前期更新世の初期ホモ属(ヒト属)の一種。初期ホモearly Homoともいわれる。猿人と原人の中間に位置するので,どちらに属するか意見が定まらないが,ここでは原人に含める。年代は,確実なのは190万~180万年前だが,240万~160万年前という報告もある。タンザニア,ケニア,南アフリカなどで化石が発見されている。模式標本は,1964年にタンザニアのオルドバイ渓谷で発見された下顎骨や頭頂骨片などを含む個体骨格(OH 7)。ホモはヒト,ハビリスは器用なあるいは有能なという意味。ホモ・ハビリスは,1960年代にオルドバイ渓谷からリーキーL.S.B.Leakeyによって化石が発見され,トバイアスP.B.Tobiasたちによって命名されたが,資料が断片的であること,また猿人と原人の中間的な特徴であったことから,独立の種といえるかどうか疑問がもたれていた。一時は,所属不明の化石を集めたゴミ箱とまでいわれた。1970年代に,リーキーR.Leakeyによってケニアのトゥルカナ湖東岸のクービ・フォラでさらに頭骨化石(KNM-ER 1470,1813など)が発見されると,ホモ・ハビリスとして広く認知された。
なお,ホモ・ハビリスという分類群は,小型の狭義のホモ・ハビリス(KNM-ER 1813など)を指す場合と,さらに大型のホモ・ルドルフェンシス(KNM-ER 1470など)をも含めた広義のホモ・ハビリスを指す場合とがあるが,ここでは狭義のホモ・ハビリスについて述べる。猿人と比べると,脳頭蓋は丸みを帯び,眼窩上隆起の後方では額の膨隆がやや認められる。頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は550~650mlであり,猿人より大きいが,ホモ・ルドルフェンシスやホモ・エレクトスなどの原人よりは小さい。口吻は華奢型猿人の多くのようには突出しない。歯は,華奢型猿人と比べても小臼歯と大臼歯が小さくなっている。身体の化石は少ししか見つかっていないが,個体骨格(OH 62)は非常に小型で(推定身長120cm),アウストラロピテクス・アファレンシスの小型な女性個体ルーシーと同様に,腕が長く,脚が短く,原始的な特徴があるといわれる。粗雑なオルドバイ型石器を使った。
→ホモ・ルドルフェンシス
執筆者:馬場 悠男
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化石人類の一種。ケニア生まれのイギリスの人類学者L・リーキーと妻の先史学者M・リーキーはタンザニアのオルドワイ渓谷で、1959年ジンジャントロプス・ボイセイを発見したが、ボイセイを、伴出した原始的な礫(れき)石器の製作者と考えた。年代も180万年前と推定されたため、このニュースは世界の注目の的となった。ところがリーキーは、1964年に従来の説を訂正し、新たな発見を公表した。ボイセイ発見の翌年、発見地のそばのやや古い層から、脳頭蓋(とうがい)がそれより丸みを帯びて膨らみ、もっときゃしゃな顎骨(がくこつ)が発見されたというのであり、彼はこれにホモ・ハビリスと命名するとともに、前述の礫石器の製作者兼使用者はハビリスであり、ボイセイはハビリスによって滅ぼされたのであると解釈を変えた。ホモ・ハビリスとは「能力あるヒト」という意である。当初は資料が少ないため、多くの論争をよんだが、その後、同類の人骨がオルドワイ渓谷、ケニアのトゥルカナ湖東岸など東アフリカの大地溝帯各地から多数発見されており、南アフリカのスタークフォンテイン遺跡などから出土した化石のなかにも同類化石があると指摘されている。なお、ケニアの東トゥルカナからは脳頭蓋が大きく、顎面や歯も頑丈な標本が出たため、ハビリスには大小2種類があるとされ、大型のものはホモ・ルドルフェンシスとよばれる。脳容量は600ないし700ミリリットルであり、猿人と原人の間をつなぐ。頭骨は薄く、進歩的である。下肢骨は直立二足歩行に適し、手の骨から力強い把握能力が示唆される。このような点からリーキーは、ハビリスを石器製作者と考えたのであり、ハビリスを現生人類の祖先とみなし、ホモ属に入れ、その歴史の古さを強調した。
[香原志勢]
