相対性理論における時間・空間の座標変換。ニュートン力学の法則は、互いに等速運動している座標系を用いても同じ形で与えられる。これはガリレイの相対性原理として知られていたが、1864年に定式化されたマクスウェルの電磁気学、および、その応用としての光の電磁波論の法則は、ガリレイの相対性原理を満足していなかった。このことから、光の波の振動媒質としてのエーテルの静止系が存在するかもしれないと一時期考えられていたが、1905年、アインシュタインが、ガリレイの相対論とは別の相対論が成立することを発見し、電磁気学を含むすべての法則についても、等速運動座標系間において相対性原理が成立していることが確認された。このアインシュタインの相対論における新しい時間・空間の座標の変換式がローレンツ変換である。この変換式は、1892年、H・A・ローレンツにより、電磁気学の法則を不変とする座標変換としてみいだされたものであるが、その同じ変換式を、アインシュタインは、光速度一定の原理と相対性原理を基礎に再発見した。これにより、ローレンツ変換は電磁気学に特有のものでなく、すべての法則の基礎である時間・空間に固有の性質であることが認識された。さらに1908年、ミンコフスキーは、この変換を時間・空間を含む四次元空間における回転に関する対称性として認識した。この対称性はすべての物質の存在形態を決定してもいるのである。
[佐藤文隆]
『アルバート・アインシュタイン著、金子務訳『特殊および一般相対性理論について』(1991・白揚社)』▽『馬場駿羣著『ローレンツ変換の新解釈――時計の遅れや双子のパラドックスの問題も解消しうる』(1991・科学同人研究会)』▽『砂川重信著『相対性理論の考え方』(1993・岩波書店)』▽『松田卓也・二間瀬敏史著『なっとくする相対性理論』(1996・講談社)』▽『菅野礼司著『微分形式による特殊相対論』(1996・丸善)』▽『小玉英雄著『相対性理論』(1997・培風館)』▽『戸田盛和著『相対性理論30講』(1997・朝倉書店)』
特殊相対性理論において用いられる慣性座標系(慣性系)の間の座標変換。ニュートン力学では,慣性系の間の変換はガリレイ変換で与えられるが,特殊相対性理論ではローレンツ変換がこれに代わる。一つの慣性系S(x,y,z,t)から,x軸方向に速度vで動くもう一つの慣性系S′(x′,y′,z′,t′)への座標変換は,光速度をcとして,
で与えられる。これをローレンツ変換といい,注目すべきは,時間もtからt′へ変換され,とくに時間と空間座標の間に移り変りが起こることである。時間は,もはや空間座標と独立なものではなく,時間と空間を統合した時空という概念に達しなければならない。上記の式そのものは,光速度が方向によって変わらないことを示したマイケルソン=モーリーの実験に関連してH.A.ローレンツがすでに導いていたので,現在でもローレンツ変換と呼ばれているが,アインシュタインはローレンツとは異なるまったく新しい解釈を与えたのである。
→相対性理論
執筆者:藤井 保憲
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… 正しい座標変換としてアインシュタインが(1)式に代わるものとして提出したのは,である。この変換式はローレンツ変換と呼ばれ,ローレンツがローレンツ収縮を導いた際に用いたものと同じ形であるが,その前提はまったく異なる(この式の導き方についてはコラム〈ローレンツ変換の導き方〉を参照)。 この変換式が示すもっとも著しい特徴は,空間と時間(xとt)とが互いに移り変わることである。…
※「ローレンツ変換」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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