ミレトス(その他表記)Milētos; Miletus

デジタル大辞泉 「ミレトス」の意味・読み・例文・類語

ミレトス(Milētos/Μίλητος)

小アジアにあったイオニア人都市国家。トルコ西部、メンデレス川の河口付近に位置し、エーゲ海に面する港があったが、現在は土砂の堆積により約15キロメートル内陸に位置する。紀元前7世紀以降、黒海沿岸に多くの植民都市を建設。前6世紀にはタレスアナクシマンドロスミレトス学派を生み、文化の中心となった。前2世紀よりローマの属州。オスマン帝国時代に港として利用されたが後に放棄された。小アジア最大級の劇場、公衆浴場アゴラなどの遺跡がある。

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精選版 日本国語大辞典 「ミレトス」の意味・読み・例文・類語

ミレトス

  1. ( Miletos ) 古代イオニアの最強の都市国家。紀元前七世紀以降、黒海沿岸に多くの植民市を建設し、前六世紀にはミレトス学派を生み、文化の中心として繁栄した。前四九四年ペルシアに破壊されたが、再建後ヘレニズム‐ローマ時代には再び栄えた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス
Milētos; Miletus

小アジア南西岸の古代ギリシアの都市。現トルコのサケイ南方に位置する。トルコ名バラト。居住年代はミノア文明にまでさかのぼると考えられる。ホメロスアカイア人と戦ったカリア人の居住地と伝える。伝承によれば,ギリシア系都市としての創始者はピュロスネレウスであった。エーゲ海沿岸,マイアンドロス河口に位置し,アナトリアの物資の輸出港として栄えた。東ギリシア最大の都市としてエジプトのナウクラテスをはじめとして,黒海沿岸などに 60以上の植民市 (アポイキア ) を建設。主要なものとして,アビドスキュジコス,シノペ,オルビアパンチカパイオンなどがある。前 499年頃にはイオニア諸都市の反乱を率いたが,ペルシアに敗北。ペルシア戦争後は,デロス同盟の一員となったが,前 412年に離反。前 334年アレクサンドロス3世 (大王) に征服された。その後,ヘレニズム諸王朝と友好を保ち,ローマ時代にはトラヤヌス帝治世まで,貿易港としての重要性を保っていたが,次第に港が土砂に浸食されるにつれて衰退し,6世紀頃には廃虚と化した。前5世紀以前には先進文化都市として,タレス,アナクシマンドロス,アナクシメネス,ヘカタイオスらのミレトス学派 (→イオニア学派 ) の哲学者を輩出し,前5世紀頃もアテネピレウスの設計者ヒッポダモス,詩人チモテオス,ペリクレスの愛人アスパシアらが当地出身として有名である。

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改訂新版 世界大百科事典 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス
Milētos

小アジアのエーゲ海沿岸に建設された古代ギリシアのイオニア諸市の中で,最も南に位置した主要都市。伝説では最初クレタ人あるいはカリア人によって建設され,イオニア植民市としては,アテナイ王コドロスKodrosの子ネレウスNēleusがカリア人の手から奪取して,前11世紀に建設したという。前8世紀ころより海上交易を盛んに行い,前7~前6世紀に黒海沿岸とその付近にキュジコス,パンティカパイオン,オルビアなど多数の植民市を建設した。エジプトのナウクラティスヘのギリシア人進出の先鞭をつけ,イタリアのシュバリスとも密接な関係を結んだ。前6世紀には文化の先進地としてタレス,アナクシマンドロスらミレトス学派の哲学者,地理学者ヘカタイオスなどを輩出した。前499年のイオニアの反乱を主導したミレトスは5年後に陥落し,徹底的に破壊された。イオニア解放後デロス同盟に参加し,前412年に離反するが,再びペルシアに支配され,前313年アレクサンドロス大王に攻略された。ヘレニズム,ローマ時代を通じて繁栄し,壮大な都市の景観を誇ったが,港湾の泥土沈積の結果衰退し,現在はほとんど無人同然の廃墟となっている。
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百科事典マイペディア 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス

小アジア西岸,イオニア地方の中心となった古代ギリシア都市。前8世紀以後海外交易で発展し,地中海,黒海沿岸に多数の植民地を建設,前7世紀には全盛期を迎えた。イオニア自然哲学タレスアナクシマンドロスらミレトス学派が輩出。ペルシア戦争の発端となったイオニア反乱の中心地で,前494年ペルシアに占領されてから衰退した。
→関連項目イオニア人ヒッポダモス

