ウラル語族(読み)ウラルごぞく

精選版 日本国語大辞典 「ウラル語族」の意味・読み・例文・類語

ウラル‐ごぞく【ウラル語族】

〘名〙 スカンジナビア半島北部、フィンランドロシア連邦、東ヨーロッパ(ハンガリーとその周辺)に広く分布する語族。語族全体の話者数は、約二三〇〇万人。フィン‐ウゴル語派サモエード語派とに分けられ、前者はさらにいくつかのグループに下位区分される。また、ウラル語族と、アルタイ諸語やユカギル語が同系であるとする説もある。一般に名詞の格変化が豊かであるほか、母音調和をもつ言語が多い。

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デジタル大辞泉 「ウラル語族」の意味・読み・例文・類語

ウラル‐ごぞく【ウラル語族】

スカンジナビア・中部ヨーロッパ・ロシア連邦などに分布する語族。フィン‐ウゴル語派サモイェード語派とに大別され、前者にはフィンランド語ハンガリー語などが含まれる。インド‐ヨーロッパ語族、あるいはアルタイ諸語との同系説があるが、証明されていない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウラル語族」の意味・わかりやすい解説

ウラル語族
うらるごぞく

北欧東部、北ロシア一帯、西シベリアおよび東欧の一部で話される言語の総称。言語人口は約2300万。ウラル諸語はフィン・ウゴル語派サモエード語派に大別され、前者はさらにフィン語派とウゴル語派に分かれる。フィン語派はバルト・フィン語(フィンランド語、カレリア語、ベプス語、エストニア語、ボート語、リボニア語)、サーミ語、ボルガ・フィン語(モルドビン語、マリ語)、ペルム語(ウドムルト語、コミ語)に分派する。ウゴル語派はハンガリー語とオビ・ウゴル語ハンティ語マンシ語)からなる。サモエード語派は北方語群(ネネツ語、エネツ語、ガナサン語)と南方語群(セルクープ語、サヤン・サモエード語)に分かれる。

 フィンランド語(490万)はフィンランド共和国内で、ハンガリー語(1400万)はハンガリーの内外で話されている。サーミ語はスカンジナビア北部に住むサーミ人4万2000人の言語である。他の少数民族はロシア連邦内に在住する。エストニア語(約100万)はエストニア共和国で、モルドビン語(119万)はロシア連邦内のモルドビア共和国、マリ語(67万)はマリ・エル共和国、コミ語(49万)はコミ共和国、ウドムルト語(74万)はウドムルチア共和国を中心に話され、オビ・ウゴル語(2万9000)はオビ川流域で、サモエード語(2万7000)はその北東部一帯で用いられている。

 ウラル諸語の間には正確な音韻対応が認められ、同系性が立証されている。たとえば「魚」という語は、フィンランド語でkala、サーミ語でguolle、モルドビン語でkal、マリ語でkol、マンシ語でkul、ハンガリー語でhal、ガナサン語でkole、セルクープ語でkuoleとなる。語頭には一つの子音しかこない。形態的に、名詞は数多くの格に変化する。フィンランド語が15格、コミ語が17格、ハンガリー語は20格以上をもつ。「私の家の中に」はフィンランド語でtalo-ssa-ni、モルドビン語でkudo-so-m、ハンティ語でxōt-em-na、ハンガリー語でhāz-am-banとなる。-ssa-, -so-, -na, -banはいずれも「~の中に」という内格語尾で、-ni, -m,-em-,-am-は「私の」という所有語尾に相当する。このように、ウラル語は語幹に変化語尾が順次付加される膠着(こうちゃく)的性格を示している。

