改訂新版 世界大百科事典 「ハニ族」の意味・わかりやすい解説
ハニ(哈尼)族 (ハニぞく)
Hā ní zú
中国の少数民族の一つ。人口約125万5000(1990)。チベット・ビルマ語族のイ(彝)語系支派に属する。雲南省南部哀牢山と蒙楽山を中心とする山岳地帯に居住する。ハニ族は地域的偏差に富むが,方言からは3地域に大別できる。すなわち,紅河ハニ族イ族自治州に分布する〈ハニ〉系,墨江を中心とする思茅地区の〈ピヨ(碧約)〉系,〈ホニ(豪尼)〉系,シーサンパンナ(西双版納)地区の〈アイニー(僾尼)〉系である。なお東南アジアに南下した一派はアカAkha族として知られている。歴史的には3世紀の〈和夷〉や唐・宋時代に現れた烏蛮の一派〈和蛮〉にその系譜をたどりうると思われるが,大理国(937-1254)の時代,その地で勢力のあった和蛮は烏蛮三十七蛮部の7部族として紅河地域に台頭し,なかでも因遠部は最強でみずから〈羅槃国〉と称した。明・清時代には,これら部族の土酋が土司土官に任ぜられた。清末から民国時に至ってはこれら土司や地方官の暴政に対し,しばしば少数民族の反乱が起こっている。なかでも1918年の女性の英雄タシャアポ(多沙阿波)は有名である。
生業は山地による焼畑耕作であったが,近年では梯田式の水田耕作に移行している。主食は米,トウモロコシ,コーリャン,豆類である。綿花,藍靛(らんてん),茶などをも栽培している。とくに茶の栽培は有名で,シーサンパンナ・アイニーの聚居する南糯(なんだ)山は普洱(ふじ)茶の名産地である。生活は村寨を単位とし,各村寨の出入口には〈竜巴門〉という寨門がある。この門は部落の守護神の保護と村民間の相互扶助の象徴的建造物で,毎年2回新門を建て祭祀する。彼らの社会は始祖から連綿と父子連名でつながる父系社会で,交差いとこ婚と土葬を優先する。宗教,信仰は精霊崇拝と祖先崇拝を基本とし,天神,地神,竜樹神,寨(村)神,家神(祖先神)等に対し定期的に祭祀を行う。なかでも天神〈アオマ〉は女性で万物の創造者,竜樹神〈アマアツォ〉は最大の保護神で正月に盛大な祭りを行う。このほかには6月の〈クチャチャ〉祭という農耕祭がある。これら祭事をつかさどるのが〈ベイマ〉と呼ばれる巫師と〈ミグ〉といわれる祭司である。ハニ族は,日常の生活においても歌舞が盛んに行われ,豊富な口誦伝承を保持し語る。
執筆者:栗原 悟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報