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス
みれとす
Miletos

小アジア(現在のトルコ)西岸部、イオニア地方にあった古代ギリシアの代表的ポリス(都市国家)。英語名ミリータスMiletus。紀元前11世紀ごろ建設されたとされるが、前700年ごろまで初期の歴史は不明。前8~前6世紀の植民時代には、プロポンティス(現在のマルマラ海)、黒海沿岸に多数の植民市を建設し、エジプトにも進出してナウクラティス市に足場を築いている。当時のミレトスは、有名な羊毛織物の生産、またギリシア哲学や歴史・地誌学を創始したタレス、アナクシマンドロス、アナクシメネス、ヘカタイオスらミレトス学派の輩出によって、商工業の発達と精神文化の高揚が察せられる。政治的には前6世紀に隣国リディア、次にペルシアに屈したが、かなり優遇された状態にあった。内政ではトラシュブロスヒスティアイオス、アリスタゴラスなどの僭主(せんしゅ)が出現したが、アリスタゴラスがイオニア反乱(前499~前494)の張本人であった。結局反乱は失敗に終わり、以後往時の繁栄を回復することはなかった。のち強国の間にあって独立を維持したが、前129年以降ローマの属州都市となった。

[豊田和二]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ミレトス」の解説

ミレトス
Miletos

イオニア南部の重要なポリスミケーネ文明の時代すでに先住カリア人にまじってギリシア人の定住がなされたらしい。植民時代には,前7世紀末以降,黒海沿岸に多数の植民市を建設し,ナイル・デルタにナウクラティスの基礎を置いた。前6世紀初め僭主(せんしゅ)が現れ,ついで貴族と平民の抗争が続いた。ペルシア戦争のきっかけとなったイオニアの反乱では指導的役割を演じたが,ラデ沖の海戦に敗れて(前494),市はペルシアの手中に落ち,以後衰えた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ミレトス」の解説

ミレトス
Miletos

古代イオニア地方最大の都市国家(ポリス)
ギリシア人の植民国家であるが,前8〜前6世紀には黒海沿岸などにその植民市を多く建設し,商業都市として栄えた。前6世紀半ばよりアケメネス朝(ペルシア)に支配され,のちイオニアのアケメネス朝に対する反乱の中心となって征服され(前494),ペルシア戦争の原因となった。戦後,再び栄えてデロス同盟にも加わった。ミレトスは,その商工業を背景にして,タレース・アナクシマンドロスらのいわゆるイオニア学派といわれる哲学者たちを生みだしたことでも有名。

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世界大百科事典(旧版)内のミレトスの言及

【イオニア】より

…伝承によれば,アテナイの王族の一人ネレウスが避難民を含むアッティカ在住の人々の一部を率いて海を渡り,この地方への植民を行ったという。植民活動は,その後もイオニア系ギリシア人によって波状的に行われ,前8世紀半ばには,ギリシアの他の地方に先がけて,キオス,サモス,ミレトス,プリエネ,エフェソスといった諸ポリスの成立を見る。ホメロスの詩編は,このころイオニアで成立したと推定されている。…

【ギリシア科学】より

…(1)植民市期の科学(前600‐前450),(2)アテナイ期の科学(前450‐前300),(3)アレクサンドリア期の科学(前300‐後250)。(1)植民市期の科学 ギリシア科学はイオニアの都市ミレトスに始まった。ここは〈当時生を享けたあらゆる賢者〉の集まったリュディアの都サルディスに近く,そこを介して早くからオリエントの進んだ文化を吸収したのみならず,植民市の中でもその産業(毛織物)によってもっとも栄え,エジプトをはじめ広く地中海周辺に活発な通商活動を行っていた。…

【ペルシア戦争】より

…ペルシア戦争を書き綴った〈歴史の父〉ヘロドトスも,前479年のセストス陥落をペルシア戦争最後の事件として取り扱っている。
[イオニア反乱(前499‐前494)]
 前499年,アケメネス朝ペルシアの支配下にあって経済的繁栄を回復し,〈イオニアの華〉に返り咲いていたミレトス市の僭主代行アリスタゴラス(僭主ヒスティアイオスダレイオス1世の側近に登用され,スーサにあって留守)は,市の有力市民と協議のうえ,ペルシアに対して反乱蜂起することを決定した。彼が提唱してペルシア軍まで動員させて敢行したナクソス島遠征が完全な失敗に終わったので,ペルシア側からの責任追及を恐れたのが直接のきっかけとして伝えられている。…

※「ミレトス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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