(為(な)す)という動詞からつくられた名詞であり、したがって行為を示す。しかし一つの行為は、原因がなければおこらないし、また、いったんおこった行為は、かならずなにかの結果を残し、さらにその結果は次の行為に大きく影響する。その原因・行為・結果・影響(この系列はどこまでも続く)を総称して、業という。それはまず素朴な形で、いわゆる輪廻(りんね)思想とともに、インド哲学の初期ウパニシャッド思想に生まれ、のち仏教にも取り入れられて、人間の行為を律し、また生あるものの輪廻の軸となる重要な術語となった。すなわち、善因善果・悪因悪果、さらには善因楽果・悪因苦果の系列は業によって支えられ、人格の向上はもとより、悟りも業が導くとされ、さらに業の届く範囲はいっそう拡大されて、前世から来世にまで延長された。しかしわれわれは、現在の行為の責任を将来自ら引き受ける、という意味に考えてよいであろう。確かに行為そのものは無常であり、永続することはありえないけれども、いったんなした行為は消すことができず、ここに一種の「非連続の連続」があって、それを業が担うところから、「不失法」と術語される例もある。なお仏教では、身(しん)・口(く)・意(い)の三業といい、身体とことばと心とはつねに一致して行為に現れる、とした。また初期の仏教は、業をもっぱら個人の行為に直結しているが、やがては社会的に拡大して多くの個人が共有する業を考えるようになって、これを共(ぐう)業とよび、個人ひとりのものは不共業と名づける。また身・口・意の三業はきわめて多岐にわたり複雑を極めるので、仏教の教理の進展や確立とともに、業の分析が盛んに行われて、それに基づく詳細で精密な業説が、いわゆる仏教哲学の中心問題の一つを占める。
[三枝充悳]
『舟橋一哉著『業の研究』(1954・法蔵館)』▽『大谷大学仏教学会編『業思想の研究』(1975・文栄堂書店)』
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業 (ごう)
行為を意味するサンスクリットのカルマンkarmanの漢訳語。善人も悪人も死んでしまえばみな同じだというのは不公平だという考えをもとに,インドではブラーフマナ文献あたりから因果応報思想が見え始める。それがウパニシャッド文献では,輪廻思想の成立とともに急速に理論化されるにいたった。行為は,身体的な行為(身業),語るという行為(口業),思うという行為(意業)に分類されるが,それらの行為はその場かぎりで消えるのではなく,不可見のいわば潜勢体(功徳と罪障,法と非法)として行為の主体につきまとう。やがて時(基本的に来世)がいたればそれが順次に果報として結実し,同じ主体によって享受されて消滅する。自分の行為の結果は自分で享受することが原則で,これを〈自業自得〉といい,輪廻の主体としてのアートマン(自我)についての考察を推進させた。また,善業であろうと悪業であろうと,業は必ずや果報として享受されねばならない。そのために業の主体は再生,輪廻する必要がある。したがって,輪廻の苦の生存をやめること(解脱(げだつ),不死)は,業を滅することを意味する。
なお,日本では〈宿業〉といって,現在世でのできごとや環境が,過去世に積んだ業によって決定づけられていることを強調し,無力感に満ちたあきらめを助長する傾向が強く現れたが,これは,未来は現在の行為によって決定することができるという,業思想の本来の姿から遠くかけ離れている。
執筆者:宮元 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
業【ごう】
仏教の基本的概念の一つ。サンスクリットkarmanの訳。本来は行為の意味。因果思想と結合し業はその善悪に応じて果報を与え,死によっても失われず,代々伝えられると考えられる。〈ウパニシャッド〉にもその思想は現れ,輪廻(りんね)思想,業感縁起の基礎となる。宿業思想に発展し一種の運命論となったが,インド,中国,日本の思想に大きな影響を与えた。
→関連項目縁起|ジャイナ教|六道|惑業苦
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
