ハーグ条約(読み)ハーグジョウヤク(英語表記)The Hague Convention

デジタル大辞泉 「ハーグ条約」の意味・読み・例文・類語

ハーグ‐じょうやく〔‐デウヤク〕【ハーグ条約】

オランダハーグ締結された条約略称
ユネスコによる「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」の通称》戦争による文化財の破壊、国外への不正な流出を防ぐための条約。1954年締結。日本は平成19年(2007)批准
ハーグ国際私法会議で締結された国際私法条約の総称。「民事訴訟手続に関する条約」「外国公文書の認証を不要とする条約」「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」など30以上の条約が締結されている。
《「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」の通称》一方の親が子を居住国から不法に連れ去る事件を防止する目的で締結された多国間条約。ハーグ国際私法会議で締結された国際私法条約の一つ。国籍の異なる夫婦の一方が子を無断で国外に連れ去った場合、連れ去られた側の申し立てを受けて、子は連れ去られる前に居住していた国に戻される。親権は、子が元の居住国に戻された後、その国の裁判所で争われる。1980年にハーグ国際私法会議で採択され、1983年に発効。日本は平成26年(2014)加盟
《「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」の通称》航空機の不法奪取等を犯罪とし、その犯人処罰・引き渡し等について定めた国際条約。1970年に作成され、1971年発効。日本は昭和46年(1971)に締結。ハイジャック防止条約
[補説]これ以外にも「ハーグ条約」と通称される条約は複数ある。英語読みで「ヘーグ条約」ともいう。

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知恵蔵 「ハーグ条約」の解説

ハーグ条約

オランダのハーグで採択された、国家間の不法な児童連れ去り防止を目的とした多国間条約である「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」の通称。「国境を越えて子供を不法に連れ去る、あるいは留め置くことの悪影響から子供を守る」ことを目的としている。親権・監護権(養育権)を持つ親のもとからその同意なくして他の親が16歳未満の子を、国境を越えて連れ去りまたは隠匿をした時、両国がこの条約に加盟していれば、子を奪われた親はその国の政府を通じて相手国に子の返還や面会を請求できる。両親の離婚などによって生じる「子どもの国境を越えた移動」そのものが子どもの利益に反するものであり、子どもを養育する「監護権」の手続きは奪取以前の常居所地であった国で行われるべきだとの考えに基づいて、子は移動以前の常居所地であった国へ帰還させるのが原則である。また、別れて暮らす親子が面会する権利の実現を目指すものでもある。
1980年10月25日に採択され1983年12月1日に発効したが、加盟国は南北アメリカ、欧州諸国などに限られ、日本も含めアジア・アフリカ・中東諸国ではほとんどの国が加盟していない。その原因としては、西欧諸国と加盟していない国とでは両親の離婚及び親権や面会権についての考え方が大きく違うこと、それぞれの国の文化や国内法との整合性に支障をきたすことなどが挙げられる。
米・仏などは、日本の条約加盟を強く求めており、日本政府は2010年5月に条約加盟の基本方針と加盟に必要な国内法案の骨子を閣議了解した。国内法案の骨子は、日本国内に連れ去られた子どもの所在を調査する「中央当局」を外務省に設置すること、裁判所が連れ去った子の返還を親に命じるための手続きを新たに設けることなどを内容としている。
加盟に対する慎重論としては、家庭内暴力(DV)から逃れて子を連れ帰国する母親などについての邦人保護の観点が中心であり、さらなる暴力の恐れがある場合などについて返還を拒否できるという例外規定も盛り込まれている。
なお、本条約も含めて、ハーグ国際私法会議で締結された各種の国際私法条約を総称して「ハーグ条約」ということもある。

(金谷俊秀  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハーグ条約」の意味・わかりやすい解説

ハーグ条約
ハーグじょうやく

(1) 正式名称「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」Convention for the Suppression of Unlawful Seizure of Aircraft。ハイジャック防止条約とも略される。航空機の不法な奪取(ハイジャック)を行なった者の処罰を目的として 1970年にオランダのハーグで採択され,翌 1971年10月14日発効した。裁判権に関しては,航空機の登録国,航空機が賃貸された賃貸人の本国,航空機が容疑者を乗せたまま着陸した国が指定され,容疑者の身柄を抑留している国家は,これらの 3国に容疑者を引き渡すか,自国で処罰するかの義務を負う。そのほか,締約国間の相互援助,紛争の解決などについても規定している。2014年現在,日本を含む 185ヵ国が批准。(→ハイジャック関係法
(2) →国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約

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百科事典マイペディア 「ハーグ条約」の意味・わかりやすい解説

ハーグ条約【ハーグじょうやく】

ハーグ平和会議

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世界大百科事典(旧版)内のハーグ条約の言及

【航空機】より

…民間航空機は,外国領域において,その国の航空規則などの法令に従わなければならない。外国領空の民間航空機内での犯罪につき,1963年の〈航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約〉(東京条約)により登録国の裁判権が認められ,その後ハイジャックや航空機の安全に対する不法な行為に関するハーグ条約(1970採択)やモントリオール条約(1971採択)が成立した。【西井 正弘】。…

【航空事故】より


[事故の賠償]
 国際線を運航する航空機の事故によって発生した損害に対する賠償については国際間に取決めがある。まず,1929年のワルシャワ条約(114ヵ国が批准)で旅客の死亡については1人当りの支払限度額が12万5000フラン,手荷物の損害については1人当り5000フランと決められ,次いで55年のハーグ条約(98ヵ国が批准)で旅客の限度額が25万フランに引き上げられた。その後,66年に世界の主要航空会社間で結ばれたモントリオール協定によって旅客の限度額は再び7万5000ドルに増額され,これが先進国の標準となったが,81年になって日本航空と英国航空のみはさらにこれを10万SDRに引き上げた。…

【ハイジャック】より

…しかしこの条約はハイジャック防止を直接の目的としたものではなかったため,管轄権も原則として航空機の登録国にとどまり,犯人の抑留,訴追,引渡しを義務づける直接的規定も置かれなかった。そこで70年に77ヵ国の参加登録国によって,ハイジャックの防止と処罰を直接目的としたハーグ条約が採択され翌年発効した。そこでは,着陸国,被疑者の所在国等にも管轄権が広げられるとともに,被疑者の抑留と引渡しまたは訴追とが義務づけられた。…

※「ハーグ条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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