インド・イスラム美術(読み)インド・イスラムびじゅつ(その他表記)Indo-Islamic art

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インド・イスラム美術」の意味・わかりやすい解説

インド・イスラム美術
インド・イスラムびじゅつ
Indo-Islamic art

インド亜大陸におけるイスラム教世界で生れた美術。北インドに最初のイスラム政権が樹立された 12世紀末に始り,ムガル朝治下の 16~17世紀頃全盛をきわめ,現代にいたるまで通算約 800年間の歴史をもつ。西アジアや中央アジアのイスラム美術から絶えず影響を受けたが,インド固有のヒンドゥー教美術の影響も加わって,独自の特性が生れた。建築ではモスク墓廟,城,宮殿などに壮大なものが多い。最古遺構デリークトゥブ・モスクで,設計はイスラム的でありながら,柱などにヒンドゥー教寺院の古材を転用し特異な雰囲気をもっている。ムガル朝時代の例ではデリーのフマーユーン廟,デリー城およびアーグラ城アーグラのタージ・マハル,ファテプルシークリなどが名高い。これらは赤砂岩や白大理石で内外を装い,多弁形アーチや球根状ドームを繁用し,壁面に精細な浮彫象眼装飾を施した華麗な建築である。北インドのこれら主流様式とは別に地方的な様式も盛衰し,パンジャブ (12~14世紀) ,カシミール (15~17世紀) ,ジャウンプル (14~15世紀) ,ベンガル (13~16世紀) ,グジャラート (14~16世紀) ,マールワ (15~16世紀) ,デカン (14~17世紀) などには,それぞれ特色ある建築が現れた。ビジャプールのゴル・グンバズはデカン様式の代表作として有名。一方,彫刻の分野ではイスラムの偶像否定精神により人物,動物の具象的表現が忌避されたため,見るべきものが少い。しかし抽象的な幾何学文様や植物文様を浮彫,透かし彫,象眼などによって表現する石や木を用いての工芸は大いに発達し,建築装飾あるいは工芸品として盛んに制作された。金工では金,銀,青銅,鉄などを素材に浮彫,透かし彫,象眼のほか,鋳造,打出し,七宝などの技術を駆使し,ときには宝石などを加えて精巧な器物装身具武具などが作られた。絵画ではムガル朝宮廷の保護のもとに発達したミニアチュール (細密画) が特に重要で,ペルシア方面から移住した画家たちの作風を継承しつつ,克明な描線,陰影を伴う豊かな彩色,写実的表現を特徴とする一派が形成された。題材としては戦闘などの歴史的事件,宮廷生活の情景,伝説的な物語などが好んで選ばれ,肖像画も描かれている。他方,染織の分野では手描きあるいは木版によって文様を施すいわゆるインド更紗や,豪華な配色の絹織物が発達した。またカシミールを主産地とする毛織物や絨毯も有名。

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