岐阜県飛騨(ひだ)地方の西部、高山市荘川(しょうかわ)町地区、大野郡白川村などを含む庄川(しょうがわ)上流域の一帯をさす。秘境として知られていたが、現在は観光・電源開発が盛ん。歴史をさかのぼると、庄川最上流の六厩(むまや)(荘川町地区)の旧白山(はくさん)神社からは平安時代後期の古鏡が出土しており、また、1183年(寿永2)の倶利伽羅(くりから)峠の戦いで敗れた平家の落人(おちゅうど)が住み着いたという伝説もある。1265年(文永2)親鸞(しんらん)の弟子嘉念坊善俊(かねんぼうぜんしゅん)が鳩谷(白川村)に道場を開き(のちの照蓮寺)、浄土真宗の本格的な布教が始まった。その後、1460年(寛正1)内ヶ島将監(しょうげん)がこの谷へ入り、1475年(文明7)全白川郷を支配した。しかし、同氏は1585年(天正13)の大地震で、帰雲山(かえりくもやま)の崩壊とともに突然滅亡した。江戸時代には金森氏領、のち天領となった所と、一部照蓮寺領として続いた所がある。明治、大正時代までは交通不便な秘境で、厳しい自然条件のもとに生まれた、特色のある大家族制度が残存した。かや葺(ぶ)きの大きな切妻合掌造(きりづまがっしょうづくり)の民家は有名である。この大家族制度は、家長が絶対の権限をもち、家長と相続人たる長男にのみ正式結婚が認められ、次三男以下は分家も正式結婚も許されず、皆家族として、焼畑耕作や養蚕に従事しながら、1軒に30~40人が生活した。
第二次世界大戦後、電源開発の気運が急に高まり、御母衣ダム(みぼろだむ)などの建設に伴い、水没地域の多数の住民は立退き離村を余儀なくされた。一方道路は岐阜と高岡を結ぶ国道156号が整備され、石川県に通ずる白山スーパー林道(現在は白山白川郷ホワイトロード)も建設された。さらに東海北陸自動車道の白川郷、荘川の両インターチェンジが開設されている。ダム補償によるスキー場、ゴルフ場、別荘地の建設や役場など公共施設の改築も行われた。白川郷は、五箇山(ごかやま)(富山県)とともにその合掌造集落が、1995年(平成7)、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界遺産の文化遺産として登録されている。荻町(おぎまち)(白川村)などの切妻合掌造の民家、日本初の大規模のロックフィルダム御母衣ダム、白水ノ滝、牛丸・尾上郷(おかみごう)のジュラ紀化石産地があり、白川村の民謡「古大尽(こだいじん)」「どぶろく祭」とともに知られている。西には白山国立公園も連なっており、白山麓(ろく)の白川村平瀬には村営温泉も開設されている。
[上島正徳]
『飛越合掌文化研究会著『世界遺産の合掌造り集落 白川郷・五箇山のくらしと民俗』(1996・岐阜新聞社)』▽『合田昭二編『白川郷 世界遺産の持続的保全への道』(2004・ナカニシヤ出版)』▽『宮沢智士著『白川郷合掌造Q&A』(2005・智書房)』
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
岐阜県北西部,庄川とその支流の渓谷部の地域名で,大野郡白川村,高山市の旧荘川村と旧清見村の一部からなる。近世後期から明治末期ごろまで家長と長男以外は結婚を許されない大家族制度がとられたところで,茅(かや)葺きの大きな合掌造の民家が今も残ることで有名。かつては近代交通から隔絶した秘境であったが,御母衣(みぼろ)ダム(1961完成)はじめ多くの発電用ダムが建設され,岐阜市方面からの国道156号線,旧高山市方面からの国道158号線が整備されて交通も便利となった。重要文化財の旧遠山家住宅,荻町の合掌造の集落などが保存され,白川八幡宮などで行われる〈どぶろく祭〉では郷土芸能〈古大尽〉が奉納される。白山(2702m)への登山口であり,山地を横断するスーパー林道も開設された。近年はスキー場やゴルフ場クアハウスなども開設され,林業地から観光地への転換が進んでいる。1995年〈白川郷・五箇山の合掌造り集落〉として世界文化遺産に登録された。
執筆者:高橋 百之
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…庄川の上流,両白山地内に位置し,西は白山を境に石川県,北は人形山を境に富山県と接する。南隣の荘川村とともに白川郷と呼ばれ,大家族制と合掌造を特徴とする奥飛驒の秘境であった。庄川沿いを国道156号線が通じ,流域の河岸段丘上に集落と耕地がある。…
※「白川郷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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