翻訳|melanin
チロシンから生合成されるフェノール類の酵素的および非酵素的酸化、脱炭酸、カップリング反応によって生合成された褐色ないし黒色の色素をいう。体表をはじめ動植物中に広く分布し、過剰の光を吸収する役割を果たしていると考えられている。メラニン細胞(メラノサイト)中のメラノソームにある銅イオン依存性のチロシナーゼによりチロシンが酸化され、ジヒドロキシフェニルアラニンdihydroxyphenylalanine(DOPA)が生成される。さらにDOPA-オキシダーゼによってドーパキノンとなり、その後はメラニン細胞で非酵素的にドーパクロム、インドールキノンへと重合してメラニンが生成される。これをユーメラニンeumelanin(真性メラニン)といい、黒褐色である。そのほか、ドーパキノンとシステインからジヒドロベンゾチアジンdihydrobenzothiazineを経て生合成される橙赤色のフェオメラニンpheomelanin(亜メラニン)、トリコクロムtrichochromeの3種が知られている。メラニン細胞は神経冠に由来する。メラニンの化学構造は明らかではないが、一種の高分子または一群の高分子物質と考えられている。皮膚の色はメラニン形成細胞の分布とメラニンの濃度によって左右されるが、その酸化の程度にも依存する。メラニン細胞は表皮と真皮の境界部に存在する。メラニン細胞またはチロシナーゼが遺伝的に欠除したものを先天性白皮症(はくひしょう)(先天性メラニン欠乏症)とよんでいる。
メラニンは正常人の網膜、毛様体、絨毛(じゅうもう)膜、脳の黒質、副腎髄質(ふくじんずいしつ)にも分布する。メラニン細胞が癌(がん)化したものが黒色腫(しゅ)(メラノーマ)で、黒色のものと、黒色でないものとがあるが、黒色でないメラノーマはDOPAで染色すると黒化する。また、メラニンはアスコルビン酸やヒドロ亜硫酸を用いて還元すると、黒色から黄褐色に変わる。ヒトの皮膚が紫外線で黒くなるのは、メラニン細胞でチロシンがDOPAになることによって始まる。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
『小川和朗・中根一穂・三嶋豊・水平敏知・鈴木庸之編『無機物と色素――組織細胞化学の技術』(1994・朝倉書店)』▽『梅鉢幸重著『動物の色素――多様な色彩の世界』(2000・内田老鶴圃)』▽『松本二郎・溝口昌子編『色素細胞――機能と発生分化の分子機構から色素性疾患への対応を探る』(2001・慶応義塾大学出版会)』▽『玉置邦彦編『最新皮膚科学大系第8巻 色素異常症』(2002・中山書店)』
種々の動物の皮膚,眼,脳軟膜などの組織内に広範に存在する褐色ないし黒色の色素の総称。皮膚,眼などの色素メラニンはアミノ酸のチロシンがチロシナーゼによって酸化されて生じる5,6-ジヒドロキシインドールが重合したものを骨格とする複雑な構造をもち,通常グロブリンと強固に結合したメラノプロテインとして存在している。メラニンはアルカリや温濃硫酸には溶けるが,水には溶けない。メラニンの生成は黒色素芽細胞が分化した黒色素胞(定温動物ではメラノサイトmelanocyte,変温動物ではメラノフォアmelanophoreと呼ばれることが多い)の細胞質内に形成される特殊な構造であるメラノソームmelanosome中で行われる。この過程は詳しく研究されている。メラノソーム中にはチロシンなどのフェノールとその酸化酵素を含み,形成されたメラニンを自己の内部に沈着する。成熟色素顆粒となるとチロシナーゼ活性も失われ,産生されたメラノソームは表皮細胞内へ移送され,皮膚,毛,羽毛,くちばしなどの暗色化をひき起こす。メラニンの細胞内における存在様式はさまざまであるが,黒色素胞は,体色変化に関与し,メラノソームの凝集,拡散を調節することにより体色の暗化,明化が行われる。この過程は,黒色素胞刺激ホルモンmelanocyte-stimulating hormone,メラトニンmelatoninなどのホルモンと色素胞神経によって支配されていることが知られている。メラニンは生体に過剰の光線に対する防御機構として役立っていると考えられるが,脳,副腎髄質などにおける役割は不明である。ヒトの幼児期に仙骨部などにみられる蒙古斑はメラニン色素細胞による。またヒトのチロシナーゼを遺伝的に欠損するとメラニンが形成されなくなり,いわゆる白子(しろこ)(白化症)となる。
執筆者:大隅 良典
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チロシンから生合成されたフェノール類のオキシダーゼによる酸化,脱炭酸,カップリング反応でつくられた,褐色または黒色の高分子色素.正確な組成は不明であるが,皮膚や髪などをはじめ,動物,植物界に広く分布する.生体内では過剰な光の吸収に役立つ.タンパク質とかたく結合して存在し,水やすべての有機溶媒に不溶である.その形成経路はチロシンが酸化されて
ドーパ → ドーパキノン → ドーパクロム
を経てインドール5,6-キノンになり,これが重合してできると考えられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(三浦志郎 資生堂ビューティーソリューション開発センター所長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報
…酵素的褐変は,果実や野菜に含まれるタンニンなどのポリフェノール成分が酸化酵素の作用によって酸化され,重合して褐変するもので,植物組織が傷つくと起こりやすい。動物の場合は,チロシンが酸化酵素チロシナーゼの作用によって酸化され,黒色色素メラニンをつくる。アスコルビン酸(ビタミンC)もアスコルビン酸酸化酵素の作用で酸化されると褐変しやすくなる。…
… 皮膚の色を基準として白色・黒色・黄色人種に分類する方法は最も普及している。この形質は主として表皮深層のメラニン色素の量に支配され,次に表皮角化層のカロチン,血中の血色素,メラニンの存在部位などの影響を受ける。ニグロイドはコーカソイドよりもメラニン細胞の数は50%未満しか多くないのだが,細胞内のメラニン顆粒の量に大差がある。…
…真皮は乳頭papillaと呼ばれる無数の突起を表皮に向かって伸ばしており,凹凸の激しい広い接着面により,表皮と真皮は決して離れることなくぴったりくっついている。真皮と表皮には,さまざまな程度にメラニン色素を含む色素細胞が存在し,いろいろな動物の体色のもととなっている。動物のなかには,カメレオンのように色素細胞の量が神経やホルモンの働きで著しく変化するものもある。…
※「メラニン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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