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既存最古のホモ属の種。リーキー夫妻が1960年にタンザニアのオルドヴァイ渓谷で初めて顎骨(がくこつ),頭骨片と手の骨を発見し,64年に命名した。以後,東アフリカと南アフリカの各地から出土している。年代は約240万~170万年前,人類進化史上,アウストラロピテクスとホモ・エレクトゥスの間に位置する。脳容量が約600~700ccとアウストラロピテクス類より大きい。一部のものをホモ・ルドルフェンシスなどとし,別種とすることがある。
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(馬場悠男 国立科学博物館人類研究部長 / 2007年)
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…アウストラロピテクス化石は,大柄(身長約165~180cm)で骨の厚い〈ごつ型〉と,小柄(身長約130~150cm)で骨の薄い〈やさ型〉に大別される。一部の専門家は後者こそ人類直系の祖先だと主張し,その一部を現代人と同属のホモ・ハビリスHomo habilisと呼んでいる。化石の発掘された地層の分析から,彼らはすでに森林を捨てサバンナまたは草原に住んでいたこと,きわめて加工度は低いが石器を使用していたことがわかっている。…
…なお,古く1940年代,50年代に記載されたアジア(ジャワおよび中国南部)の人類化石中に,がんじょうな猿人のものにあたるとされる化石があるが,異論もあり,断片的な化石でもあることから,確認しえない。
[ハビリス人]
1964年,L.リーキーらがタンザニアのオルドバイ(旧称オルドワイ)からの化石にもとづいて,ホモ・ハビリスの学名で記載して以来,主として東アフリカで化石が知られ,南アフリカからも出土が示唆されている。比較的保存がよく,有名になっているものとして,1970年代にトゥルカナ湖東部で発見され,R.リーキーによって報告されたKNM‐ER‐1470(ケニア国立博物館の資料番号)頭骨があり,よく1470頭骨と略称されている。…
…64年に,リーキーはジンジャントロプスよりもさらに下層から,より進歩した形質をもった人骨が発掘されたという発表を行った。リーキーはそれにホモ・ハビリスという名前をあたえ,オルドバイ第I層の石器を製作したのはジンジャントロプスではなくて,このホモ・ハビリスであったに違いないという新見解を示した。しかも前に発見されたジンジャントロプスは石器製作の能力がなく,ホモ・ハビリスの手にかかって殺されえじきとなった生物ではあるまいか,とさえ考えられるようになった。…
… 猿人から原人への移行,換言すればホモ属の出現をめぐって,いわゆるハビリス説と単種説とが鋭く対立している。ホモ・ハビリスなどすでにホモ属の特徴をそなえた人類が,200万~150万年前にアフリカヌスやロブストゥスと共存し,この2種は原人へはつながらず絶滅したとするハビリス説は,最古の猿人であるアファレンシス種から約250万年前にハビリスとアフリカヌスが分かれ,ハビリスは原人・旧人段階をへて現生人類にまで進化したのにたいし,アフリカヌスはロブストゥスへ発展した後,約100万年前に絶滅し去ったというD.C.ヨハンソンの説によって代表される。これにたいして,ハビリスとアフリカヌス,ロブストゥスの形態上の相異は同種内の変異にすぎないとみるC.L.ブレースらは,アウストラロピテクスはすべて一つの種に属し,アファレンシス,アフリカヌス,ロブストゥスは種のレベルで区別されるべきものではなく,それぞれは進化段階を示すもので,ロブストゥスから原人段階へ発展したと主張する。…
…アウストラロピテクス化石は,大柄(身長約165~180cm)で骨の厚い〈ごつ型〉と,小柄(身長約130~150cm)で骨の薄い〈やさ型〉に大別される。一部の専門家は後者こそ人類直系の祖先だと主張し,その一部を現代人と同属のホモ・ハビリスHomo habilisと呼んでいる。化石の発掘された地層の分析から,彼らはすでに森林を捨てサバンナまたは草原に住んでいたこと,きわめて加工度は低いが石器を使用していたことがわかっている。…
※「ホモハビリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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