②④⑤の意では室町時代後半から、「ぶげん」という語形も見られるが、江戸時代においては、「ぶんげん」が「身分や物事の程度」の意とそれの転じた「金持」の意を共に表わし、「ぶげん」は、「金持」だけを表わすという共存のしかたを見せた。明治時代に入っても「貧乏人が一夜の内に運を得まして富限者(ぶげんしゃ)に成りましたと云ふ」〔千両富〈禽語楼小さん〉〕(一八九三)のような例がみえる。
物事の程度や分量、物事を行う能力や限度、あるいは身分の程度や分際をいう。「ぶげん」とも読み、分限者などと使う。また、その置かれた立場のようすや経済状態もいい、とくに江戸時代には、財産・資産の程度をいい、その財産や資産を多く有している人、すなわち富豪や資産家をさしていうことばとして用いられる。さらにこの上をゆく富豪を長者と称してこれを区別している。
[棚橋正博]
法律上で分限とは公務員の地位をさす。公務員の地位に不利益な影響を与える行為を分限処分といい、非行などを理由に公務員の道義的責任を追及する懲戒処分を除いたものを総称する。分限処分をなしうる事由は多様であるが、広くは公務能率の維持および適正な運営を目的とする。分限処分の種類には免職、降任、休職、降給の4種がある。
分限免職・降任の事由は、「勤務実績がよくない場合」、「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えない場合」、その他「官職に必要な適格性を欠く場合」という職員側の事由のほか、いわゆる人員整理も認められている。休職には職員が刑事事件で起訴された場合になす起訴休職と、心身の故障のため長期の休養を要する場合の病気休職が公務員法に定められている。このほか、外国政府で働く場合など特別の休職事由がある。依願休職は認められないとされている。
一般職の公務員は以上の分限事由や懲戒事由にあたらなければ意に反して不利益処分を受けない身分保障を有するが、条件付採用期間中の職員や臨時職員には身分保障の規定はない(国家公務員法75条以下、地方公務員法27条以下)。
[阿部泰隆]
公務員の身分に関する基本的規律をいうが,とくに,公務の能率的運営を確保するために法令に基づいて行われる公務員に対する不利益処分をさすことが多い。具体的には身分の喪失を含む身分上の変動(免職,休職,降任,降給など)を意味している。懲戒が公務秩序の維持を目的とする制裁であるのに対し,分限は,公務の能率的運営の確保を目的としている点で異なっている。旧憲法下では,文官分限令(1899年公布の勅令)に基づいて行われた官吏の身分上の変動(免官,休職,転職等)の総称であった。
分限制度について,国家公務員法は75条以下(地方公務員法では27,28条)で定めているが,公務員の意に反する身分上の変動は法律または人事院規則に定める事由による場合でなければ行いえないとして,分限制度は公務員の身分保障の意味も有している。
分限事由のおもなものは,〈勤務実績がよくない場合〉〈心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合〉あるいは〈その官職に必要な適格性を欠く場合〉などである(国家公務員法78条,地方公務員法28条)。
執筆者:佐藤 英善
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…時代と境遇とにより,何によって示されるかは違うが,鎌倉時代までは所領の広さや家人,郎従の数で示され,室町時代以後は所領の高が中心で,江戸時代の農民は持高,商人は広く財産をもって示される。武士はその分限に従って軍役を勤めることが求められ,分限相応に行動することがよしとされた。そこから分限の語は〈身の程〉とか,〈分際〉とかの意味でも使われた。…
…近世大名の家臣の禄高,役職,名などを記した帳面。分限とは富,財産のことで,さらに身分や地位を意味し,中世においても惣領が庶子に所領の大きさに応じて軍役を割り当てる際に,〈分限に応じ〉というように使われている。分限帳の内容は,作成の目的によって,(1)家臣団の軍事的配属を示す一種の陣立書ともいうべきもの,(2)番方(番方・役方)の家臣については上記の方法で記しながら,これと並列して役方や江戸詰などの家臣の日常行政的配属を別に記したもの,(3)大名が家臣団に役金,米を賦課する際の台帳として作成されたもの,(4)家臣に給所(知行地)を割りつける際の台帳として作成されたもの,などに分類される。…
…しかし,その用法は微妙な含意をもつことになる。〈それ天下の四民士農工商とわかれ,各々其職分をつとめ,子孫業を継で其家をとゝのふ〉(三井高房《町人考見録》),〈下に居て上をしのがず,他の威勢あるを羨まず,簡略質素を守り,分際に安んじ〉(西川如見《町人囊》),〈家業を専にし,懈る事なく,万事其分限にすぐべからざる事〉(1711年(正徳1)の高札,手島堵庵《会友大旨》)。これらは階層秩序にかかわる通常の意味の例である。…
※「分限」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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