家庭医学館 の解説
ほるもんないぶんぴつのしくみとはたらき【ホルモン(内分泌)のしくみとはたらき】
◎内分泌腺と内分泌細胞
◎ホルモン分泌のしくみ
◎ホルモンの病気の主要な症状
◎ホルモンとは
私たちの体内は、いつも一定の状態に保たれています。これをホメオスターシス(からだの恒常性(こうじょうせい))といいます。
たとえば、私たちの体温は、夏でも冬でも、外気温に影響されることなく、36℃内外に保たれていますが、これは、ホメオスターシスを維持するはたらきが、からだに備わっているからです。
このホメオスターシスが維持できなくなると健康が損なわれ、下手(へた)をすると、生命が危険になります。体温が40℃を超えると、エネルギーを有効に発生させることができなくなって、生命にかかわるようになるのです。
このホメオスターシスを維持する一方の主役が神経系で、もう一方の主役がホルモンです。
体内が常の状態とはちがってくると、ホルモンをつくる細胞からホルモンが分泌され、神経系と協力して、体内を元の状態にもどそうとします。
体内には、ホルモンをつくる腺(せん)と呼ばれる細胞のかたまりがあって、ホルモンを必要とする事態に直面すると、ここから分泌されてきます。このホルモンをつくる細胞のかたまりを内分泌腺(ないぶんぴつせん)(コラム「外分泌と内分泌」)といいます。
ホルモンは、「呼び覚ます」という意味をもつギリシア語で、眠っているからだを目覚めさせ、成長や代謝(たいしゃ)をうながすようにみえる作用を示すところから、こういう名称がつけられたのですが、その後の研究で、からだのはたらきを抑制するように作用するホルモンもあることがわかっています。
たとえば、視床下部(ししょうかぶ)から分泌されるホルモンは、下垂体(かすいたい)(脳下垂体)からホルモンを分泌(放出)させる作用をもっているので放出促進因子(ほうしゅつそくしんいんし)と呼ばれていますが、下垂体からのホルモン分泌を抑制するホルモンも分泌されていて、放出抑制因子(ほうしゅつよくせいいんし)と呼ばれています。下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑えるソマトスタチンがその代表です。
◎内分泌腺(ないぶんぴつせん)と内分泌細胞(ないぶんぴつさいぼう)
内分泌腺には、下垂体、甲状腺(こうじょうせん)、副甲状腺、副腎(ふくじん)、膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島、卵巣(らんそう)、睾丸(こうがん)(精巣)、松果体(しょうかたい)、胸腺(きょうせん)があります。
胃、小腸(しょうちょう)、心臓からもホルモンが分泌されていますが、腺からではなく、細胞からホルモンを分泌するので、これらの臓器は内分泌腺には含まれていません。
また、視床下部からもホルモンが分泌されていますが、これも神経内分泌器官に分類され、内分泌腺には含まれていません。
しかし、腺も細胞の集まりですし、腺以外の臓器や器官からのホルモンも細胞から分泌されるので、最近は、内分泌腺を含めて内分泌細胞(ないぶんぴつさいぼう)という名称で呼ぶようになっています。
内分泌細胞をもつ腺、器官、臓器の名称、そこから分泌されるホルモンとそのはたらきは、(表「おもなホルモンとはたらき(1)」、表「おもなホルモンとはたらき(2)」)を参照してください。また、内分泌細胞が存在する位置を(図「おもな内分泌細胞とホルモン」)に示しました。
◎ホルモン分泌のしくみ
からだには、必要なときに、必要な量を、必要とする部位へ、必要な期間(または時間)、ホルモンを送り届ける巧妙なシステムが備わっています。
そのシステムを、副腎皮質ホルモンの1つのコルチゾールが分泌されるまでを例にとって説明してみましょう。
大量のコルチゾールが必要な事態が生じると、その情報が神経系を介して脳の視床下部に伝えられます。
すると視床下部は、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンを分泌します。
このホルモンは、下垂体(脳下垂体)前葉(ぜんよう)を刺激し、そこから副腎皮質刺激ホルモンを分泌させます。
下垂体前葉から分泌された副腎皮質刺激ホルモンは、血液とともに全身を巡り、腎臓(じんぞう)の上にのっている副腎の皮質の部分に到達し、そこにある細胞の受容体と結びつきます。
すると、副腎から多量のコルチゾールが分泌され、血液によって必要とする部位まで送り届けられます。
ホルモンは、このように血液によって目的とする部位へ運ばれると考えられてきたのですが、最近になって、そのホルモンを分泌した細胞自身にはたらくオートクリン作用や、近くの細胞にはたらくパラクリン作用のあることもわかってきました。
ところで、分泌される量が多すぎると、コルチゾールが過剰になり、クッシング症候群という病気がおこってきます。
逆に、必要とする時期に必要な量の副腎皮質ホルモンが分泌されないと、アジソン病などがおこります。
このようなことがおこらないように、私たちのからだには、状況に応じてホルモンの分泌量を調節するシステムが備わっています。
