出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
スペイン出身の神学者、イエズス会士。1588年にリスボンで出版した恩寵(おんちょう)と自由意志に関する著作『コンコルディア』Concordiaは神学者の間に永続的な論争を引き起こした。モリナによれば、神は恩寵とともにある人間の自由な行為を誤りなく予知するが、神の予知は人間の意志を決定せず、人間の自由意志の恩寵との協力が存在する。したがって恩寵の効果は神の誤りない予知には帰せられるが、恩寵そのものには帰せられず、人間の行為に対して外的である。人間の自由意志に力点を置くこのモリニズムとよばれる所説は、神の恩寵の普遍性を主張するトミスト(トマス主義者)たちの説と対立したが、またスアレスを含む多くの支持者を得ている。
[宮内久光 2017年12月12日]
スペインの神学者。イエズス会に入り,コインブラ,エボラ,マドリード大学で哲学や神学を教えた。モリナが唱えた〈中間知scientia media〉(被造物の将来における自由な行為について神が有する知識)の説は,恩寵と自由意志に関する論争において,人間の自由を最大限に尊重しつつ,神による将来のできごとの予知や預定,および恩寵の有効性を説明する試みとして大きな影響を及ぼした。
執筆者:稲垣 良典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…また半ペラギウス主義は,人間は自由意志によってみずからを恩寵を受けるにふさわしい状態に置きうると説く。このような立場はアウグスティヌスを先導とするキリスト教神学の展開のなかで退けられたが,16世紀以降,恩寵と人間的自由の関係をめぐって激しい論争が起こり,バニェスD.Báñez派が救いへと導く人間の自由な行為は恩寵によって有効に発動させられると説いたのに対して,モリナ派は人間的自由をより積極的に弁護する必要があるとして,神の摂理・預定と人間的自由の両立可能性を説明するための〈中間知〉の理論を提示した。神の絶対的な恩寵や摂理が人間の自由を破壊せず,かえって後者を真の自由たらしめるという真理は人間理性によっては測りがたい神秘であり,これを説明しつくそうとする試みは神に対する真実の信仰とは相いれないといえる。…
※「モリナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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