トリチウム

化学辞典 第2版「トリチウム」の解説

トリチウム
トリチウム
tritium

質量数3の水素放射性同位体で,三重水素ともいう.3H あるいはTと記す.質量3.01605 u.原子核は陽子1個,中性子2個からなり,トリトンあるいは三重陽子とよばれる.トリチウムは半減期12.33 y でβ崩壊して 3He になる.β線の最大エネルギーは18.61 keV,平均エネルギーは5.68 keV である.体内に取り込まれた場合の生物学的半減期は12 d である.高層大気中で二次宇宙線に含まれる中性子と 14N との核反応14N(n,3H)12Cによって生成するため,天然にも通常の水素(軽水素,1H)の 10-17 程度ときわめて微量だが存在する.人工的には原子炉を用いて 6Li や 3He からそれぞれ6Li(n,α)T反応,3He(n,p)T反応によってつくることができる.また,加速器では 9Be とDとの反応からつくることができる.原子炉のうちの軽水炉においては,ウランやプルトニウムの三体核分裂によりトリチウムがわずかに生成する.重水炉では重水素の熱中性子捕獲反応によって生成する.トリチウム分子 T2 の融点は20.62 K(D2,18.73 K ;H2,13.96 K),沸点は25.04 K(D2,23.67 K ;H2,20.39 K)である.トリチウム水(T2O)の融点は4.48 ℃(D2O,3.81 ℃ ;H2O,0.00 ℃),沸点は101.51 ℃(D2O,101.42 ℃ ;H2O,100.00 ℃),解離定数は25 ℃ において0.06×10-14(D2O,0.195×10-14 ;H2O,1.01×10-14)である.トリチウムはβ線を放出する放射性同位体なので,化学反応機構の研究などでトレーサーとして利用されている.また,トリチウムは核融合反応を起こしやすいので,水素爆弾の主要原料として用いられた.将来,核融合炉の核燃料として,重水素とともに使われるものと予想されている.

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日本大百科全書(ニッポニカ)「トリチウム」の解説

トリチウム
とりちうむ
tritium

水素の同位体で、重水素の一つ。三重水素ともいう。記号はTまたは 3H。1934年イギリスのE・ラザフォードらにより核反応 2D(d,p)3Tで初めて合成された。その4年後放射能をもつことが発見された。0.0186メガ電子ボルトのβ-線を放ってヘリウム3Heになる。半減期は12.33年。大気上層で宇宙線による核反応 14N(n,t)12Cにより合成され、大気中にごく微量にみつかるヘリウム3の供給源となる。原子炉の核反応 6Li(n,α)3Tによって人工的に合成され、トレーサーとしての広い用途のほか、核融合反応の燃料として、またその人工制御にも用いられる。なお、トリチウムの原子核をトリトンという。

[守永健一]

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精選版 日本国語大辞典「トリチウム」の解説

トリチウム

〘名〙 (tritium Tritium) 水素の同位体の一つで質量数三のもの。記号Tまたは3H 原子核は陽子一個のほかに二個の中性子をもつ。原子核の人工破壊でつくるほか、原子炉中で容易に生成される。放射性同位体(元素)で、β線を放出してヘリウムに変わる。核融合反応を起こしやすいので水素爆弾に用いるほか、トレーサー(追跡子)として広く用いられる。三重水素。〔百万人の科学(1939)〕

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デジタル大辞泉「トリチウム」の解説

トリチウム(tritium)

水素同位体で、質量数3のもの。陽子1個、中性子2個からなる放射性同位体。1934年に英国E=ラザフォードにより初めて合成。天然では宇宙線と大気の反応により、ごく微量生成する。半減期は12.33年。トレーサー核融合反応の燃料として利用。記号Tまたは3H三重水素。

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百科事典マイペディア「トリチウム」の解説

トリチウム

三重水素とも。質量数3の水素同位体。Tまたは3Hで表す。放射性でβ崩壊し,半減期12.36年。天然にはきわめて微量に存在。原子炉中でリチウム6Liに中性子を照射すると得られる。トレーサーとして重要。
→関連項目重水素ジュウテリウム水素水素爆弾

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世界大百科事典 第2版「トリチウム」の解説

トリチウム【tritium】

三重水素ともいう。中性子2個,陽子1個からなる原子核(トリトンtritonまたは三重陽子という)をもつ,質量数3の水素の放射性同位体。化学記号は3HまたはT。最大エネルギー18keVのβ線を放出し,半減期12.36年でヘリウム3(3He)に変換する。天然には,宇宙線の陽子p,中性子nが大気中の窒素N,酸素Oと相互作用して生成するが,主として次の反応による。その生成率は,地表単位面積当り,単位時間当りの原子数で0.2~0.24/cm2・s,生成量は全地球上で28~34メガキュリー(1キュリー=3.7×1010ベクレル)と試算されている。

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世界大百科事典内のトリチウムの言及

【重水素】より

…これらは,ふつうの水素のそれぞれ約2倍,3倍の比重をもつ著しく重い同位体であるから,重水素と呼ばれる。しかし通常はそのうち安定で広く存在する2Hを重水素あるいはジュウテリウムdeuterium(化学記号D)と呼び,不安定な放射性元素で天然に微量しか存在しない3Hは三重水素あるいはトリチウムtritium(化学記号T)と呼んでこれと区別することがある。またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。…

【核融合炉】より

…先の核融合利得Qfは単純な場合,この閉込め時間τ,プラズマの温度T,そして密度nの3者によって決定され,とくにnとτはnτという積の形で出てくる。すなわちQfTnτの関数であって,最も反応の起こりやすいDT反応(ジュウテリウム2Hとトリチウム3Hの反応)を例にとると,Qf>1の達成条件として T≌(1~2)×108K (数億度) (nτ)≌1014s/cm3 (1cm3当り1014個の粒子が1秒閉じ込められる)が求められている。ここで同じnτ値であっても慣性閉込めによる核融合におけるτは10-10秒(=100ピコ秒),磁気閉込めによる核融合におけるτは約1秒であって,その違いに応じてプラズマの密度とか圧力は両者の間で大きく異なってくる。…

【重水素】より

…これらは,ふつうの水素のそれぞれ約2倍,3倍の比重をもつ著しく重い同位体であるから,重水素と呼ばれる。しかし通常はそのうち安定で広く存在する2Hを重水素あるいはジュウテリウムdeuterium(化学記号D)と呼び,不安定な放射性元素で天然に微量しか存在しない3Hは三重水素あるいはトリチウムtritium(化学記号T)と呼んでこれと区別することがある。またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。…

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