特別の身分関係・監督関係における紀律を維持するために,その関係に服する者の一定の義務違反に対して制裁を科する制度。その制裁を懲戒罰というが,これは刑罰とは目的・性質を異にするので,法的には両者の併科は可能である。懲戒には以下のような場合がある。
一般職の国家公務員・地方公務員については,その服務上の義務違反に対して,免職,停職,減給,戒告の4種の懲戒処分が定められている(国家公務員法82条,地方公務員法29条)が,詳しくは〈公務員〉の項目を参照されたい。また,裁判官や国・公立大学の教員等の懲戒については,特別の事前手続が定められている(憲法78条,裁判所法49条,教育公務員特例法9条等)。国会議員・地方議会議員の懲戒は懲罰と呼ばれる。
なお,公務員ではないが,公認会計士,税理士,公証人,司法書士等,国家の特別な監督に服する者にも懲戒の制度がある(公認会計士法29条等)。
執筆者:黒田 満
使用者が規律違反により経営秩序を乱した労働者に対して行う制裁である。その性質は,企業運営の円滑な遂行のための職場規律の維持・確保にかかわる秩序罰とされる。懲戒権の法的根拠については,大別して契約当事者である労使の合意に根拠を求める説(契約説)と,就業規則中の懲戒規定に法規範としての効力を認めるところに根拠を求める説(法規範説)とがある。懲戒処分の種類には,懲戒解雇,諭旨解雇,停職,出勤停止,減給,戒告,譴責(けんせき)をはじめ,きわめて多種多様のものがある。労働基準法は,単に減給についてのみその内容を制限するにすぎない(労働基準法91条)。ただ,同法は,使用者が就業規則に制裁規定を設ける場合にはその種類と程度を記載すべきことを命じている(89条1項9号)。また,労働者のいかなる行為が懲戒の対象となるか(懲戒事由)についても一般に就業規則に列挙されるが,就業規則に定めさえすればいかなる事由であっても懲戒処分をなしうるというわけではなく,あくまでも経営秩序違反行為に対してのみこれが許される。また,違反行為と現実になされた懲戒処分との間に相当性が認められない場合には,懲戒権の濫用として無効とされる。
執筆者:奥山 明良
学校における生徒等に対する教師の懲戒権については,学校教育法11条に,〈校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,……学生,生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし体罰を加えることはできない〉と定められている。また同法施行規則で,懲戒を加える場合,〈児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない〉とも規定している。したがって教師の懲戒は,あくまでも教育的効果を前提として,慎重な配慮のもとに行われることが必要である。学校における懲戒処分の種類は,退学,停学,訓告の3種が法定されており,この処分は〈校長がこれを行う〉(学校教育法施行規則)と規定されているが,これは,職員会議などで十分審議したうえでの決定を,校長が対外的に表示する趣旨と解される。
また民法では,親権者の監護・教育権を定める(820条)とともに,親権者は〈必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる〉(822条1項)とされている。アメリカのほとんどの州やイギリスの学校においては,一定の制約のもとでの体罰が容認されているが,最近はこうした教師の懲戒権のあり方に疑問を投げかける気運が強まってきている。
執筆者:浪本 勝年
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特別の監督関係ないし身分関係にある者に対し一定の義務違反を理由として科する制裁。典型的なものは一般職の国家・地方公務員に対する懲戒処分(国家公務員法82条、地方公務員法29条)である。その種類には戒告、減給、停職、免職の4種類があり、懲戒免職された者は退職金を受けられないほか、年金を減額される。懲戒事由は、法令違反(争議行為、職務命令違反、守秘義務違反、信用失墜行為など)、職務上の義務違反・懈怠(けたい)、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行、の三つである。職務遂行と関係ない私生活上の非行でも社会的評価に重大な悪影響を与えるものは懲戒事由にあたるとされている。懲戒処分をするには処分説明書を交付する必要があるが、事前に言い分を聞く告知・聴聞の手続については法律上規定がなく、判例の主流はこれを不要としてきている。会計事務職員が故意または重過失により著しく国に損害を与えたときは、会計検査院は監督者に対し懲戒処分を要求することができる(会計検査院法31条)。
