ペニシリン(読み)ぺにしりん(英語表記)penicillin

精選版 日本国語大辞典 「ペニシリン」の意味・読み・例文・類語

ペニシリン

〘名〙 (penicillin) 一九二九年イギリスフレミングペニシリウム‐ノタトゥム(Penicillium notatum)というアオカビから発見命名した抗生物質。抗生物質として初めて実用化されたもの。特に肺炎淋病効果がある。〔毎日年鑑(1946)〕

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デジタル大辞泉 「ペニシリン」の意味・読み・例文・類語

ペニシリン(penicillin)

抗生物質の一。1928年にA=フレミングアオカビ(学名ペニシリウム)から発見。アンピシリンなどの合成ペニシリンもある。ぶどう球菌淋菌りんきん・梅毒スピロヘータ肺炎双球菌などに有効。

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百科事典マイペディア 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン

世界で最初に発見された抗生物質。1929年A.フレミングがアオカビの一種の培養液中に,グラム陽性菌発育を阻止する物質を発見し,ペニシリンと命名。1940年E.チェーン,H.フローリーらが臨床的に有効なことを報告(〈ペニシリンの再発見〉。これにより1945年3人はノーベル生理医学賞)。以来,種々の感染症の治療に常用されている。アオカビの代謝産物として得られるものにはペニシリンG,X,Fなどがあり,Gはブドウ球菌,連鎖球菌,肺炎球菌等のグラム陰性菌の感染症や,淋(りん)菌症,梅毒等のスピロヘータ症などに頻用(ひんよう)される。6-アミノペニシラン酸(6-APAと略)からの部分合成,または天然に得られるVは酸に対して安定で経口投与が可能,同様に6-APAから部分合成されるα‐フェノキシプロピルペニシリンはペニシリン耐性ブドウ球菌症にも有効。ペニシリンは体内のタンパクと結合して抗原となって,発熱発疹,ショックなどのアレルギー性過敏症を起こすことがある。特にペニシリンショックアナフィラキシーショックの一種で,発生頻度は数万回の投与に1回程度とされるが,死亡することも少なくない。問診免疫反応による予診,投与前後の安静保持等が必要。(図)
→関連項目エリスロマイシン回帰熱化学療法サルバルサン猩紅熱脊髄癆テトラサイクリンファイザー[会社]フローリー淋病

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン
ぺにしりん
penicillin

治療薬として最初に使われた抗生物質。1928年、イギリスの細菌学者フレミングが、ブドウ球菌の培養中に偶然アオカビが培地に混入してその周辺でブドウ球菌の溶菌現象がおこっているのを認め、このアオカビPenicillium notatumの培養液中に抗菌作用を示す物質のあることを発見、その物質をペニシリンと命名した。しかし、熟練した化学者の協力がなく、治療価値を調べられる程度まで濾液(ろえき)を精選濃縮することができないまま約10年間も放置されていた。かくして1940年に至り、イギリスの病理学者フローリーと生化学者チェインらによって初めて粉末状に分離され、化学的に安定な形で使われるようになり、ヒトのグラム陽性菌感染症にすばらしい治療効果を示すことが実証され、抗生物質時代の幕開きとなった。これをペニシリンの再発見とよんでいる。

 ペニシリンは当初単一物質と考えられていたが、F、G、X、Kの4種が混在していることがわかり、そのうちG(ベンジルペニシリン)が生物学的活性および安定性において優れていることが明らかとなった。現在、ペニシリンには天然(生合成)ペニシリンと合成ペニシリンとがあり、それぞれ経口用と注射用に分けられている。

 天然ペニシリンには、主として注射用に使われるベンジルペニシリンカリウムやベンジルペニシリンプロカイン、経口用のベンジルペニシリンベンザチンやフェノキシメチルペニシリンカリウムがある。

 一方、ペニシリンの母核である6-アミノペニシラン酸の合成に成功(1957)し、現在のペニシリン製剤の大部分は合成ペニシリンになった。初めはペニシリンの欠点である耐性菌やアレルギーの発生の少ないものとして、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリンなどが開発されたが、現在ではグラム陽性菌ばかりでなく、グラム陰性菌にも有効なアンピシリンより始まる合成ペニシリンが主流を占め、アモキシシリン、タランピシリン、バカンピシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、ヘタシリン、シクラシリン、カルベニシリン、スルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、メズロシリンがあり、緑膿(りょくのう)菌にも有効なものが開発された。

 なお、ペニシリンは化学構造上、基本骨格にβ-ラクタム環をもつところから、同じくβ-ラクタム環をもつセファロスポリン系抗生物質とともに、β-ラクタム系抗生物質とよばれている。

[幸保文治]

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化学辞典 第2版 「ペニシリン」の解説

ペニシリン
ペニシリン
penicillin

ペナム(penam)ともいう.1928年,A. Fleming(フレミング)はアオカビPenicillium notatumがぶどう球菌などのグラム陽性菌の発育を阻害する物質をつくっていることを発見し,ペニシリンと名づけた.1940年にH.W. Florey,E. ChainとE.P. Abrahamは,粗精製したペニシリンに顕著な臨床効果があることを動物実験で示し,世界最初の抗生物質の誕生となった.ペニシリンは精製され,ペニシリンG,X,Fなどの類似物質の混合物であることがわかった.グラム陽性菌にすぐれた抗菌活性を示すが,グラム陰性菌の細胞膜まで到達しにくく,グラム陰性菌には効かない.作用機序は,細菌の細胞壁を構成するペニシリン結合タンパク質(ペプチドグリカン層の架橋酵素)に結合して,この酵素の阻害により細菌を破壊する殺菌作用である.ヒトの細胞には細胞壁がないので,細菌のみに選択毒性を示す.ペニシリンショックとよばれるアレルギー性過敏反応を示すヒトがいることを除き,副作用はほとんどない.ペニシリンG(ベンジルペニシリン)は,耐性菌が出るまでは非常によく使用されていた.ペニシリンG:C16H18N2O4S(334.40).白色の粉末.+282°(エタノール).水に難溶.そのカリウム塩は水に易溶で,注射薬として用いられる.ペニシリンの母核である6-aminopenicillanic acidにいろいろな側鎖を結合した多くの化合物が合成され(表参照),ペニシリン系抗生物質とよばれる.これらのなかには,広域スペクトラムをもつものや,緑膿菌にも有効なものもある.ペニシリン系抗生物質にセフェム系抗生物質を合わせてβ-ラクタム系抗生物質と総称される.

