日本大百科全書(ニッポニカ) 「コキンボ石」の意味・わかりやすい解説
コキンボ石
こきんぼせき
coquimbite
第二鉄の含水硫酸塩鉱物。同質異像相パラコキンボ石paracoquimbiteは、コキンボ石の単位格子がc軸方向に三倍になった一種の多型とみることもできる。硫化鉄鉱物を多産する金属鉱床や堆積(たいせき)岩中に産し、おもに黄鉄鉱に由来するFe2+(第一鉄イオン)やS2-(硫化物イオン)の完全酸化の産物である。実験室では他の加水物として12H2O、11H2O、10H2O、7.5H2O、6H2O、4H2O、3H2O、2H2Oなどが知られているが、天然に産するのは11H2Oのクェンシュテット石quenstedtite、7.5H2Oのコーネル石kornelite、6H2Oのローセン石lauseniteの3種である。乾燥気候地域や鉱山の坑内で特定の温度条件下にある部分、あるいは火山噴気活動の盛んな地域にみられる。したがって硫化鉄鉱物が化学組成の根源となっている場合は、硫化鉄鉱物が残存していることはない。自形は六角短柱状で部分的に錐面(すいめん)が発達することもある。多く塊状あるいは粒状。可溶性。
日本では北海道紋別(もんべつ)市鴻之舞(こうのまい)鉱山(閉山)の坑道の一部から他の可溶性含水硫酸塩鉱物とともに産する。共存鉱物はパラコキンボ石をはじめコピアポ石copiapite(化学式Fe2+Fe3+4[OH|(SO4)3]2・20H3O)、ボルタ石voltaite(K2Fe2+5Fe3+4[SO4]12・18H2O)、レーマー石römerite(Fe2+Fe3+2[SO4]4・14H2O)、ゾモルノク石szomolnokite(Fe2+[SO4]・H2O)などがある。同定は独特の淡紫色による。記載には「紫水晶のような(amethystine)」という形容詞が使われている。可溶性。命名は原産地とされているチリのコキンボCoquimbo地方にちなむ。
[加藤 昭 2016年8月19日]