原子スペクトルにおけるスペクトル項を表すのに用いられる定数。分光学の開拓者であるスウェーデンの物理学者J・R・リュードベリは1890年ごろ、原子スペクトル系列を表す公式を経験的に導いた。スペクトル線の波数(波長の逆数)は一般に
のように表される。ここでRはリュードベリ定数、m、nは有効主量子数(m<n)とよばれ、主量子数から量子欠損とよばれる補正項を差し引いて求められる。Rは原子種に固有の定数であり、初めは実験式をつくるときにみいだされた値であるが、のちに量子力学の理論を使って、他の基本的物理定数との関係が明らかにされた。電子の質量をme、電荷をeとし、原子核の質量M、プランク定数h、光速度c、真空誘電率ε0を用いれば、SI単位系を使って
と表される。μは換算質量とよばれる。Rは原子核の質量に依存してわずかに変化する。水素原子(原子核の質量数=1)ではRH=10967758.34m-1である。これは、水素のイオン化エネルギー(約13.6eV)を波数単位で表した値に等しい。ちなみに、水素原子のスペクトルに対しては、量子欠損はゼロであり、波数は主量子数の組合せだけから求められる。M=∞に対するR∞は基本物理定数の一つで、一般にはR∞をリュードベリ定数とよぶことが多い。国際科学会議(ICSU)の科学技術データ委員会(CODATA)による2010年の推奨値は次の通りである。
R∞=10973731.568539m-1。
[鈴木 洋・中村信行 2015年3月19日]
水素原子の発する光のスペクトル線の波長λは,という式で表され(ただし,n,n′は整数),この式に現れる定数RHを水素原子のリュードベリ定数と呼ぶ。その名はJ.R.リュードベリにちなみ,RH=10967759m⁻1である。量子力学の理論によると,RHは,という式で表される(ただし,mは電子の質量,eは電子の電荷の絶対値,cは光速度,hはプランク定数,Mは陽子の質量)。この式は実験と正確に一致する。陽子の質量は電子の質量に比べてはるかに大きいから,上式の右辺のM/(M+m)は1に近い。これを1としたもの,すなわち,を,原子核の質量が∞(無限大)の場合におけるリュードベリ定数と呼ぶ。R∞=10973732m⁻1である。
→原子 →原子スペクトル
執筆者:伊藤 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原子スペクトルにおけるスペクトル項は,一般に
R/(n + a)2
(nは主量子数,aは量子欠損ないしリュードベリ補正項)と表されるが,ここに含まれる定数RはJ.R. Rydbergにより実験的に見いだされた定数で,リュードベリ定数とよばれる.理論的には電子電荷e,プランク定数h,光の速度c,電子の換算質量μにより,
R = 2π 2μ e4/ch3
と表される(cgs静電単位).μは電子の質量mと核の質量Mにより
1/μ = 1/m + 1/M
で与えられるから,Rの値は厳密には元素によってわずかずつ異なる.水素については
RH = 109677.5854 cm-1
で,これは水素原子のイオン化エネルギーに相当する.M = ∞のとき,すなわちμ = mのとき R∞ と書き,この値109737.31568527(73)cm-1 をリュードベリ定数ということもある.
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…ただし,R,a,a′は定数,n,n′は整数で,a,a′には何通りかの値がある。Rと前出のRHとはほぼ等しく,これらはリュードベリ定数と呼ばれる。スイスのW.リッツは,一般に原子スペクトルの光の振動数νが二つの項Tn′,Tnの差としてν=Tn′-Tnの形に表されることを発見した。…
※「リュードベリ定数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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