●ネガティブフィードバック機構
コルチゾールが分泌されて血液中の量が増えると、このコルチゾールが下垂体の前葉を刺激し、副腎皮質刺激ホルモンの分泌を抑制します。この結果、副腎皮質を刺激していた副腎皮質刺激ホルモンの量が減り、コルチゾールの分泌も少なくなります。
このようなホルモン分泌のしくみをネガティブフィードバックといい、甲状腺ホルモンのサイロキシン(T4)の量もこのしくみで調節されています。
また、血液中のホルモン以外の物質の量が変化してネガティブフィードバックがはたらくこともあります。
たとえば、血糖(けっとう)の値が高くなると、それが刺激となって、血糖を処理するインスリンの分泌が増え、血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌が減ります。
そして、血糖の値が低くなると、インスリンの分泌量が減り、グルカゴンの分泌量が上昇します。
副甲状腺ホルモンの分泌も、血液中のカルシウムの量で調節されています。
このネガティブフィードバックとは逆に、あるホルモンの分泌量が増えると、それが刺激となって、ほかのホルモンの分泌量が増えることがあります。このしくみをポジティブフィードバックといいます。
たとえば、卵巣からのエストロゲンの分泌量が増え、血液中の値が高くなると、それが刺激となって、卵巣からのプロゲステロンの分泌が増えます。
●神経系の分泌調節機構
視床下部と下垂体からのホルモンの分泌は、中枢神経(ちゅうすうしんけい)によって調節されています。
ストレス、睡眠、血圧などによって視床下部と下垂体から分泌されるホルモンの量が変動しますが、この変動の多くは、中枢神経によって調節されています。
また、胃腸から分泌されるガストリン、セクレチンなど、膵臓から分泌されるインスリンやグルカゴン、副腎の髄質(ずいしつ)から分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンは、自律神経によって分泌がコントロールされています。
●ほかのホルモンによる調節機構
グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチドというホルモンは、インスリンとグルカゴンの分泌を調節します。
下垂体前葉からのホルモンの分泌は、視床下部から分泌されるホルモンによって調節されています。
◎ホルモンの病気の主要な症状
ホルモンの病気では、(「ホルモンの病気のおもな症状と考えられる病気」)にあげるようなさまざまな症状がおこります。しかし、これらの症状はホルモンの病気以外の病気でもよくみられる症状が多く、ホルモンの病気とは気づきにくいものです。
治療を続けても、いっこうによくならないときは、最初に考えられていた病気ではなく、ホルモンの病気のことがあります。
なかなか症状が治まらないときは、一度、ホルモンの専門医の診察を受けてみる用心深さも必要です。
ホルモンの病気のおもな症状と考えられる病気
■顔
[あごが大きくなる]
末端肥大症
[満月のような丸い顔]
クッシング症候群
[眼球の突出]
甲状腺機能亢進症とは
■皮膚
[色素の沈着]
アジソン病
クッシング症候群
甲状腺機能亢進症とは
[色素の脱失]
下垂体前葉機能低下症
甲状腺機能低下症とは
[皮膚の肥厚]
末端肥大症
[皮膚の萎縮]
クッシング症候群
[むくみ(浮腫)]
甲状腺機能低下症とは
クッシング症候群
■毛髪体毛
[多毛]
クッシング症候群
副腎性器症候群
多嚢性卵巣症候群
[脱毛]
下垂体前葉機能低下症
アジソン病
甲状腺機能低下症とは
■循環器
[脈が速い]
甲状腺機能亢進症とは
[脈が遅い]
甲状腺機能低下症とは
[高血圧]
原発性アルドステロン症
クッシング症候群
末端肥大症
甲状腺機能亢進症とは
褐色細胞腫
[低血圧]
甲状腺機能低下症とは
下垂体前葉機能低下症
■精神神経
[だるい(全身倦怠感)]
下垂体前葉機能低下症
甲状腺機能低下症とは
[精神障害]
アジソン病
クッシング症候群
甲状腺機能亢進症とは
甲状腺機能低下症とは
副甲状腺機能低下症(上皮小体機能低下症)
[昏睡]
アジソン病
[けいれん]
副甲状腺機能低下症(上皮小体機能低下症)
■筋肉
[筋力の低下]
甲状腺機能亢進症とは
アジソン病
クッシング症候群
原発性アルドステロン症
■体重
[やせ]
甲状腺機能亢進症とは
下垂体前葉機能低下症
アジソン病
[肥満]
クッシング症候群
甲状腺機能低下症とは
性腺機能低下症
膵嚢胞/膵良性腫瘍/膵内分泌腫瘍
■身長
[身長が伸びない]
下垂体前葉機能低下症
甲状腺機能低下症とは
副甲状腺機能低下症(上皮小体機能低下症)
クッシング症候群
性早熟症
[身長が伸びすぎる]
下垂体性巨人症
■体型
[背が高く、手足が長い、肩幅が狭い]
クラインフェルター症候群
[翼状のくびのたるみ]
ターナー症候群
■性機能
[月経がなくなる]
高プロラクチン血症
末端肥大症
[インポテンスになる]
高プロラクチン血症
末端肥大症