パリ協定(読み)ぱりきょうてい(英語表記)Paris Agreement

翻訳|Paris Agreement

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パリ協定」の意味・わかりやすい解説

パリ協定(地球温暖化対策)
ぱりきょうてい
Paris Agreement

京都議定書に続く温暖化対策のための新たな国際枠組み。2015年12月にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議COP21)において採択され、2016年11月に発効した。2020年末に第二約束期間が終了した京都議定書にかわり、2021年からパリ協定の下の削減義務などが施行された。

 パリ協定は、世界の平均気温の上昇を2度以内に抑えるという目標に加えて1.5度という努力目標も設定し、その目標に向けた温室効果ガスの排出削減行動をすべての国に義務づけている。各国は、科学性に基づいて自国の削減目標を設定、提出し、5年ごとに更新、また共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、評価を受けなければならない。なお、先進国には、排出削減の率先行動とともに、資金および技術面での開発途上国支援が求められている。

 各国の目標達成に際しては、共同実施、削減量の国際移転、森林による吸収量の算入などが認められている。とくに、REDD+(レッドプラス)(開発途上国において、森林の減少・劣化を防止して温室効果ガスの排出量を削減することに加えて、森林保全や植林を推進して炭素貯蔵量を増加させること)が重視されており、成果に基づく支払い方式が推奨されている。

 他方で、適応(上記の削減や抑制をしても生じてしまう気候変動による悪影響への対策)については、カンクン適応枠組み(2010年12月にメキシコのカンクンで開催の国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議〈COP16〉で採択されたカンクン合意によって設立された)に基づく行動、国別計画の策定、また、気候変動による損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム(2014年発足)の活用のほか、パリ協定では先進国による資金提供とともに開発途上国にも自主的な資金提供、関連技術の開発・移転の促進などが求められている。そのほか、遵守委員会の設置、2023年から5年ごとの目標達成評価なども定められている。

 なお、アメリカはパリ協定から離脱していたが2021年はじめに復帰し、また、ほかの国々も自国の削減目標の引上げに努めている。日本も、2020年(令和2)10月に2050年度目標を実質ゼロに定めるとともに、2021年4月には、2030年度目標を2013年度比でそれまでの26%から46%へと引き上げた。

[磯崎博司 2021年9月17日]


パリ協定(西ヨーロッパ連合)
ぱりきょうてい
Paris Agreements

1954年10月23日、パリにおいてベルギー西ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルクオランダおよびイギリスの間で結ばれた協定。第二次世界大戦後の東西対立の激化に伴い、アメリカなどは西ドイツの再軍備を強く望み、西側に組み入れることを願った。しかし、西ドイツの台頭を恐れるフランス政府は、西ドイツの軍事力のコントロールを図ってヨーロッパ防衛共同体(EDC)を設けようとしたが、皮肉なことに自国の議会がこれを拒否したため失敗に終わった。その直後、この事態を収拾するためにイギリスの首唱によってパリ会議が開かれ、パリ協定が締結された。その内容は、西ヨーロッパ連合WEU)の創設、西ドイツの主権回復と同連合下での再軍備、西ドイツおよびイタリアの北大西洋条約機構(NATO(ナトー))への加盟などであった。この協定は1955年5月に発効した。

 同協定により設立されたWEUは拡大を続けたが、マーストリヒト条約の改正、とりわけリスボン条約により共通外交安全保障政策が強化されたのに伴い、同連合の存在意義が希薄になり、パリ協定は2011年7月末に失効することとなった。

[岡村 堯 2016年11月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パリ協定」の意味・わかりやすい解説

パリ協定
パリきょうてい
Paris Agreement

2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを定めた協定。2015年12月パリで開催された「気候変動に関する国際連合枠組み条約第21回締約国会議」(COP21)で採択された(→気候変動枠組条約)。2016年11月発効。地球温暖化対策に先進国発展途上国を問わず,すべての国が参加し,世界の平均気温の上昇を産業革命前の 2℃未満(努力目標 1.5℃)に抑え,21世紀後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とする。締約国は削減目標を立てて 5年ごとに見直し,国際連合に実施状況を報告することが義務づけられた。また,先進国は途上国への資金支援を引き続き行なうことも定められた。
パリ協定発効以降,目標達成に向けた各国の状況にはばらつきがある(→二酸化炭素排出量の削減)。中国政府は,同国の排出量削減が大きく前進し,2020年までの削減目標を 2017年にすでに達成したと発表した。対照的にヨーロッパ連合 EUは 2018年,全加盟国が目標を達成できなかったと発表。最も進展がみられたスウェーデン,ポルトガル,フランスでも,2020年目標の 2018年時点での達成率はそれぞれ 77%,66%および 65%にとどまった。日本は,2017年度の排出量が 2005年度比 6.5%減となり,「2020年度に 2005年度比 3.8%削減する」という短期目標は達成している。アメリカ合衆国の状況は明らかにされていない。
二酸化炭素 CO2排出量は増加し続けていると指摘する国際調査機関は少なくない(→二酸化炭素濃度の増加)。アメリカの調査会社ロジウム・グループによると,アメリカの排出量は 2018年に前年より 3.4%増加したという。一方,国際的な研究プロジェクトであるグローバル・カーボン・プロジェクトの報告によれば,2014年から 2016年までほぼ横ばいだった世界全体の CO2排出量が,2017年には 1.6%,2018年には 2.7%増加した。
2017年6月,アメリカのドナルド・トランプ大統領がパリ協定から離脱する意思を表明した。2019年7月時点での署名・批准国は 185。

パリ協定
パリきょうてい
Paris Agreement

西ドイツの主権回復を中心に締結された一連の協定。西ドイツの参加が予定されているヨーロッパ防衛共同体 EDC条約 (1952年5月 27日調印) が 54年8月 30日フランス国民議会で批准を拒否されて未発効に終ったため,これに代ってつくられたもの。同年 10月3日のロンドン協定で確認され,続いてパリで西側9ヵ国外相会議が開かれ,同月 20日,ドイツ条約とほとんど同一の内容の「ドイツ連邦共和国における占領制度の終結に関する条約」,同月 21日「ドイツ連邦共和国における外国軍隊の駐留に関する協定」および「修正ブリュッセル条約 (西欧同盟条約) 」,同月 22日「西ドイツの北大西洋条約加盟文書」,10月 23日「ザール協定」としてそれぞれ調印された。これらは一括してパリ協定と呼ばれた。 55年5月5日発効。これによって西ドイツは主権を回復するとともに,北大西洋条約機構 NATOへの加盟を承認された。またブリュッセル条約 (48年3月調印) を拡大して西ドイツ,イタリアを加えること,西ドイツの再軍備なども決定された。 (→ドイツ条約 )

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