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スイス文学 スイスぶんがく Swiss literature

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

スイス文学
スイスぶんがく
Swiss literature

厳密にいえば,スイス固有の言語であるロマンシュ語 (レト・ロマンス諸語の一方言) で書かれた作品をさすが,広義では,スイスで使用されるドイツ語フランス語イタリア語や,この3言語それぞれのスイス方言を使って,スイス人によって書かれた作品を含む。

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出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

スイス文学
すいすぶんがく

スイスは多言語の国で、東部と北部と中部ではドイツ語、西部ではフランス語、南部ではイタリア語、南東部ではレト・ロマン語レト・ロマンス語)が用いられている。したがって一つの言語に基づくスイス文学というものはなく、文学史的には、ドイツ、フランス、イタリアの各国文学史の一部として扱われることが多い。ドイツ語圏の文学は、ザンクト・ガレン修道院のノートカーによるラテン語文章の古高ドイツ語への翻訳にまでさかのぼることができるが、フランス語圏の文学は17、18世紀、イタリア語圏、レト・ロマン語圏の文学は、19あるいは20世紀になってようやく活発になる。[岩村行雄]

スイス文学の展開とその特徴

1648年、スイスは神聖ローマ帝国を離脱した。これはスイス文学の独自性を生み出す契機となった。しかしスイス文学の特徴である市民的モチーフや農民的モチーフは、ドイツ語圏では、すでにシュタインマルSteinmar(生没年不明、13世紀)やハートラウプJohannes Hadlaub(生没年不明、14世紀)のミンネザング(恋愛叙情詩)に現れ、中世末期のハインリヒ・ウィッテンウィーラーHeinrich Wittenwiler(生没年不明、14―15世紀)にも認められる。一方、ツウィングリやカルバンの影響を受けて、文学が宗教や政治と結び付き、宗教的・社会的機能を果たす伝統が形成された。18世紀、アルプスの詩人ハラー、批評家ボードマー、あるいはルソーらが活躍し始めるとともに、各言語間の枠を越えた統一的なスイス文学を求める声が盛んになった。その際、複数の言語と民族を統合する要素として、国家に帰属する市民の意識が強調された。ここに中世以来の諸要素が結合し、文学と社会、文学者と市民精神の問題がスイス文学の基本的な枠組みとなって今日に至っている。18世紀の教育家で小説も書いたペスタロッチから農民や市民を写実的に描いた19世紀のゴットヘルフやケラーに至るまで、作品は、この背景から生まれている。この逆の方向には、19世紀の市民社会から離れて自己の文学の完成を図った詩人・小説家C・F・マイヤー、孤高の人物を描く叙事詩人シュピッテラーらがいる。
 20世紀にはいってもこの傾向は認められ、イングリーンは前者に属し、一方傷ついた知識人を表現するツォリンガーや社会からの逃亡のなかに文学を実現するワルザーは後者に属する。ながくケラー文学がスイス文学の規範ともなっていたが、近年社会批判意識の先鋭化に伴ってむしろワルザーに未来の文学の可能性をみる見方が強まっている。
 ルソーや19世紀の小説家コンスタンHenry Benjamin Constant(1767―1830)、あるいは自己を凝視したアミエルらをもつフランス語圏では、20世紀に郷土スイスを意識した小説家ラミュが現れる。その一方では前衛的な小説家サンドラールやヌーボー・ロマンの創始者の一人パンジェが国境を越えて活躍した。
 スイス文学の一つの特質としてあげられるのは、ドイツ文学のシュトゥルム・ウント・ドラング、ロマン主義、表現主義などの運動を受け入れなかったことである。スイス人特有の現実感覚に基づくものと考えられるが、これはかならずしも閉鎖的であることを意味しない。文学間の活発な媒介者の機能を果たすことにもスイス文学の特質があり、18世紀のボードマー、スタール夫人以来の伝統であり、20世紀では批評家ベガンがその例である。[岩村行雄]

第二次世界大戦後の文学

ドイツ語圏の戦後の文学は、現代社会と対決する小説家・劇作家フリッシュと劇作家デュレンマットによって代表され、フリッシュの批判意識、アイデンティティの問題は次の世代に大きな影響を与えた。社会批判は1980年代には環境問題へと転換していくが、1960年代以降ムシュク、ワルターOtto F.Walter(1928―94)、ディッゲルマンWalter Matthias Diggelmann(1927―79)、ニツォンPaul Nizon(1929― )、ビクセルPeter Bichsel(1935― )、フェーダーシュピールJrg Federspiel(1931― )、レッチャーHugo Loetscher(1929― )らはそれぞれに批判の文学を構築し、その後にはE・Y・マイヤーE.Y.Meyer(1946― )、シュタイナーJrg Steiner(1930― )、ホーラーFranz Hohler(1943― )が続いている。これとならんで70年代には個人的テーマが浮上し、さらに死や病気がテーマとなる。ブルガーHermann Burger(1942―89)、ツォルンFritz Zorn(1944―76)らの問題である。これはシュテファンVerena Stefan(1947― )をはじめとする女性作家にも共通する問題で、女性文学が初めて展開をみせる。なかでもロイテンエッガーGertrud Leutenegger(1948― )は多様な手法を駆使して独自の文学空間を開いた。また詩の領域では、具体詩のゴムリンガーEugen Gomringer(1925― )、自然抒情(じょじょう)詩のブルカルトErika Burkart(1922― )が著名であるが、さらにマルティKurt Marti(1921― )らが外に開かれた方言文学を創造する運動を展開している。
 フランス語圏では、ゼルマッタンMaurice Zermatten(1910― )がラミュ以後の文学を代表し、シェセックスJacques Chessex(1943― )やサン・テリエMonique Saint-Hlier(1895―1955)が心理分析的な小説の伝統を受け継いでいる。内面性に傾く詩の流れを示すのはボアザールAlexandre Voisard(1930― )やジャコテPhilippe Jaccottet(1925― )である。またスタロビンスキーJean Starobinski(1920― )は批評の一つの到達点を示す業績をあげている。[岩村行雄]
『フィリッシュ著、中野孝次訳『ぼくではない』(1959・新潮社) ▽ヴィッテンヴァイラー著、スイス文学研究会編、田中泰三訳『指輪』(1977・早稲田大学出版部) ▽スイス文学研究会編、中村浩三他訳『スイス二十世紀短篇集』(1977・早稲田大学出版部) ▽スイス文学研究会編、堀内明他訳『スイス十九世紀短篇集』(1978・早稲田大学出版部) ▽スイス文学研究会編、田中泰三他訳『スイス詩集』(1980・早稲田大学出版部) ▽デュレンマット著、スイス文学研究会編、岩村行雄他訳『物理学者たち』(1984・早稲田大学出版部) ▽サンドラール著、生田耕作訳『世界の果てまで連れてって』(1989・白水社) ▽ヴァルザー著、飯吉光夫訳『ヴァルザーの小さな世界』(1989・筑摩書房) ▽スイス文学研究会編、杉本正哉他訳『スイス民話集成』(1990・早稲田大学出版部) ▽ヴァルザー他著、白崎嘉昭他訳『現代スイス文学三人集』(1998・行路社) ▽加太宏邦他訳『ラミュ短篇集』(1998・夢書房)』

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