日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルギン酸」の意味・わかりやすい解説
アルギン酸
あるぎんさん
alginic acid
藻類の細胞間にある粘液多糖類。構造上はポリウロン酸の一種。ポリウロン酸とは、ウロン酸が多数結合したものをいい、ウロン酸はアルドース(アルデヒド基をもつ糖)のアルデヒド基とは反対の末端の炭素がカルボキシ基(カルボキシル基)-COOHとなった構造をしたものの総称である。D-マンノース(アルドースの一種)の6位の炭素がカルボキシ基になったものをD-マンヌロン酸といい、L-グロース(アルドースの一種)の6位の炭素がカルボキシ基になったものをL-グルロン酸という。ウロン酸もアルドースと同じように、α(アルファ)-ピラノース構造とβ(ベータ)-ピラノース構造の異性体がある(マンナンの項参照)。
アルギン酸はβ-ピラノース型のD-マンヌロン酸とα-ピラノース型のL-グルロン酸が、1番目の炭素のヒドロキシ基-OHと4番目の炭素のヒドロキシ基で脱水結合(脱水縮合)してできたポリウロン酸である。β-1,4-D-マンヌロノ-α-1,4-L-グルロノグリカンと表記する。D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)の混合比率は起源や藻体部分によって異なるが、いずれも、Mブロック(平均10~15のMが結合)、Gブロック(平均25~30のGが結合)、混合ブロックから構成されている。
アルギン酸はカルシウム、マグネシウムその他の塩の形で褐藻(コンブ、ワカメなど)その他藻類に細胞壁粘質多糖として存在している。ある種の細菌は部分的に酢酸エステル化されたアルギン酸を分泌する。遊離のアルギン酸は水に不溶、アルカリに可溶。褐色藻の細胞壁のカルシウムやマグネシウム塩を希アルカリで抽出して調製する。
アルギン酸のナトリウム塩、カリウム塩、プロピレングリコールエステルは水溶性でアルギンとよばれる(狭義のアルギンはナトリウム塩をさす)。これらは水に溶けて粘稠(ねんちゅう)なコロイド溶液になるので多方面に利用される。ナトリウム塩は食品添加物としてアイスクリームやドレッシングの安定剤、ソフトドリンクの乳化剤、ジャムやマヨネーズの増粘剤などに、また医薬品として止血剤、軟膏(なんこう)などに、その他繊維加工剤、水性塗料にも使われる。アルギン酸ナトリウムにカルシウムイオンを作用させるとゲル化するので、アルギン酸繊維、人造イクラの製造などに、また、固定化酵素(不溶性の担体や高分子ゲルなどに固定した酵素のこと。酵素反応を連続的に行うことができ、反応後に酵素を回収することができる)の担体として利用される。
[徳久幸子]
『能登谷正浩編著『海藻利用への基礎研究――その課題と展望』(2003・成山堂書店)』