特発性肺血鉄症(読み)とくはつせいはいけってつしょう(英語表記)Idiopathic pulmonary hemosiderosis

六訂版 家庭医学大全科 「特発性肺血鉄症」の解説

特発性肺血鉄症
とくはつせいはいけってつしょう
Idiopathic pulmonary hemosiderosis
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 肺胞腔(はいほうくう)(空気を入れる袋状のところ)内に出血を繰り返す病気で、血痰(けったん)喀血(かっけつ)が認められます。前述グッドパスチャー症候群や全身血管炎症候群との区別が問題になりますが、本疾患では腎障害はなく、血管炎もありません。これまで250例ほどの報告があり、80%が小児です。

原因は何か

 原因は不明です。病因に関して、免疫学的機序(仕組み)が関係している可能性が指摘されています。すなわち、牛乳に対する抗体をもつ症例、自己免疫性溶血性貧血特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)の合併例などが報告されています。

 また、吸収不良症候群であるセリアック病に合併する肺血鉄症があります。また、家族内発症やダウン症との合併例の報告もあります。セリアック病とは、小麦などに含まれるグルテングリアジンに対する抗体が認められる小腸の疾患です。このセリアック病では、グルテンを含まない食事療法により合併した肺血鉄症がおさまったとの報告があり、食物アレルギーが関係しているという意見があります。

症状の現れ方

 血痰喀血(せき)呼吸困難、頻脈(ひんみゃく)がみられます。

検査と診断

 診断は、ヘモジデリン(赤血球由来の黄褐色顆粒)を貪食(どんしょく)(食べること)したマクロファージの存在を証明し、ほかの肺出血の原因になりうるグッドパスチャー症候群や全身血管炎症候群などを除外して行います。血液検査では鉄欠乏性貧血が認められます。

治療の方法

 治療には、グッドパスチャー症候群に準じた方法がとられます。自然に治る例もありますが、小児では発症から数年で死亡することが多く、予後は不良です。

千田 金吾

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「特発性肺血鉄症」の解説

とくはつせいはいけつてつしょう【特発性肺血鉄症 Idiopathic Pulmonary Hemosiderosis】

[どんな病気か]
 肺の中に出血がおこる原因には、肺の外傷、肺がん、肺結核(はいけっかく)、左心不全(さしんふぜん)などがあります。ところが、以上のようなはっきりした原因もなく、肺胞(はいほう)の中にくり返し出血がおこり、だんだん肺の組織に線維(せんい)が増えてかたくなる(肺線維症(はいせんいしょう))のが、特発性肺血鉄症です。特発性というのは原因不明という意味です。
 出血量は、少し血液がたんにまじる程度から、大量の血を吐(は)くものまであります。
 多くの場合、くり返す肺出血の結果、鉄欠乏性貧血がおこります。
 また、X線写真には、肺に血液がしみ出した(浸潤(しんじゅん))陰影がみられます。
 ふつう、乳児または10歳以下の子どもが発病し、多くは、悪化と改善をくり返しながら、だんだんに呼吸困難が進みます。おとなになって発病することもあります。
 電子顕微鏡で検査すると、肺の毛細血管(もうさいけっかん)の基底膜(きていまく)が厚くなったり、断裂(だんれつ)しているという報告がありますが、その原因は不明です。
[検査と診断]
 以上のような特徴とともに、たんや、気管支にチューブを入れて洗浄(せんじょう)(気管支肺胞洗浄(きかんしはいほうせんじょう))した液の中に、鉄を取り込んだマクロファージ(これを担鉄細胞(たんてつさいぼう)という)が多数みられれば、ほぼ診断がつきます。
[治療]
 原因不明ですから、確実な治療法はありません。しかし、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬、クロロキン、シクロホスファミドなど、免疫のはたらきを抑える薬を使用して、改善した例が報告されています。

出典 小学館家庭医学館について 情報