キャメロン(James Cameron)(読み)きゃめろん(英語表記)James Cameron

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

キャメロン(James Cameron)
きゃめろん
James Cameron
(1954― )

カナダ生まれでアメリカで活躍する映画監督。オンタリオ州カプスケーシング生まれ。少年時代からSFや美術、さらにスキューバ・ダイビングを愛好。15歳で見たスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968) に決定的な影響を受け、16ミリカメラによる映画作りを開始するものの、自身の周囲の出来事にカメラを向ける通常のアマチュア・カメラマンと違い、宇宙船や惑星の模型をリアルに撮影することに当初から彼の情熱は注がれた。1971年、高校卒業の際に、電気技師であった父親の仕事の関係でカリフォルニア州オレンジ郡に一家で移住。ジュニア・カレッジで海洋生物学を専攻した後、フラトン大学では物理学を専攻したが、数学の才能に限界を感じて英文学に変更。その後も彼の人生において、科学と芸術の間での揺れがつねに重要な問題であり続けたが、結局、それらの関心を総合したものとして映画監督への道が模索されるようになる。1978年、オレンジ郡の歯科医師たちが税金逃れのために映画をつくる企画にかかわり、35ミリによる短編のSF映画『ジノジェネシス』Xenogenesisを完成。これをサンプルに面接に赴(おもむ)き、B級低予算映画の神様的存在だったロジャー・コーマン率いるニュー・ワールド・ピクチャーズへの入社を果たす。同社では『七人の侍』(1954)や『荒野の用心棒』(1960)のSF版焼き直しである『宇宙の七人』(1980。監督ジミー・T・ムラカミ(1933― ))に、当初は模型製作(視覚効果)で参加。しだいにその実力が認められ、美術監督や補足的な撮影を行う第二班撮影などにも関与するようになる。ジョン・カーペンターJohn Carpenter(1947― )監督の『ニューヨーク1997』(1981)の視覚効果でも注目され、ついに念願の初監督作品『殺人魚 フライングキラー』(1981)に着手するものの、半月余りでプロデューサーに解雇されたので、真の意味でのキャメロン作品とはいいがたい。この作品は、ベトナム戦争中に米軍が兵器として開発したピラニアトビウオの交配から生まれた殺人魚がカリブ海の島でリゾート観光客を次々と襲う、といったいかにも低予算B級映画らしい内容ではあるが、殺人魚の巣があると設定された沈没船の水中撮影やダイビングのシーンといった細部へのこだわりに、『アビス』(1989)や『タイタニック』(1997)など後のキャメロン作品につながる要素をみいだせる。

 その後、ニュー・ワールド・ピクチャーズが倒産したため、キャメロンは自身の監督作品とすべき脚本の執筆に2年もの歳月をかけて集中。完成した未来からやって来た殺人ロボットターミネーター」をめぐる物語のできばえはすばらしく、映画化も決定した。しかし、撮影開始には、主演のアーノルド・シュワルツェネッガーArnold Schwarznegger(1947― ) のスケジュールを待たねばならず、その間にキャメロンは『ランボー 怒りの脱出』(1985。監督ジョージ・P・コスマトスGeorge P. Cosmatos、1941―2005)と、SF映画『エイリアン』(1979。監督リドリー・スコット)の続編『エイリアン2』(1986)という大ヒット作2本の続編の脚本執筆にかかわる。細部に至るまでキャメロンの美学が行き届いた監督第二作『ターミネーター』(1984)は、ニュー・ワールド・ピクチャーズでの経験も活かしつつ、600万ドルとSFアクションを撮るには十分とはいえない予算を逆手にとって、積極的な意味でB級映画の輝きを帯びた斬新(ざんしん)な作品に仕上り、全世界で8000万ドルの興行収入をあげる。一躍、監督としてハリウッドから注目されたため、すでに脚本に参加していた『エイリアン2』の監督にも抜擢(ばってき)された。キャメロンの演出は、スコットによる前作と比較して、怪物と激突するヒロインのキャラクターを掘り下げ、アクション映画としての魅力を加味することに成功し、興行的にも大ヒット。アカデミー賞の視覚効果賞、音響効果賞を受けた。

