( 1 )「みあげ」「みやげ」の前後関係は明らかでなく、したがってその語源もはっきりしない。
( 2 )「みやげ」に「土産」の字をあてるようになったのは室町末以降と考えられる。
旅先や外出先でその土地の産物を求めて帰り,家族や餞別(せんべつ)をくれた者などに配る品,また人を訪問する際に持参するいわゆる手みやげをもいう。古くはつと(苞)と称し,〈家づと〉〈都のつと〉などと用いた。つとは納豆を包んだりするわらづとなどにその名をとどめているように,元は持ち運びに便利な包物のことを指した。《万葉集》などにみえる例では花や貝など自然の物が多い。みやげの語源には〈都笥〉〈宮笥〉〈屯倉〉〈都帰〉など諸説あり,また近年,〈見上げ〉すなわちよく見て選び差し上げることからの転とする説も示されたが,定説はない。ただ従来その内容から宮笥(みやけ)とする説が支持されてきた。笥(け)はいれもののことで,宮笥とは神から授かった器といった意味であり,また日本の贈答習俗の特徴の一つにオウツリと称し,贈物を入れてきた器に食物を少し取り残して返すならわしがあるが,これをミヤゲとかカエリミヤゲと呼ぶ地方もあることから,本来みやげとは神人相饗のため神に捧げたものを下ろしてきたものの意ではないかと解されている。またみやげに土産の字を当てるようになったのは室町末以降のこととされ,このころより土地の名産を強いて求めて贈る風が生まれた。南北朝のころには末の松山の松笠,塩釜のうつや貝,井手の蛙の日干し,長柄の橋の金くずなど,歌枕にちなんだ品もみえるがまだ自然の物が多く,室町末になって公家の伊勢参詣に編笠,裏無,扇,木綿,壺麻苧,小刀,毛抜きなど加工品が現れてくる。ただみやげの習慣が今日のように盛行するのは,その前提となる旅や交通の発達を抜きには考えられず,参勤交代の制が確立し街道が整備され,また先達(せんだつ)や御師(おし)の活躍で庶民の間にも社寺参詣の旅が普及する近世中期以降のことと思われる。普及したといってもかつての旅は,交通手段の未発達はもとより金銭的な面からもだれしもが容易に行えるものではなく,そこで庶民は伊勢講,善光寺講といった講を組織し,費用を積み立て講中の代表者を代参に立てる形式をとった。こうした集団の総意を負った旅において,代参人は参拝した神仏の御利益・恩恵を持ち帰って講員にわかつ義務があり,またそれを具象化したものがみやげであったといえる。これにはもっぱら御札や御守をはじめ縁起物の人形や玩具・絵草紙類また神薬などが用いられた。熊野などでは近世になると修験者が半僧半俗化しみやげ物を販売するようになり,のちに需要が拡大すると専業のみやげ物屋も生まれて門前町を形成した。また町方見物や湯治・名勝巡りなど旅の目的が多様化し大衆化するにつれて,菓子類などみやげ物の種類も広がっていった。京都の八橋,名古屋のういろう,東北地方のこけし,箱根の箱根細工など,地方の特産品にはみやげ物の発達で生産の伸張したものが少なくない。
→贈物
執筆者:岩本 通弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
字通「土」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
旅行先から持ち帰った物、また転じて、他家を訪問する際に持って行く物をいう。元来の意義は、宮笥と書くところからも、神詣(もう)での旅先で授かったお札(ふだ)とか、縁起物、その門前地の特産品などを贈って、詣でた寺社の神仏の恩恵を分かち与えるため、持ち帰った物を人々に配ることに土産の意味があった。もともと、神社や寺の祭礼や縁日は、市(いち)と関係が深く、参拝客が集まる所に自然に市も発達し、そこで社寺にちなんだ縁起物のほかに、その土地の産物が売買されたことは自然の成り行きであった。土産物にも、その土地の物産品が用いられるようになって、「土産」の字をあてるようになったとみられている。古くは信仰的な贈り物以外のものは「つと」といい、「家づと」「都のつと」などというふうに使われた。なお、嫁入り、聟(むこ)入りなどのときに持って行く金銭、持参金、土産金なども土産とよばれている。
[高野 修]
…これに対し地位にかかわりなく相手への援助を旨とする贈物は見舞と称される。また旅の帰りや訪問など人の移動に伴う贈物が土産(みやげ)であり,このほか祝福や感謝の印としての御祝や御礼など,日本の贈物には状況に応じて名目の区別がある。 贈物をする習慣は古今東西を問わず広く存在する行為であるが,ヨーロッパなどでは歴史的に都市の発達した中世以降,贈与慣行は貨幣経済に駆逐され衰退していったといわれている。…
※「土産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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