翻訳|ammonite
軟体動物,頭足類の1亜綱Ammonoidea。菊石類ともいう。デボン紀初期に棒状またはゆるく屈曲した殻をもつバクトリテス類Bactritidaに由来して巻いた殻をもつようになり,白亜紀末に絶滅した。現生オウムガイ類との共通点や関連性が多いので,頭足類に属することがわかる。名前の由来は,〈アメンの角(つの)〉という意味で,古代オリエントのテーベの都の守護神アメンが雄羊の頭をしていたため,そのらせん状に巻いた角の化石と思われたことにあった。
アンモナイト類は,かつては分類学上一つの目として扱われ,オウムガイ類とともに四鰓亜綱として一括されたが,今日ではそれぞれを亜綱とみなしている。アンモナイト類のえらが1対か2対かは不明だが,触腕はデボン紀のゴニアタイトの軟X線法による観察やジュラ紀層に残されたアンモナイトの足のずり跡からも10本以下と思われる。収縮筋の形や肉痕の位置もオウムガイ類とは異なる。現在約200科1800属1万種以上が知られている。
貝殻の形態は,平面らせんに巻くのが普通である。巻き始めの部分には球形か楕円体形の胚殻があり,各空房を通り抜ける連室細管は一般に細く腹側に偏在し,壁襟はふつう前方に伸びる。隔壁は前方に凸の面をなし,外殻との交わりのところでひだ状に褶曲するので複雑な縫合線をなす。螺環(らかん)の巻き数の多い種類,巻き数の少ない種類,巻きがとけたり伸びたりなどの異常型を示すものがある。外側の螺環が内側の螺環をおおう程度,螺環横断面の形や腹面に竜骨や溝があるかないかなどのほかに,殻の装飾もさまざまである。縫合線は,デボン紀や石炭紀の種類では単純な一次の凹凸だけから成り,ゴニアタイト型縫合線という。二畳紀や三畳紀には,谷の底から細かい刻みが入り始めるセラタイト型の縫合線を示す。ジュラ紀,白亜紀の種類の多くは,谷と山の両側から刻みの入る複雑なアンモナイト型縫合線をもつ。また,アンモナイト類の殻にくびれがある種類や,まれに同心縞や放射縞の跡が殻に残されたものもある。成体の殻の大きさは直径2m以上のものから2~3cmのものまである。
アンモナイト類はすべてが純海生で,その形態に応じて活発な遊泳性から底生性のものまであって,生息深度もさまざまであったと考えられる。殻に装飾がないか弱いものは遠洋性で大洋に直接面した地域によく産し,装飾に富むものは陸棚性の浅海に多く産するという一般的傾向がある。保存の良い住房中に,歯舌,顎器,食道,嗉囊(そのう),胃,墨袋など主要器官が発見されたことがある。また同一種の大型殻と小型殻のあるもののうち,大型殻の住房中に約0.5mmの丸い中空カプセルが約50個ほど発見された例があり,雌殻中の卵と考えられた。底生性と見られるアンモナイトが世界的に分布することから,アンモナイト類は孵化(ふか)後すぐ浮遊性活を行ったと推定される。
アンモナイト類は上部古生界と中生界の海成層に多産し,属や種の生存期間がわりと短く,分布が広いので,示準化石として役立つものが多い。また相による産状や産出種類の違いがあり,地理区による動物群の特徴もあるので,地質時代の海陸分布や海域変化の推定など示相化石としても重要である。
アンモナイト類の敵としては,モササウルス類に鋭い歯でかまれた跡の残った化石がときおり発見される。サメなどの大型魚類,魚竜,首長竜なども捕食者であった。長大なはさみをもった大型の甲殻類エリオンEryonは,底生性アンモナイト類を常食としたとみえて,体房を砕いて食べた跡の残った化石がある。よく発達したアナプチクス型の顎を備えた大型の種類は,ときに他の小型アンモナイトを襲った可能性がある。
アンモナイト亜綱はゴニアタイト目Goniatitida,セラタイト目Ceratitida,アンモナイト目Ammonitidaに分けられるが,その進化史をみると,出現から絶滅までの間に,危機とそれに続く変革が2回あった。一つは二畳紀末期のゴニアタイト目の衰亡とそれに代わる三畳紀セラタイト目の発展であり,2回目は三畳紀末期のセラタイト目の衰亡とジュラ紀以後のアンモナイト目の発展である。3回目の危機の白亜紀末に,アンモナイト類は滅亡した。進化史の第1段階では,デボン紀にゴニアタイト目の4亜目がすでに分化している。第2段階では,ゴニアタイト目の衰退に代わり三畳紀初期にセラタイト目の爆発的な放散分化があった。第3段階では,三畳紀末期にセラタイト目の衰退があったのに代わって,前から存続していたフィロセラス亜目から分化したリトセラス亜目とアンモナイト亜目が,ジュラ紀に入ると著しく発達し,いくつかの上科・科が分化した。分化の時期に続いては漸進的に進むが,その途上新しい上科や科が出現し,石炭紀のゴニアタイト類の枝分れ,三畳紀のセラタイト類の更新,ジュラ紀前期のアンモナイト類の分化,白亜紀前期のアンモナイト類の更新とリトセラス類の異常巻きの発展があった(図1)。
古い部類が衰退し新しい部類が発展するという進化史をくり返しているうちに,類似の形質が収れんや相似の現象を示すことがある。これは殻形や装飾の場合が多い。縫合線はわりと安定している。異常巻きの現象は,三畳紀後期,ジュラ紀,ジュラ紀末期から白亜紀前期,白亜紀後期に例を見るが,とくに白亜紀に多い。日本に産するニッポニテスは異常巻きアンモナイトの著名な例である。太平洋・インド洋地域のバキュリテス類Baculitesは時代順に形質が漸次変化し,とくに縫合線の複雑化が著しく,地理区の異なる北アメリカ内陸地域の系列でも同様の進化過程がみられる。また諸形質の時代的変化と個体発生上の変化との関係にはさまざまの場合がある。例えば新しい種を特徴づける形質が,まず個体発生の比較的初期に現れ,子孫ではそれが漸次後期に及んで全般的特徴になる場合がある。個体発生の初期には先祖と子孫の形態が似ているが,新しい種を特徴づける形質が初めは成長の比較的後期に現れ,後の時代には成長のより早い時期に現れるようになる促進の場合もある。最も祖先型で見られた一連の特徴が,子孫型では成長に伴う形質変化の展開がおくれ途中までで終わり,さらに子孫ではもっと展開がおくれて,祖先型の成長初期に現れた特徴が子孫型の幼殻から成年殻までの特徴として残り,祖先型の成長中期~後期の特徴は子孫型では見られないという遅滞の場合もある。
執筆者:小畠 郁生
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