 同じように、動詞でも、「私が書いた」は、フィンランド語でkirjoit-i-n、モルドビン語でśormad-i-ń、マリ語でvož-mというが、語幹の次にくる-i-と-š-の要素は過去を示し、語末の-n, -ń, -mは一人称単数を表す語尾である。また、前置詞でなく後置詞が用いられる。「家の後ろに」は、フィンランド語でtalon takana、ハンティ語でxōt tumpijən、ハンガリー語でa ház mögött(aは冠詞)となる。統語的には、形容詞が名詞の前にたつ。「美しい少女」は、フィンランド語でkaunis tyttö、モルドビン語でmazij t´ejteŕ、ハンガリー語でa szép leányという。マリ語、オビ・ウゴル語、サモエード語では動詞が文末にくるが、その他の言語では、主語、動詞、目的語という語順になる。フィン・ウゴル語の原郷地は、ボルガ川の中流で分岐するカマ川付近という見方が有力である。フィン・ウゴル語はきわめて早い時期にインド・ヨーロッパ系の言語と接触し、借用語を受け入れている。

[小泉 保]

『小泉保著『ウラル語のはなし』(1991・大学書林)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ウラル語族」の意味・わかりやすい解説

ウラル語族 (ウラルごぞく)
Uralic

北欧からウラル山脈の東側にわたる北ロシアと西シベリアの一部および東欧の一角で話されている言語。ウラル語族はまずフィン・ウゴル語派サモエード諸語に大別される。さらにフィン・ウゴル語派は,バルト・フィン諸語Balto-Finnic(フィンランド語,カレリア語,エストニア語,ボート語ほか)やモルドビン語,チェレミス語(マリ語),ボチャーク語(ウドムルト語),ジリャン語(コミ語)などを含むフィン語派Finnicと,ハンガリー語,ボグル語(マンシ語),オスチャーク語(ハンティ語)などを含むウゴル語派Ugrianに区分される。これら言語の間には基本的語彙に厳密な音韻の対応が見られる。フィンランド語,モルドビン語,チェレミス語,ジリャン語,ハンガリー語からの例をとれば,表にみるように語頭のk-とv-,語中の-t-が対応している。

 フィン・ウゴル祖語の音韻は単純で,子音には閉鎖音p,t,k,摩擦音w,δ[ð],s,š[∫],j,γ,破擦音č[t∫],鼻音m,n,ŋ,流音l,r,硬口蓋音δ′,s′,c′[ts′],n′,l′がある。母音には前舌のi,e,ä[a],ü[y]と後舌のu,o,a[ɑ],長母音ī,ē,ō,ūを認める説が有力である。語頭には一つの子音しか許されず,子音群(子音の連続)は語中にのみ現れる。いま子音をC,母音をVとすれば,ウラル語の基本的な語の構造はCVCVかCVCCVである。語末の母音はa,ä,eの三つで,ある一つの語のなかでは,後舌の語幹母音の後にはaかeだけが,前舌の語幹母音の後にはäかeだけが立つ。これが母音調和の原型で,現在もフィンランド語,南エストニア語,チェレミス語,東オスチャーク語とハンガリー語が母音調和の支配を受けている。

 ウラル語の形態的特徴としては多様な名詞の格変化がある。フィンランド語の名詞が15格,ジリャン語が17格,ハンガリー語は20格以上に変化する。祖語では,主格語尾がゼロ,属格語尾が-n,対格語尾が-m,位置格語尾が-na/-nä,方向格の離去語尾が-ta/-tä,近接語尾が-kおよび-n′と推定される。代名詞は名詞の後では所有語尾,動詞の後では人称語尾となった。〈私の家〉はフィンランド語ではtalo-ni,モルドビン語ではkudo-mと名詞の語末に所有語尾が付加される。〈私が来る〉はフィンランド語tule-n,チェレミス語tola-mと語末に人称語尾をとる。語順は〈主語+目的語+動詞〉の型がチェレミス語,オスチャーク語,ボグル語に見られ,他は〈主語+動詞+目的語〉の配列をなす。

