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ヒンドゥー教の主神の一つ。ビシュヌはすでにインド最古の聖典『リグ・ベーダ』に登場し、天・空・地の三界を三歩で闊歩(かっぽ)するとたたえられた。元来、太陽の光照作用を神格化したものとみなされるが、この時期にはそれほど重要な神ではなかった。ところが、ヒンドゥー教が盛んになると、ビシュヌはシバ神とともに、ヒンドゥー教の主神として民衆の信仰を集めた。ブラフマー(梵天(ぼんてん))が宇宙を創造し、ビシュヌがそれを維持し、シバがそれを破壊するとされる。シバが山岳と関係あるのに対し、ビシュヌは海洋と縁が深い。太初、彼は神々とともに海底から不死の飲料アムリタ(甘露)を得た。その過程において、海中から出現したシュリー(ラクシュミー、吉祥天(きちじょうてん))を妻とし、やはり海中から生じた宝珠を胸にかける。彼は大蛇(シェーシャ竜)を寝台として水上で眠り、ブラフマーはビシュヌの臍(へそ)に生えた蓮華(れんげ)から現れたという。また、ビシュヌは武器として円盤(チャクラ)、棍棒(こんぼう)を持ち、ガルダ鳥に乗るとされる。後代になるとビシュヌ神話が整備されて、ビシュヌの化身avatāraが列挙されるようになる。通常、猪(いのしし)(バラーハ)、人獅子(しし)(ヌリシンハ)、亀(クールマ)、侏儒(しゅじゅ)(バーマナ)、魚(マツヤ)、ラーマ、パラシュラーマ、クリシュナ、ブッダ、カルキの10種の化身があげられる。
[上村勝彦]
ヒンドゥー教の主神の一つ。すでにインド最古の聖典《リグ・ベーダ》で,全宇宙を3歩で闊歩したとたたえられている。彼のおおいなる3歩の中にいっさい万物は安住し,彼の最高歩(最高天)には蜜の泉があるとされた。これは,太陽が東の地平から出て,中天に達し,再び西の地平に没することを歌ったと考えられる。このベーダの太陽神は,ヒンドゥー教において,ブラフマー(梵天),シバとならぶ三大神の一つとなり,ブラフマーが宇宙を創造し,ビシュヌが維持し,シバが破壊するとされた。シバが山岳と関係あるのに対し,ビシュヌは海洋と縁が深い。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々は大海をかくはんして不死の飲料アムリタ(甘露)を得ようとした。ビシュヌはその際に海中から生じたシュリー・ラクシュミー(吉祥天女)を妻とし,宝珠カウストゥバkaustubhaを首に懸けた。彼はアムリタを盗もうとしたラーフRāhu(日食,月食を引き起こす悪魔)の首を,その武器であるチャクラ(円盤)で切った。彼はまた,神々のもとからアムリタを運び去ろうとした巨鳥ガルダ(迦楼羅,金翅鳥)と友情を結び,乗物とした。彼は大蛇シェーシャを寝台として海上で眠る。ブラフマーはそのへそに生えた蓮花から現れたといわれる。ビシュヌは種々に化身(アバターラavatāra)して,悪魔に苦しめられる生類を救うとされる。化身の種類と数についてはさまざまな説があるが,なかでも,猪,人獅子(ヌリシンハ),亀,侏儒,魚,ラーマ,パラシュラーマ,クリシュナ,仏陀,カルキの10化身が有名である。
執筆者:上村 勝彦
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…砂岩のブロックを積み上げて建てられた巨大な聖殿で,その全景のシルエットが美しいため,クメール建築の最高傑作としてたたえられている。12世紀前半にスールヤバルマン2世によって造営されたヒンドゥー教(ビシュヌ派)の霊廟寺院である。すなわちこの寺院はスールヤバルマン2世の死後,葬儀を行う所として建設され,王は死後の幸福を願って,ビシュヌ神に帰依している。…
…その崇拝の対象は多種多様であり,強大な勢力をもつ神々から山川草木に至るまでが対象となる。ベーダ聖典において有力であった神々は退き,ブラフマー(梵天),ビシュヌ,シバの三大神格を中心に展開したが,ブラフマーは中世以降多くの信者を得ることができなかった。しかしビシュヌはラクシュミーを神妃として化身(アバターラavatāra)の理論によってクリシュナ信仰やラーマ信仰や仏教をも包摂した。…
