日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラビノース」の意味・わかりやすい解説
アラビノース
あらびのーす
arabinose
炭素数5の単糖の一種。単糖とはヒドロキシ基-OHを2個以上と、アルデヒド基(-CHO)あるいはケトン基(-CO-)のいずれかをもつ化合物である(アルデヒド基とケトン基をまとめてカルボニル基とよぶ)。アルデヒド基をもつ糖をアルドース、ケトン基をもつ糖をケトースと総称する。また、糖類は炭素の数によっても分類され、炭素5個のものをペントース(五炭糖)、6個のものをヘキソース(六炭糖)と総称する。アラビノースはアルドペントース(アルデヒド基をもつ五炭糖)の一種である。組成式はC5H10O5、分子量は150.13。
糖質の性質は(したがって名称も)ヒドロキシ基の相対的な向きによって決まる。アルドペントースには不斉炭素(炭素の4本の結合手のすべてに異なる原子団あるいは原子がついている炭素。不整炭素ともいう)が三つある。すなわち、アルデヒド基の炭素を1番、隣を2番、…と番号をつけると、2、3、4番の炭素が不斉炭素である。このうち、3、4番の炭素についたヒドロキシ基が同じ向きで、2番のヒドロキシ基が反対向きであるのがアラビノースである。このような構造の化合物は、3、4番ともに右向きのものと、左向きのものの2種類がある。糖質はカルボニル基を上方に書いたとき、下から2番目の炭素のヒドロキシ基が右方についたものをD型、左方についたものをL型と区別する( 参照)。一般に天然に存する糖の多くはD型であるが、天然のアラビノースはL型が多い。
L-アラビノース1グラムは水1ミリリットル、90%アルコール250ミリリットルに溶ける。ショ糖に近い甘味度を有す。ペクチノース、ペクチン糖ともよばれ、植物界に細胞間多糖(ペクチン質など)、細胞壁多糖(アラビナンやアラビノキシランなど)、水溶性多糖(アラビアゴムや桜木の分泌液など)など多糖類の構成成分として広く存在する。マツやスギの心材には遊離状態で存在する。細菌細胞や緑藻にも多糖として存在する。ある種の酵母、細菌以外は代謝できず、動物腸管壁からはほとんど吸収されない。また、ショ糖と同時に摂取した場合はショ糖の消化吸収を阻害し、血糖上昇を抑制するといわれている。
L-アラビノースは工業的にはメスキットガムmesquite gum(アメリカ西部の乾燥地帯に多い豆科の植物からとれる樹液)を酸分解してつくる。メイラード反応(タンパク質やアミノ酸と糖類が反応して褐色になる反応)によりミート系のフレーバー(香料)を生じるので、食品への利用が検討されている。融点は157~160℃、比旋光度[α]+173°(6分)→[α]+105.0°(22.5時間、c=3。cは旋光度を測定したときの濃度で、3g/100mlで測定したことを示す)(『メルクインデックス 13版』The Merck Index, 13th Edition)。植物がL-アラビノースを構成成分とする多糖類を生合成する経路は次のとおりである。グルコースから出発して、D-グルコース1-リン酸→UDP(ウリジン5'-二リン酸)-D-グルコース→UDP-D-グルクロン酸→UDP-D-キシロース→UDP-L-アラビノースとなり、特異な糖転移酵素によって多糖鎖中に取り込まれる。
D-アラビノースはまれでアロエ属植物の配糖体などに含まれるほかは天然には産出しない。D-グルコースやマンニット(ともに単糖類の一種)から合成される。
[徳久幸子]
『讃井和子他著『日本栄養・食糧学会誌Vol.50』(1997・日本栄養・食糧学会)』