業
ごう
karman
サンスクリット語で,本来の意味は行為であるが,仏教では特に身,口,意が行なった行為ならびにその行為が存続して果報をもたらす力という意味に用いられる。また身体と口と心によって行なった行為を身口意の三業 (さんごう) と呼び,さらに個人の業である不共業 (ふぐうごう) ,社会全体の業である共業 (ぐうごう) をも説いている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の業の言及
【因果】より
…原因と結果のこと。特に仏教用語として用いられる場合は,[業](ごう)思想と結びつき,自己の存在のあり方にかかわる因果性をいう。すなわち〈善因善果・悪因悪果〉という言葉で表現されるように,たとえば,人間あるいは天人として生まれるという善の結果を,あるいは地獄・餓鬼・畜生として生まれるという悪の結果を得るのは,前世の自己の善業あるいは悪業を原因とするという考えである。…
【因果応報】より
…もはや倫理を超えた異次元の問題を指向しなければならなくなったのである。 仏教はそこに〈業(ごう)〉の理を導入した。[業]とは本来は単に人間の行為のことであるが,一つの行為は必ず善悪・苦楽の応報をもたらすという因果観と結びつくことで,業は一種のパワーとみなされ,そこから過去・現在・未来の三世にわたる輪廻(りんね)の思想が,しだいに中国人の生死観に定着するようになった。…
【ジャイナ教】より
…ジャイナ教は,こうした相対主義を思想的支柱として,後世[ベーダーンタ学派]の不二一元論や[サーンキヤ学派]の二元論,また仏教の無常論などと思想的に対抗して,インド思想史上無視できない重要な位置を占めるにいたった。
[宇宙観と業,解脱論]
ジャイナ教の宇宙観は,その特色ある存在論を基礎とする。あらゆる存在は霊魂(ジーバjīva。…
【説一切有部】より
…また特に心と相伴う関係にあるのではなく,物でも心でもなく,それらの間の関係とか力,また概念などの心不相応行法(チッタビプラユクタ・サンスカーラダルマcittaviprayukta‐saṃskāradharma,これも上の70ほどの法に含まれている)の存在を認めた。業論としては,極端な善・悪の行為をなしたとき,人間の身体に一生の間,その影響を与えつづける無表色(アビジュニャプティルーパavijñaptirūpa)が生ずると主張した。これは現代では心理的影響と考えられるが,有部はこれを物質とみたところに特徴がある。…
【善】より
…【島田 虔次】
[インド]
日本で用いられる〈善〉という言葉は,しばしば仏教語としての善である。これは,サンスクリットの〈プニヤpuṇya〉とか〈スクリタsukṛta〉などの漢訳語であり,いずれも〈善業〉のことを指している。[業](カルマン)というのは,直接には外的な行為のことであるが,同時に,その行為が残す,実体ともいうべき潜在的な力のことも意味する。…
【ヒンドゥー教】より
…1カルパは1000マハーユガに相当し,1マハーユガはクリタユガ,トレーターユガ,ドバーパラユガ,カリユガから成り,後の[ユガ]は前のユガよりも人間の信仰・道徳性などにおいて低下しており,現在は前3102年に始まった暗黒期にあたるカリユガに当たっており,この期の終りに大帰滅が起こるといわれている。(2)業と輪廻 人間は死んで無に帰するのではなく,各自の[業]のために,来世において再び新しい肉体を得る。このように生死を無限に繰り返す。…
【輪廻】より
… まずインドでは,前8~前7世紀ごろからウパニシャッド哲学において種々の輪廻説が論じられた。そこに共通にみられる主張は,死後,生前の行為([業](ごう)=カルマン)によってその人の主体が他の生物の母胎に入るか,あるいは植物のようなものになる,というものであって,その転生のあり方は善因善果,悪因悪果の応報説にもとづいていた。この輪廻転生は迷いの状態とされ,宗教的実践や倫理的行為によって,生まれ変わり死に変わる生き方から解放されるという考え方がおこった。…
※「業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」