発色団としてアゾ基-N=N-を有する染料で、天然には存在しない。合成法は比較的容易で、まず芳香族第一アミン(ジアゾ成分)を塩酸と亜硝酸ナトリウムによりジアゾ化し、ついでフェノール類や芳香族アミン類(カップリング成分)とカップリングさせる。ジアゾ成分とカップリング成分の組合せを変えることにより、多種類の染料を合成することができる。特殊なアゾ染料には、芳香族アミンを二分子酸化縮合して合成されるものもある。合成染料の半数以上が、アゾ染料に属している。カップリング成分として、ベンゼン環をもつものが主要であるが、ピラゾールやチアゾールなどのヘテロ環をもつものもある。アゾ基1個のものをモノアゾ染料、2個のものをビスアゾ染料、3個のものをトリスアゾ染料という。アゾ基の数が増すほど共役二重結合系が長くなり、深色となる。合成繊維のように、疎水性で緻密(ちみつ)な構造の繊維の染色には、分子が比較的に小さく、親水基をもたないモノアゾ染料が用いられる。水溶性のビスアゾ染料以上のものは、分子間力が強く、水溶液においてコロイドとなり、木綿に対して親和力をもつので、直接染料に用いられる。直接染料に用いられるビスアゾ染料のなかで、ベンジジンの2個のアミノ基をそれぞれ塩酸中で、亜硝酸ナトリウムによりジアゾ化(テトラゾ化という)して、適当なカップリング成分と反応させたものは、安価で、しかも青から黒の深色を出しうるので多量に用いられていたが、ベンジジンの発癌(がん)性が明らかになった1970年代に生産が停止され、代替として、トリジン(2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル)系の染料が開発された。アゾ基のオルト位(隣の位置)にヒドロキシ基-OH、メトキシ基-OCH3、アミノ基-NH2、カルボキシ基(カルボキシル基)-COOHなどをもったアゾ染料は、銅、クロム、コバルトなどの金属錯塩をつくる。酸性アゾ染料や塩基性アゾ染料の金属錯塩は、耐光性や洗濯堅牢(けんろう)度が向上する。
アゾ基は還元剤によりアミンにまで還元される。このような還元のされやすさを利用して、脱色や抜染をすることができる。アゾ染料は光により、アゾ基のトランス‐シス異性化、アゾ‐ヒドラゾンの異性化を起こす。両異性体の色調が異なる場合、光により色が変わり暗所で元に戻るフォトクロミズムを示すものがあり、これを利用した機能性色素が開発されている。
[飛田満彦]
発色団としてアゾ基-N=N-をもつ染料の総称.染色的応用範囲の広い,色調も豊富な各種染料が,比較的簡単にかつ安価に得られるため,今日,実用されている合成染料の約半数を占めるもっとも重要な染料群となっている(Colour Indexには2000種類以上が記載されている).合成は,ジアゾ化およびジアゾカップリングという二つの基本的な反応の組合せによって行われる.分子中に存在するアゾ基の数によって,モノアゾ,ビスアゾ,トリスアゾ,テトラキスアゾ染料などに分類する.クリソイジン,コンゴーレッド,ビスマルクブラウンGなどはその例である.アゾ染料の構造は,普通,アゾ形(a)で表されているが,実際には,ヒドラゾン形(b)との互変異性関係にあることが知られている.また,アゾ基に関して,シス-トランスの立体異性体もある.
アゾ染料の種類をその染色的性質にもとづいて分類すると,酸性染料,酸性媒染染料,直接染料,金属錯塩染料,塩基性染料(カチオン染料),分散染料,アゾイック染料,反応染料などとなり,また有機顔料としても多数応用されている.アゾ染料には,4-(ジメチルアミノ)アゾベンゼンのように発がん性を示すものも多い.これらは生体内でアミノ基のN-ヒドロキシ化物となり,その硫酸基やエステル基がDNAと反応するためとみられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
分子内にアゾ基-N=N-をもつ染料の総称。一般に繊維の染色に使用され,その過程に溶解・染着という現象が存在するのが普通である。しかし染料のなかには,水系に微粒子状に分散して繊維に固溶体の形で溶解染色する分散染料もあれば,油溶染料のように溶媒に溶解して着色溶液をつくるものもある。アゾ染料中のアゾ基の数は1個,2個,3個,4個など多様であるが,モノアゾおよびジスアゾ形が大部分である。アゾ基の形成は,芳香族第一アミンを亜硝酸ナトリウムでジアゾ化し,ついでフェノール類,ナフトール類,あるいは芳香族アミン類とカップリングさせて行う。つまりアゾ色素はジアゾ成分とカップリング成分の組合せにより合成されるため,両成分の多種の組合せを選ぶことにより非常に多くの品種を容易に合成することができる。主として直接染料,酸性染料,分散染料,反応染料,アゾイック染料,媒染染料,油溶染料などに分類される。特色としては,色や染色特性の多様な品種が得られること,各種の置換基を適宜導入することにより,水溶性,金属と錯塩をつくる性質,繊維に対する反応性などを付与することができることが挙げられる。日光,洗濯などに対する堅牢度は一般には中級であるが,構造のくふうによりかなり高級なものもある。製造が容易で安価なため,染料,有機顔料の大半がアゾ色素で占められている。近年,セルロース繊維を染色する代表的な染料であったアゾ染料の直接染料は,ベンジジンの発癌性などの理由により使用が減ったが,かわりにクロロトリアジン環など繊維と反応性をもつ基を含むアゾ染料である反応染料,青色まで可能となった分散染料が発展した。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…母体構造より分類すると,おもな酸性染料としてアゾ系,アントラキノン系,ピラゾロン系,フタロシアニン系,キサンテン系,インジゴイド系,トリフェニルメタン系などがあるが,現在多用されるものはアゾ系とアントラキノン系である。前者は赤,だいだい,褐色などの浅色系が多く,品種,生産量とも酸性染料の主体をなし,なかでもモノアゾ染料が最も多い。このなかには染色性の優れた1:1型金属錯塩染料,1:2型金属錯塩染料が含まれる。…
※「アゾ染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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