地震に伴って地表に現れた断層のこと。地震は地下で断層がずれ動いて発生するが、地震断層の大部分は、その断層(震源断層という)の一部が地表まで達したものである。そのほか、大地震の振動や地下でのずれのために地表付近の岩盤に二次的に生じた断層もある。後者は一般に小規模である。
概して地震の規模が大きいほど、地震断層の長さやずれの量が大きい。日本の内陸の地震の場合、地震断層は地震がマグニチュード7~8のときに出現し、その長さは20~80キロメートル、ずれの量は1~8メートルくらいである。
明治以降の大地震で出現した顕著な地震断層としては、根尾谷(ねおだに)断層(濃尾(のうび)地震、1891年)、千屋(せんや)断層(陸羽(りくう)地震、1896年)、郷村(ごうむら)断層(北丹後地震、1927年)、丹那(たんな)断層(北伊豆地震、1930年)、鹿野(しかの)断層(鳥取地震、1943年)、深溝(ふこうず)断層(三河地震、1945年)、石廊崎(いろうざき)断層(伊豆半島沖地震、1974年)、野島断層(兵庫県南部地震、1995年)などがある。
[松田時彦]
『佐藤良輔編著『日本の地震断層パラメター・ハンドブック』(1989・鹿島出版会)』▽『中田高・岡田篤正編『野島断層――写真と解説 兵庫県南部地震の地震断層』(1999・東京大学出版会)』
地震のときに地表に変位(食違い)の現れた記録のある断層をいう。ふつう地盤の良否には関係なく連続的に現れるもので,軟弱な地盤や斜面にだけ見られる地割れや陥没などは,地震断層とはいわない。垂直変位の大きな地震断層は,しばしば断層崖をつくる。横ずれの変位が卓越すると,道路や畑のうねなどを屈曲させるほか,断層自体の一般方向とは斜交して規則的に並んだ亀裂群として現れることも多い。変位が小さかったり,軟らかい地層が厚いところでは,緩やかな地表のたわみとして見られたり,なかには地震後の測量ではじめて変位したことのわかった例(福井断層)もある。
地震断層が科学的に記録されたのは,1891年濃尾地震のときの根尾谷断層が世界でも最初で,日本ではそれ以来明瞭なものが12例ほど知られている(表)。世界では,アメリカのサン・アンドレアス断層やトルコの北アナトリア断層などが有名で,これまでに陸上で100ヵ所以上の断層が科学的に報告されている。
多くの地震断層を調査した結果,それらは地震のときにはじめて生じた断層ではなく,もともと存在していた断層が再活動したもの,つまり活断層であり,また地震時の運動はその断層の過去の運動の向きと同じであることがわかった。一方,地震との関係では,マグニチュードM7以上の浅い地震のときにはたいてい現れていること,Mの大きい地震ほど一般に断層の長さも変位量も大きいこと,地震学的に推定された地下の断層(震源断層)の位置,運動の大きさ,向きなどとも比較的よく合うことなどが知られた。これらのことから,多くの地震断層は,地震を起こした地下の断層運動が直接地表まで達した結果であると考えられている。しかしなかには,震源断層とは直接関係のないものもある。地震断層は,活断層から将来の地震の大きさ(M),頻度,被害等を予想する手がかりを与えるものとして貴重である。
→活断層 →地震
執筆者:垣見 俊弘
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(阿部勝征 東京大学教授 / 2007年)
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…それまで断層とは,過去の地質時代に岩石がずれ動いたことを示す単なる痕跡と考えられていたのが,このとき,断層のなかには現在もまだ活動をやめていないもの,したがって将来にも活動するかもしれないものもある,という考え方が生まれた。このように,活断層という概念は,もともとはサン・アンドレアス断層や根尾谷断層のような地震断層から導かれたのであるが,これと同様な特徴をもつ地質学的にはごく若い時代まで活動をした断層は,地震の際に動いたという記録はなくても,将来活動する可能性があると考えるようになった。もちろん,地殻中に見られる大小無数の断層のうち,活断層はそのごく一部であって,他の大部分は過去の地質時代に活動を終えている。…
…(3)活動の状態による分類 断層のうち地質学的に最近の時代(おおむね第四紀後期)に繰り返し活動し,今後も活動する可能性のある断層を活断層といい,地震予知のうえで注目されている。断層が特定の地震に伴って活動したことが明らかな場合,その断層を地震断層という。1930年の北伊豆地震で活動した丹那断層や1891年の濃尾地震で活動した根尾谷断層などがその例である。…
※「地震断層」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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