 ハイスクール時代に書いた短編をもとにした『アビス』は、太古の昔から深海で暮らしてきたエイリアンと人類遭遇を描く内容で、ハリウッドでヒット・メーカーとして認められたキャメロンが少年時代から抱き続けてきた深海への関心を全面展開させた作品である。未使用の原子力発電所の巨大サイロに水をためて行われた苛酷(かこく)な水中撮影、特殊効果の完成度(アカデミー賞特殊視覚効果賞を受賞)への執着など、この作品をきっかけに「完全主義者」としてのキャメロンの監督像が定着する。ふたたびシュワルツェネッガーと組んだ『ターミネーター2』(1991)は、1億ドルを超える予算をかけてグレードアップした続編となり、5億ドル以上の興行収入をあげ、アカデミー賞で特殊視覚効果賞、音響賞、音楽効果賞、メイクアップ賞に輝く。続く『トゥルーライズ』(1994)は、やはりシュワルツェネッガーとのコンビで、妻に内緒でスパイ活動をする男性の公私にわたる危機を描くコミカルな要素も多い作品だったが、当時史上最大の1億2000万ドルを超える予算に見合うほどのヒットに至らず、批評家からも不評だった。

 しかしキャメロンは、さらに野心的な映画作りに挑む。1912年に起こった20世紀最大の海難事故を描く『タイタニック』である。彼の名を世界中に広めた殺人ロボットだけでなく、『アビス』以降の3作において核戦争が重要なモチーフとなるなど、キャメロン作品では、人間がテクノロジーを開発し、それを活用するプラスの側面と裏腹に、テクノロジーによって人間や社会が被る変貌(へんぼう)や危機についての言及がつねにあった。そんな意味で当時の先端技術の成果である巨大客船の沈没は、彼の関心に沿うものであり、彼はこの事故に真の意味での20世紀=技術の時代の始まりを読み取ろうとした。1995年、実際に海底に沈むタイタニック号の撮影から壮大な映画作りがスタート。メキシコのロザリト・ビーチに撮影用の巨大スタジオが建設され、広さ6エーカー(約2.4ヘクタール)の巨大タンクにほぼ実物大のタイタニック号のレプリカが置かれるなどの話題性から、すでに撮影の段階から世界的に注目を集めたこの映画で、予算は2億ドルを超えてまたも史上最高を更新。結末がわかっているパニック映画に客が集まるのかといった周囲の疑問に対して、彼らの運命がわかっているからこそ、むしろ登場人物に感情移入できるのだというキャメロンの持論の正しさが実証され、全世界で興行収入10億ドルを超える空前のヒット作となった。アカデミー賞でも、それまでキャメロンには無縁だった監督賞や作品賞も含む11部門を制覇。これは1959年の『ベン・ハー』(監督ウィリアム・ワイラー)以来の快挙であり、『タイタニック』は、コンピュータ・グラフィクス(CG)などのデジタル技術とアクション・シーンの合成といった技術的な達成および世界的な「現象」となった話題性なども含め、まさに20世紀を締めくくるにふさわしい作品となった。

[北小路隆志]

資料 監督作品一覧

殺人魚 フライングキラー Piranha Ⅱ Flying Killers(1981)
ターミネーター The Terminator(1984)
エイリアン2 Aliens(1986)
アビス The Abyss(1989)
ターミネーター2 Terminator 2 : Judgmant Day(1991)
トゥルーライズ True Lies(1994)
タイタニック Titanic(1997)
ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密 Ghosts of the Abyss(2003)
エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ Aliens of the Deep(2005)
アバター Avatar(2009)
タイタニック 3D Titanic in 3D(2012)

『高橋良平編著『ジェームズ・キャメロンの映像力学』(1990・ビクター音楽産業)』『石上三登志編『フィルムメーカーズ4 ジェームズ・キャメロン』(1998・キネマ旬報社)』『クリストファー・ハード著、比嘉世津子訳『ジェームズ・キャメロン 映画と人生――ドリーム・アラウド』(1999・愛育社)』

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