 ウラル語族のうち最古の文献は,ハンガリー語で13世紀初め,ジリャン語が14世紀,フィンランド語とエストニア語では16世紀に出ている。他の言語は最近になって正書法が確立された。ウラル語の原郷はボルガ川の支流でウラル山脈に迫るカマ川の流域(現在のウドムルト共和国)付近と想定する学者が多い。系統的には形態面がアルタイ諸語に似ているため,ウラル・アルタイ語族が主張されたが,両者は区別されるべき語族である。ほかにインド・ヨーロッパ語族やユカギール語との関連が指摘されている。ウラル語の研究はフィンランドのE.N.セタラP.ラビラE.イトコネンおよびハンガリーのシンニェイSzinnyei J.,ハイドゥーHaidú P.,ドイツのシュタイニッツW.Steinitz,スウェーデンのコリンデルB.Collinderなどの学者により推進されてきたが,最近はロシア連邦内の少数民族の研究者が文法や方言の記述を手がけるようになった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウラル語族」の意味・わかりやすい解説

ウラル語族
ウラルごぞく
Uralic languages

フィン=ウゴル語派サモイェード語派から成る。前者は,(1) フィンランド語,カレリア語,ウォート語,ウェプセ語,エストニア語,リーウ語のバルト=フィン諸語,(2) サミ語,(3) モルドウィン語とマリ語のボルガ=フィン諸語,(4) ウドムルト語とコミ語のペルム諸語の4群から成るフィン語派と,(1) ハンティ語とマンシ語のオビ=ウゴル諸語,(2) ハンガリー語の2群から成るウゴル語派に下位区分される。後者すなわちサモイェード語派は,(1) ネネツ語,エネツ語,ガナサン語の北部サモイェード諸語,(2) セリクプ語とカマス語の南部サモイェード諸語に下位区分される。これらの諸語とアルタイ諸語やインド=ヨーロッパ語族との同系説を唱える人もあるが,証明ができているわけではない。ウラル祖語は印欧祖語と同様,前 3000年頃に行われていたと推定される。

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百科事典マイペディア 「ウラル語族」の意味・わかりやすい解説

ウラル語族【ウラルごぞく】

フィンランド語やハンガリー語を含む語族の名称。Uralic。フィン・ウゴル語派サモエード諸語とに分類され,前者はさらにフィン語派とウゴル語派とに分かれる。このほかにユカギール語を加える説があり,他方アルタイ系諸言語との親族関係を想定する説(ウラル・アルタイ語族)もある。
→関連項目語族

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世界の主要言語がわかる事典 「ウラル語族」の解説

ウラルごぞく【ウラル語族】

東ヨーロッパの一部、北ヨーロッパの東半部、北ロシア、西シベリアで話されている、同系の言語。フィンウゴル語派サモイエド語派に大別される。前者はさらにフィン語派(フィンランド語・カレリア語・エストニア語・サーミ語など)とウゴル語派(ハンガリー語など)に分けられ、後者は南北2群に分けられる。これらの言語の間には正確な音韻対応が認められるほか、語頭に1つの子音しかこない、膠着語で、名詞は多数の格をもち、前置詞でなく後置詞を使うなどの特徴がある。原郷はウラル山脈の西麓あたりとされる。かつてアルタイ諸語との類似からウラルアルタイ語族が想定されたが、現在では両者は別系統とされている。◇英語でUralic。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ウラル語族」の解説

ウラル語族(ウラルごぞく)
Uralics

西シベリアから北東ヨーロッパにわたって分布する語族。フィン・ウゴル語派(西方)とサモイェード諸語(東方)とに分かれる。前者にはフィンランド語,エストニア語,サーミ語(フィン語派),ハンティ語,ハンガリー語(ウゴル語派)などが属する。ウラル諸語は対(つい)を表わす双数の存在などを特徴とし,また母音調和その他の点でアルタイ諸語と似ているためウラル・アルタイ語族としてまとめる説があったが,現在ではほぼ否定されている。

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