…これがいわゆるヒンドゥー教の神話である。ヒンドゥー教の主神はブラフマー(梵天)とシバ(大自在天)とビシュヌ(毘瑟笯,毘紐)である。ブラフマーはウパニシャッド哲学の最高原理ブラフマン(中性原理)を神格化したもので,宇宙創造神,万物の祖父(ピターマハ)として尊敬されるが,他の2神のように幅広い信仰の対象となることはなかった。…
…旧約聖書に見られる古代イスラエル人の神話でも,神が天地を創造する以前には世界は一面の海原だったとされ,そのありさまが《創世記》の冒頭に,〈地は形なく,むなしく,やみが淵のおもてにあり,神の霊が水のおもてをおおっていた〉と記されている。インドの神話によれば,世界のはじめには,茫漠たる大洋の上で宇宙の維持者である大神ビシュヌが,一頭の巨大な蛇を寝台にして長い冥想の眠りに耽っている。時が熟するとこの神の臍から蓮が生え出て花を開き,その中に創造神ブラフマーが誕生することによって,世界の創造が開始される。…
…丸く盛り上がった背の甲は天空を,平たい腹の甲は地を思わせるからである。ビシュヌ神の十の化身の一つクールマアバターラは亀(クールマ)の姿をとる。またインドでは亀はヤムナー川の女神の乗物の役をも務めている。…
…ヒンドゥー教の神。ビシュヌ神の化身(アバターラavatāra)の一人で,ラーマ王子とともにインドの民衆にこよなく愛され続けてきた英雄神である。クリシュナは前7世紀以前に実在した人物であるとみなされ,遊牧に従事していたヤーダバ族Yādavaの一部ブリシュニ族に生まれたという。…
…ヒンドゥー教の教理のひとつで,ブラフマー神(梵天)とビシュヌ神とシバ神は,実は同一神,ないし宇宙の最高原理の別名にほかならないということを意味する。大叙事詩《マハーバーラタ》の補遺としての性格をもつ《ハリ・バンシャ》に,すでに,ビシュヌ神とシバ神は同一であるとの見方が説かれているが,プラーナ文献にいたって,ブラフマー神を加えた三神が同一であることが表明されるようになった。…
…ヒンドゥー教,とくにビシュヌ派の人々が聖草とし崇拝の対象とする多年草。シソ科のメボウキの一種のカミメボウキOcimum tenuiflorum L.(=O.sanctum L.)で,英名sacred basil,holy basil。…
…タイ,アユタヤ朝のプラーサートーン王家第4代の王(在位1657‐88)。ナライはビシュヌ神の別名(ナーラーヤナ)で,王の一身にまつわる超人伝説による命名という。父王プラーサートーンを継いで即位した兄を叔父と謀って除くと,さらにその叔父をも殺してみずから王位についた。…
…ヒンドゥー教三主神のうち,維持神ビシュヌの天国で,世界の中心メール山(須弥山)の南斜面にあり(一説にはメール山の東方,あるいはマンダラ山の頂上ともいう),その宮殿は黄金に宝石をちりばめて常恒の光に包まれ,天界からガンガーの清流がここに降下するといわれる。ビシュヌはバイクンタ・ナータ(バイクンタの主)とよばれ,神妃ラクシュミーとともに白い蓮華の上に座し,蓮華の香りが遠くまで広がっているという。…
…(2)プラーナ(〈古譚〉の意) 自ら〈第五のベーダ〉と称し,一般大衆のヒンドゥー教に関するいわば百科事典ともいえる聖典である。宗派的色彩が濃厚で,だいたいビシュヌ派か,シバ派のいずれかに属している。18の大プラーナと18の副プラーナとが現存しているが,なかでも《ビシュヌ・プラーナ》と《バーガバタ・プラーナ》とがとくに尊重されている。…
…最古の遺構は中インドのウダヤギリ石窟でその第6窟に401年にあたる年記がある。ほかにデーオーガルのビシュヌ神の石積寺院(6世紀初期)を除けば,グプタ朝時代の現存例はきわめて少ない。次いで南インドで6世紀末期から300年間互いに抗争を繰り返したチャールキヤ,パッラバ,パーンディヤの3王朝の治下にヒンドゥー教文化はおおいに高揚した。…
※「ビシュヌ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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