社会の経済活動を,家計が保有する生産要素を生産部門に提供し,生産部門が生産した最終消費財を家計に還元する循環としてとらえるとき,そのあり方の社会的最適性について,イタリアの経済学者・社会学者V.パレートによって20世紀の初頭に考案された概念で,新古典派経済学の規範的理論の中心をなす。経済循環は,だれが何をいかにしてだれのために生産するかを特定化することによって記述され,その一覧表は資源配分の状態と呼ばれる。各財貨が現在の技術的知識のもとで生産可能であれば,それらの財の各人への配分は実現可能といわれる。そして,実現可能な資源配分は,もはやそれをどの家計の効用も低下させることなく,いずれかの家計の効用を上昇させるように変更することが不可能であるとき,パレート最適と呼ばれる。資源配分状態の変更によってある家計の効用が上昇するとき,その家計は問題の変更に賛成すると考えられる。そうすると,パレート最適資源配分とは,すべての家計の全員一致によっては変更することができない配分と言い換えることもできる。
2個人が2財を交換する経済の実現可能な配分は,エッジワースのボックス・ダイヤグラムに表すことができる。図のIa,Ia′,Ia″はOaを原点とした個人Aの無差別曲線,Ib,Ib′,Ib″はObを原点とした個人Bの無差別曲線である。この場合,パレート最適は,両者の無差別曲線が互いに接する点によって表される。そのような配分は一般に無数にあり,パレート最適点を結んで得られる曲線CC′は,契約曲線と呼ばれている。この概念の重要性は,適当な条件のもとで,競争的一般均衡はパレート最適をもたらすという厚生経済学の第1命題が成立し,逆に任意のパレート最適配分は適当な所得移転を伴う競争均衡として実現することができるという厚生経済学の第2命題が成立することにある。
パレート最適の概念は,いずれの個人の犠牲においていずれの他の個人の効用が上昇させられるべきかという価値判断の問題を巧みに避けた最適の概念である。しかし,図のP1,P2,P3もともにパレート最適であることに示されるように,資源配分および所得分配の公正さについてはなにも語らない。そのため,最適という表現は不適当であるとして,パレート最適の代りにパレート効率性という言葉が用いられることもある。
執筆者:林 敏彦
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他の個人の満足を減ずることなしには、いかなる人の満足も増すことができない状態をいう。いいかえれば、どのような資源配分の変更を行っても、現状以上に社会的により好ましい状態を達成できないことをいう。個々人の価値判断を社会全体として一つの価値判断に形成するのはきわめて困難であるが、パレート最適は比較的柔軟性のある規準であって、人々の同意を得やすい概念といえよう。これは、V・パレートによって創唱されたものであり、新厚生経済学の発展とともに普及し、パレートの名を冠する名称が定着した。パレート最適は完全競争市場において達成され、そこでは各個人は最大の満足を得、企業は利潤最大化が達成されるなど、重要な法則が成立する。しかし、パレート最適は資源配分のみに関与し、所得分配についてはなんら触れることがない。また、パレート最適の状態は無数に存在し、それらの間の優劣は決定できないなどの限界がある。
パレート最適が達成されるためには、個人間の限界代替率が等しくならなければならない。両個人の間の限界代替率が等しくなった点を結んだ曲線を「契約曲線」という。契約曲線上のすべての点はパレート最適である。もし初期賦存量がJ点ならば、それに対応するパレート最適点は契約曲線上の任意の点となり、一義的に決定することはできない。
さらに経済全体でパレート最適が達成されるためには、X財とY財の消費の限界代替率が、X財とY財を生産するための限界変形率(生産可能性曲線の接線の傾きの絶対値)に等しくならなければならない。
もしもすべての市場が完全競争的ならば、該当する限界代替率が該当する価格比に等しくなるから、パレート最適が達成される。
なお、一部分においてパレート最適条件が成立していないときに、それを前提として、残りの部分における最適問題を考察するのがセカンド・ベスト理論である。
[畑中康一]
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