このほか、裁判官(裁判所法49条)、会計検査官(会計検査院法6条)など特別職にはそれぞれ懲戒にあたる制度があり、公務員ではないが国の特別の監督に服する弁護士(弁護士法57条)、司法書士(司法書士法47条)、医師(医師法7条)、公証人(公証人法74条以下)、行政書士(行政書士法14条)などについても、監督官庁などによる懲戒ないしこれと同等の制度がある。
さらに、刑事施設被収容者、婦人補導院在院者、少年院在院者、学生・生徒・児童、子供に対しては、それぞれ監督ないし看護する者が、懲戒権を有している(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律150条、婦人補導院法11条、少年院法8条、学校教育法11条、民法822条)。ただし、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では懲罰とよんでいる。
[阿部泰隆]
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…その制度は明治憲法10条の天皇の官制大権と,19条の臣民就官能力の規定とに基づき,さまざまの天皇の勅令によって定められていた。つまり戦後の国家公務員法と異なり,明治憲法期には官吏制度全般を包摂した単一の法典はなく,任用,給与,服務,分限,懲戒などの各分野ごとに個別の法令が存在したのである。しかも官吏の国に対する勤務関係は私法上の雇傭契約関係とは異なり,公法上の倫理的隷属関係と理解されていた。…
…
[任用と欠格事由]
公務員たる地位は広く国民に門戸が開かれ,国民は平等に競争試験や選考を経て公務につくことができる(国家公務員法27条,地方公務員法13条参照)。ただし,(1)禁治産者および準禁治産者,(2)禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者,(3)懲戒免職処分を受けてから2年を経過しない者,あるいは,(4)日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し,またはこれに加入した者等は,公務員となることができない(国家公務員法38条,地方公務員法16条)。 任用とは,広義では,採用,昇任,降任および転任を含むが,狭義では,採用をさす。…
…児童・生徒・学生が在学する学校で,卒業以前に在学関係を終了させる行為をいう。一般には,懲戒処分(懲戒)としての退学をさす場合が多いが,自主退学や授業料の滞納による退学もある。公立義務教育諸学校においては,子どもの教育を受ける権利を保障する観点(義務教育)から,退学処分を行うことはできない(学校教育法施行規則13条3項)。…
…一定の教育目的をもって,子どもに加えられる肉体的苦痛をともなう懲戒のこと。体罰は,一定の苦痛を与えることによって,好ましくないと考えられる行為を抑制することを目的とするが,子どもの側から考えると,一定の行為をするかしないかの選択が,その行為に価値があるかないかという観点からではなく,肉体的苦痛を受けるか否かに左右されることになる。…
…具体的には,官吏と国家の公法上の勤務関係,国・公立学校の生徒と学校の関係などがあげられる。個人と国家の通常の関係(一般権力関係)においては法治主義が妥当し,国家が権力的に個人の自由を制限するようなときには法律の具体的な根拠が必要であり,限定的ではあれ明治憲法下でも行政裁判所の救済を受けることができたが,特別権力関係においてはその関係の目的の範囲内では法治主義は排除され,権力者は包括的な下命権を有し,服従者がその義務に違反するときは懲戒という制裁(その最も厳しいものが,免職,退学などである)を受けるべきものとされ,かつ裁判的救済は認められないとするものであった。 基本的人権の保障,法治主義の徹底を旨とする日本国憲法の下で,このような内容をもつ特別権力関係の概念が存続しうるかどうかに疑問がだされるようになり,現在ではこの概念を維持する学説も権力者の支配権の及ぶ範囲を限定し,また単純な内部規律の範囲を超えるもの(たとえば,学生の退学処分)については司法審査を認める等,一般権力関係と対比した場合概念の内容はかなり相対化されている。…
※「懲戒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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