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世界大百科事典 第2版 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン【penicillin】

世界で最初に発見され,最初に臨床に応用された抗生物質。その後も改良が続けられて,その医薬品としてのすぐれた性質のため,この群に属する抗生物質は現在でも細菌感染症の治療薬として第1位の座を占めている。 1928年,イギリスのA.フレミングは,偶然に混入したアオカビPenicillium notatumがブドウ球菌の発育を抑えていることを見つけ,このカビがグラム陽性菌に対する強い抗菌性物質を産生していること,さらにそれは低毒性であることを認め,この物質をペニシリンと名づけた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン
penicillin

代表的な抗生物質。 1928年,イギリスの A.フレミングがアオカビから発見し,その後ペニシリンの単離と抽出の技術が開発されて,抗生物質の急速な進歩のさきがけとなった。主としてグラム陽性菌,レンサ球菌,肺炎菌,淋菌,髄膜炎菌などの感染症の治療に用いられる。副作用は軽度の発疹,発熱など。注射中または注射後数分以内に頭痛,発汗,胸内苦悶,血圧下降などの症状を呈することがある (ペニシリンショック) ので,過敏体質の患者には禁忌である。臨床に用いられているペニシリンの合成品は種々ある。

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栄養・生化学辞典 「ペニシリン」の解説

ペニシリン


 グラム陰性菌の発育阻止作用がある抗生物質.ペニシリンGカリウム塩 (C16H17KN2O4S (mw372.49)) など諸種の化合物がある.

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世界大百科事典内のペニシリンの言及

【化学療法】より

…まもなく,このプロントジルの有効成分は体内で分解されて生ずるスルファニルアミドであることがわかり,以後今日まで,その誘導体は数千種以上も合成され,そのうちサルファ剤の総称で各種細菌性疾患の治療に用いられてきたものも多数に及ぶ。このドーマクの発見に先だつ1929年,イギリスのA.フレミングは,たまたま寒天培地上の黄色ブドウ球菌の集落が,その周辺にできたアオカビの集落によって溶けることを観察し,アオカビの培養濾液の中に各種細菌の発育を阻止する物質(ペニシリン)のあることを報告した。10年後,この報告から出発してイギリスのチェーンErnst B.Chain(1906‐79)とフローリーHoward W.Florey(1898‐1968)は,ペニシリンの再検討と実用化にのり出し,さらにアメリカの協力を得て工業生産にも成功した(1941)。…

【抗生物質】より

…日本では,これに〈抗生物質〉という語をあてている。1929年のA.フレミングによるペニシリンの発見,38年から41年にかけてのH.W.フローリーらによる〈ペニシリンの再発見〉以降,新しい抗生物質の探索が世界的に始まった。したがって,抗生物質という言葉も物質も比較的新しいものである。…

【梅毒】より

…1910年P.エールリヒ,秦佐八郎によって有機ヒ素剤であるサルバルサンが開発され,初めての化学療法剤として梅毒の治療に用いられたが,治療効果は不十分であり,副作用が多発した。40年代以降は,梅毒に対してはペニシリンを中心とする抗生物質による治療が行われるようになった。ペニシリンの治療効果は優秀であり,現在でもなお,梅毒の治療にはペニシリン中心の抗生物質療法が実施されている。…

【フレミング】より

…第1次大戦の勃発とともに陸軍軍医団に加わり,フランスの野戦病院に派遣されたが,18年再び母校に戻り,29年に細菌学教授となった。早くから抗細菌性物質の研究を行い,1922年には溶菌酵素,リゾチームの発見などの業績をあげたが,最大の功績はペニシリンの発見であった。28年,使用済みとして放置しておいたブドウ球菌の培地にカビが混入し,そのカビの周りでは菌の発育が阻止されていることに気づき,そのカビを培養して得られたブドウ球菌発育阻止物質にペニシリンと名づけ,翌29年に発表した。…

【フローリー】より

…25年アメリカに遊学した後,27年イギリスに戻り,28年ケンブリッジ大学病理学講師となり,シェフィールド大学病理学教授(1931),オックスフォード大学病理学教授(1935)。チェーンE.B.Chainとともに,A.フレミングが1929年に報告したペニシリンの研究に着手し,ペニシリンの性状を明らかにするとともに,40年には動物の連鎖球菌感染症のペニシリンを用いた治療実験に成功した。41年アメリカに渡り,研究所や製薬会社を訪れ,ペニシリンの研究に関心を抱かせ大量生産の緒をつくった。…

【明治製菓[株]】より

…43年明治産業(株)と改称。第2次大戦後は農畜水産加工品の生産から開始するとともに,戦争末期から手がけていたペニシリンの製造を46年から始め医薬部門に進出した。47年には社名を元に戻し明治製菓(株)とし,砂糖,小麦粉などの統制撤廃とともに50年前後から菓子の本格的製造を再開。…

※「ペニシリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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