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アヘン あへんopium

翻訳|opium

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アヘン
あへん / 阿片
opium

モルヒネなどを含む代表的な麻薬の一種。ケシ科のケシPapaver somniferum L.の花が散ってから約10日後、(さくか)が未熟なうちに特殊なナイフで縦に浅く切り傷をつけ、にじみ出てきた乳液がしばらくして固まってくると、これをへらでかき取って集め、弱く加熱乾燥させたものがアヘンである。これを塊状としたものが生アヘンであり、この生アヘンを粉末とし、モルヒネの含有量を9.5~10.5%に調整したものが日本薬局方のアヘン末である。黄褐色ないし暗褐色で特異なにおいがあり、強い苦味を有する。この医薬用のアヘンに対して吸煙用のアヘンは、生アヘンを水に溶かして不溶分を除去し、蒸発濃縮してエキス状としたもので、特別のきせるを用いて小さなランプの火で発煙させ吸煙する。[幸保文治]

成分

アヘンは主成分としてアヘンアルカロイドを含み、そのほかメコン酸や樹脂、粘液などが含まれる。20種以上のアヘンアルカロイドのうち、おもなものはモルヒネ、コデイン、テバイン、パパベリン、ノスカピン(旧称ナルコチン)、ナルセインなどである。これらはフェナントレン誘導体(モルヒネ、コデイン、テバインなど)とベンジルイソキノリン誘導体(パパベリン、ノスカピン、ナルセインなど)の2群に大別され、薬理作用が異なる。このうち麻薬に指定されているのは前者で、後者のグループは非麻薬である。臨床上は、両者を併用すると単独使用より効果的な場合があるので、アヘン中のすべてのアルカロイドを抽出し精製して塩酸塩としたものが使われる。これが日本薬局方のアヘンアルカロイド塩酸塩(略称オピアル)である。
 アヘンは中枢神経を麻痺(まひ)させ、鎮静、鎮痙(ちんけい)、鎮痛、鎮咳(ちんがい)、止瀉(ししゃ)(下痢止め)、催眠および麻酔補助の目的で使用される。効果はモルヒネと同様であるが、作用は緩やかで遅い。副作用として悪心、嘔吐(おうと)、頭痛、めまい、便秘、皮膚病、排尿障害、呼吸抑制、昏睡(こんすい)など慢性中毒をおこし、廃人同様になる。その感受性は個人差が大きい。常用量はアヘン末として1回0.03グラム、1日0.1グラムで、劇薬および麻薬である。製剤にはアヘン末、アヘン散(10%)、アヘンチンキ、アヘン吐根散(とこんさん)(ドーフル散)などがあり、アヘンアルカロイド塩酸塩を用いた注射薬にはアヘンアルカロイド塩酸塩注射液(オピアル、パンオピン)、アヘンアルカロイド・アトロピン注射液(オピアト、パンアト)、アヘンアルカロイド・スコポラミン注射液(オピスコ、パンスコ)、弱アヘンアルカロイド・スコポラミン注射液(弱オピスコ、弱パンスコ)があり、これらは「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されている。
 アヘンはモルヒネ、コデインなどアヘンアルカロイド系麻薬の製剤原料であり、アヘン、ケシ、ケシガラは「あへん法」によって栽培、製造、輸入、売買、取扱い、所持に規定があり、一般には売買も使用も禁止されている。[幸保文治]

