翻訳|display
動物の個体間で交わされるコミュニケーションにおいて、進化の過程で誇張され儀式化された行動様式をいい、「誇示」と訳す。動物のもつ形態、色彩、音声、香り、身ぶり、行動などは、同種他個体に特定の反応を解発させるリリーサー(解発因)としての役割を果たしている。これらのうちのいくつかのものは、機能の強化、明確さを増し、リリーサーがいっそう強調されるように、行動上の特殊化をもたらしている。すなわち、単純化されたり、一部の要素のみが強調されたり、またある行動型がほかの意味をもつ行動へと修正されることにより、いっそう社会生活に役だつ信号に変化していき、一般にはきわめて型にはまった行動となる。このようにして儀式化されるに至った行動は、その多くが攻撃、逃避、採食行動、羽づくろいなど日常生活でみられる行動に起源をもち、それらから発展したものである。求愛行動や攻撃行動、なだめ行動など、動物の社会生活のなかに広くみいだされる。多くは生得的であり、種に固有の行動である。
求愛ディスプレーは、異性を誘引し、生殖をスムーズに行う効果を果たしている。トゲウオの雄が雌に行うジグザグ運動は、攻撃行動と雌を巣に導く行動が結合した求愛のディスプレーである。また、カイツブリの雌雄が向き合い、水草をくわえて見せ合う行動は、巣づくり行動が儀式化された求愛のディスプレーである。鳥類に広くみられる求愛給餌(きゅうじ)は育児行動に由来する。ニワシドリの仲間は、飾りたてた塚をつくり、そこで求愛のディスプレーを展開する。はでな色彩をしているゴクラクチョウ類の雄は、雌の前で踊る。このほか、美しくさえずったり、嘴(くちばし)に触れたりする行動も求愛のディスプレーである。
威嚇のディスプレーには、キクラゲ科の熱帯魚のえらぶたをいっぱい広げてのにらみ合い、ヨーロッパコマドリの縄張り雄が、侵入雄に対してとる赤いはねの胸を反らす行動などがある。威嚇のディスプレーは、攻撃と逃避の気分とが葛藤(かっとう)状態にあるときにとられる。闘争中のセグロカモメが草を引き抜く行動は、造巣行動から転位した威嚇のディスプレーと考えられる。争いに負けたイヌは、急所である頸(くび)すじをさらけ出し、ウミイグアナは、勝者の前にひれ伏す姿勢をとる。これらは相手の攻撃性をなだめるディスプレーであり、勝者はただちに攻撃を中止する。このように闘争が儀式化することにより、闘争個体の傷害や死に至ることが回避されている。
異種個体に対するディスプレーも存在する。スズメガの一種にみられる後翅(こうし)の眼状紋を捕食者に示す行動、また、地上に営巣する鳥が巣に近づいた捕食者にとる擬傷(ぎしょう)行動は、ともに捕食を逃れるためのディスプレーである。
[中村浩志]
『ローレンツ著、日高敏隆他訳『攻撃――悪の自然誌』Ⅲ(1970・みすず書房)』▽『マニング著、堀田凱樹他訳『動物行動学入門』(1975・培風館)』▽『アイベスフェルト著、伊谷純一郎他訳『比較行動学』(1978・みすず書房)』
動物行動学用語。誇示とも呼ばれる。動物が求愛や威嚇の際に,相手に自分を大きく見せようとしたり,自身の目だつ特徴,例えば体の色彩や,首,翼,尻,脚など体の特定の部分を強調して示す姿勢や動作をすることをいう。一般に遺伝的に固定された行動パターンで,それぞれの種に固有である。ディスプレーの起源となる行動はさまざまであるが,もともとは別の機能をもっていた行動が,儀式化の過程を通じて極端に誇張されたものがディスプレーである。
ディスプレーの機能に応じて,誇張される行動パターンおよび部位は異なる。求愛の場合には婚衣や婚姻色などのはでな部位が強調され,威嚇の場合には体を大きくみせたり,武器(つめ,角,きばなど)をはっきり見せることが重要となる。逆に体を丸めて小さくなったり,ひっくり返って腹をみせるなどは服従のディスプレーとなる。具体例をあげれば,ある種のシオマネキの雄は,大きな一方のはさみを自分の体の前で振って求愛のディスプレーをするが,威嚇のディスプレーでは,左右のはさみを外側に向け,ちょうど手を開いたような形をとって,体を大きく見せる。のどから胸にかけて黒い羽をもつシジュウカラは,威嚇の際には頭を上げ胸を張り,この模様が目だつようにディスプレーするが,この模様がないアオガラは,頭部を前に突き出して,頭の色を目だたせる。また,毒をもつ動物は,一般に鮮やかな色彩をもち,威嚇するときこれが目だつような姿勢をとるものが多いが,このような動物に擬態して威嚇のディスプレーをするガやハチの例も多い。このほか,昆虫が飛ぶときに羽の裏表の模様がつくりだすフラッシュ・パターンなども一種のディスプレーと呼べる。
執筆者:奥井 一満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…いったん雌雄が出会うと,次には両者が相手を見て攻撃したり逃走するのを抑える行動が現れる。これは一般に攻撃的な部分を隠したり,相手をなだめるための儀式化した身ぶり,すなわちディスプレーによって果たされる。なだめの行動として広くみられるものに求愛給餌courtship feedingがある。…
…この科の鳥はコトドリとアルバートコトドリの2種があり,オーストラリア東部に局地的に分布する。両種とも羽色はじみだが,雄は独特の形の尾羽をもち,繁殖期にこの尾羽を広げてディスプレーをするので有名。その尾羽を竪琴に見たてて,コトドリの名がある。…
…画像はテレビジョン画面のように走査線の集りによって近似され,走査線は点の集りによって近似される。ディスプレー全面に静止画を表示すると,画素pixelつまり縦横の点の数は,たとえば768と1024,画面全体では約80万点となる。カラー画像ならば各点はさらに加法混色における三原色つまり赤,緑,青に分解され,色ごとに光の強さがA-D変換され,たとえば8桁の二進数で近似的に表される。…
※「ディスプレー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加