歴史

ケシは地中海沿岸地方の原産であった。紀元前1500年代の『エーベルス・パピルス』に、幼児がひどく泣くときはケシのシロップを与えるとよいと書かれていて、アヘンケシの薬効はきわめて古くから知られ、ギリシアでは紀元前後から麻酔剤として使用された。アヘンは中枢神経を大脳から下向的に麻酔させ、脊髄(せきずい)から上向的に興奮させる作用をもっている。1世紀から12世紀まではアヘンは小アジアの産物であったが、喫飲用としてブドウ汁、甘草などの浸出液と調合して嗜好(しこう)品としてつくりあげられた。アヘンはアラビア人によりペルシア、インド、さらに中国に広められた。ケシが初めて移植されたのは唐代であり、花が美しいので観賞用に栽培され、その種子は御米(ぎょべい)とよばれ、粥(かゆ)にして食用に供された。ケシの乾燥果皮つまりケシガラは、中国では罌粟殻(けしがら)ないし粟穀(ぞくこく)とよばれ、北宋(ほくそう)時代の11世紀から薬用に供された。元代の朱震亨(しゅしんこう)の『本草衍義補遺(ほんぞうえんぎほい)』によれば、その薬効は瀉痢(しゃり)(激しい下痢)を止め、久(きゅうがい)(慢性の咳(せき))を治すというのが主要なものとされた。ケシの未熟果実から採取した乳汁を乾燥したものがアヘンであるが、明(みん)代の『医林類証集要』(1482)にみえる記事が中国ではもっとも古いアヘンの製造を伝えていて、そこに阿芙蓉(あふよう)という名で瀉痢止めの処方が記されている。
 中国ではアヘンopiumを初め阿芙蓉(オフーユン)o-fu-jungと音写した。アラビア語のアフィユムafioum、ペルシア語のアフィユンafiounなどの音に近く、のちに、阿片o-p'ien、鴉片ya-p'ienとよばれた。李時珍(りじちん)は『本草綱目』(1578年脱稿、1596年刊行)のなかで、阿芙蓉は彼の時代より少し前に天方国(アラビア)から中国に紹介されたと書き、その製法、薬効を記述し、同時に房中術に用いられた事実を指摘している。吸煙の風習が始まったのは17世紀の清(しん)代だとされるが、1729年にたばこにアヘンを混ぜて飲むことを禁じた、最初の吸煙禁止令が福建の巡撫(じゅんぶ)、劉世明(りゅうせいめい)によって発せられた。1765年(乾隆30)の『本草綱目拾遺』で趙学敏は、アヘン吸煙(鴉片烟)の風習が蔓延(まんえん)していると書き、鴉片館すなわちアヘン窟(くつ)についても言及するとともに、アヘンは1~2回これを吸うとやめられなくなり、その結果、肉体的、道徳的な退廃がおこり、「破家喪身」(家を破産させ身体を破滅させる)に至る者が出ると述べ、その吸飲の風習は最初に台湾でみられたとしている。当時、アヘンはルソンなどでつくられて中国へ持ち込まれたとされ、年間200箱(1箱は約60キログラム)を超えなかったが、1757年にイギリス東インド会社がインドのアヘン専売権を握ると、中国への輸入は急増し、1000箱に達したのは1780年、5000箱を超えたのは1816年のことであった。清朝政府の厳重な防止策にもかかわらず、1820年代には毎年1万6877箱にも増加し、その結果、イギリスとの間にアヘン戦争(1840~1842)が起こった。南京条約(ナンキンじょうやく)の締結によってアヘン戦争が終わったあとも、インドからのアヘンはそれまで以上に流入し続け、1850年には5万6839箱、1880年には9万6839箱に増大した。
 輸入アヘンは、東インド会社の中国名である公班衙(こうはんが)によって公烟(こうえん)、公膏(こうこう)、公土(こうど)、公班土(こうはんど)などとよばれたが、インド北東部産などの高級品質のものは大土(おおど)と称され、輸入品はまた洋土(ようど)、洋烟(ようえん)などとよばれた。中国内地でもケシの栽培は広がり、産地名によって川土(四川(しせん)省産)、南土(雲南(うんなん)、桂州(けいしゅう)産)、西土(甘粛(かんしゅく)、陝西(せんせい)、山西産)などとよばれた。清朝政府は1906年(光緒32)に10年計画でケシの栽培を禁止するとともに、アヘン吸煙を取り締まり、また1909年に上海(シャンハイ)でイギリスなどとの間で国際会議を開き、中国全土でケシの栽培が根絶されるまでは、上海と広東(カントン)だけをインド・アヘンのために開放するという国際協定を結んで、アヘン輸入を中止しようと努力した。
 日本へは江戸時代の初めにもたらされた『本草綱目』によって、阿芙蓉という名でその薬用が伝えられた。18世紀の西川如見(にしかわじょけん)の『増訂華夷通商考(ぞうていかいつうしょうこう)』(1708)や寺島良安の『和漢三才図会』(1713)にはアヘンの輸入や薬用の記事がみえるが、江戸時代末期まではアヘンを吸煙した事実は文献などには現れない。明治政府は1870年(明治3)に阿片煙禁止の布告を発し、1875年に薬用アヘンの取締法をつくった。
 イギリスの作家ディ・クウィンシーの『阿片常用者の告白』(1822)やフランスの作家コクトーの『アヘン』(1930)は、アヘン吸煙の体験をもとにした作品である。[橋本敬造]

あへん法

あへん法は1954年(昭和29)に制定された法律(昭和29年法律第71号)で、その後、必要に応じて法改正が行われた。同法によれば、医療および学術研究の用に供するアヘンの供給の適正を図るため、国がアヘンの輸入、輸出、収納および売渡を行い、あわせて、ケシの栽培、アヘンおよびケシガラの譲渡、譲受、所持、吸食等について必要な取締りを行うことを目的とする。これらに違反する行為は、同法第8章(51条以下)の罰則が科される。これらの行為は、刑法上の「あへん煙に関する罪」(136条から141条)ともかなり重複がみられるが、その場合には、刑の重い罪によって処罰される(あへん法56条)。[名和鐵郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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