金春禅鳳(読み)こんぱるぜんぽう

精選版 日本国語大辞典 「金春禅鳳」の意味・読み・例文・類語

こんぱる‐ぜんぽう【金春禅鳳】

室町後期の能役者、能作者。禅竹の孫。名は元安。通称八郎。金春座の大夫を継ぎ、古市澄胤の後援を得て大和から京都へ進出。青蓮院門跡尊応准后の援助で催した粟田口勧進能は名高い。作品に「嵐山」「一角仙人」、伝書に「毛端私珍抄」「禅鳳雑談」など。享徳三年(一四五四)生。

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デジタル大辞泉 「金春禅鳳」の意味・読み・例文・類語

こんぱる‐ぜんぽう【金春禅鳳】

[1454~1520ころ]室町後期の能役者・能作者。名は八郎元安。禅鳳は法名。禅竹の孫。金春座大夫として、観世座と対抗。作品に「一角仙人」「嵐山」、理論書に「毛端私珍抄」「反古裏之書」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「金春禅鳳」の意味・わかりやすい解説

金春禅鳳 (こんぱるぜんぽう)
生没年:1454(享徳3)-?

室町後期を中心に活躍した能役者。能作者でもある。金春禅竹の孫にあたる金春大夫。通称八郎。実名元安。法名桐林禅鳳。1460年(寛正1)11月,春日若宮祭の後,祖父禅竹に伴われて興福寺大乗院門跡尋尊のもとに参上したのが文献上の初出(《大乗院寺社雑事記》)。以後,祖父,父の金春宗筠(そういん)(1432-80)薫陶の下に修業し,72年(文明4)8月には,奈良古市の祭礼能に父の代演を務めるほどに成長した(《経覚私要抄》)。80年11月父の死去により金春大夫として一座を統率。83年足利義政の意向でいとこの日吉源四郎を,それ以前には守菊弥七郎をと,有能な脇師を次々に観世座に引き抜かれて打撃をこうむった(《親元日記》)が,興福寺衆徒の古市澄胤や河内の畠山氏の後援で,かろうじて流勢を保持した。93年(明応2)6月,初めて室町御所で演能したころから,幕府方面でもさかんに活躍を始め,管領細川政元や九州の大名大内義興らの後援を得るにいたった。これと前後して奈良,京都を中心にしばしば勧進能興行。その最も著名なのは,1505年(永正2)4月粟田口辺での4日間に及ぶ勧進能であり,当時52歳の禅鳳の充実ぶりをうかがわせる。

 一方,1490年(延徳2)6月に禅竹の伝書《五音十体》を書写相伝(宛先不明)したのを皮切りに,1505年(永正2)9月には《囃之事》を著して宮増弥六に相伝,11年8月嫡子金春氏昭(氏照)に《五音之次第》を相伝するなど,精力的に執筆活動を行うかたわら,数々の謡本を書写・相伝した。このほか執筆年次不明の《反古裏之書(ほごうらのしよ)》《毛端私珍抄(もうたんしちんしよう)》や,12年2月以降の芸談弟子の聞書した《禅鳳雑談(ぞうたん)》が知られる。いずれも当時の能の実態を伝える好資料であり,他の著作とともに,後代の能・囃子伝書の出発点をなす論として注目すべき内容を備えている。禅鳳の晩年期は不明な点が多く,18年ころまでは元安と称したが,以後出家して禅鳳となり,家督も氏昭に譲ったらしい。後に豊後に下り(《能口伝之聞書》),32年(天文1)没と伝える系図伝存するがさだかでない。禅鳳は能作者としても知られ,《嵐山》《生田敦盛》《一角仙人》《東方朔》《初雪》《黒川》の6曲は確実に禅鳳作と考えられる。きらびやかな扮装の登場人物たちが歌舞や荒々しい働きを演じる視覚的興味中心の構想のものが大半だが,題材や演出には異色な点もあり,観世信光観世長俊父子の作風とも対比しうる意欲作と評価できよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「金春禅鳳」の意味・わかりやすい解説

金春禅鳳
こんぱるぜんぽう
(1454―1520?)

室町後期の能役者、能作者。シテ方金春流の大夫(たゆう)。金春禅竹の孫で、実名は八郎元安。将軍足利義稙(あしかがよしたね)のひいきにより全盛を誇る観世座(かんぜざ)に対抗し、奈良の衆徒の後援を得て大和(やまと)に勢力を伸ばし、京都に進出して1505年(永正2)有名な粟田口(あわたぐち)の勧進能ほかを催している。作品に『嵐山(あらしやま)』『東方朔(とうぼうさく)』『生田敦盛(いくたあつもり)』『初雪』や、歌舞伎(かぶき)の『鳴神(なるかみ)』の原典となった『一角仙人(いっかくせんにん)』などがあるが、いずれも特色ある能である。著書に『毛端私珍抄(もうたんしちんしょう)』『反故裏之書(ほごうらのしょ)』、芸談に『禅鳳雑談(ぞうたん)』など。演出の実態を伝える資料として貴重である。

[増田正造]

『表章・伊藤正義編『金春古伝書集成』(1968・わんや書店)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「金春禅鳳」の解説

金春禅鳳 こんぱる-ぜんぽう

1454-1532? 室町-戦国時代の能役者シテ方。
享徳3年生まれ。金春禅竹の孫。59代金春大夫。観世座の勢力に対抗し,奈良興福寺の古市澄胤(ちょういん)の後援をえて大和で勢力をのばす。京都にも進出し,永正(えいしょう)2年粟田口(あわたぐち)で大規模な勧進猿楽(かんじんさるがく)を興行した。天文(てんぶん)元年?死去。79歳? 名は元安。通称は八郎。著作に「禅鳳雑談」,作品に「嵐山」など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金春禅鳳」の意味・わかりやすい解説

金春禅鳳
こんぱるぜんぽう

[生]享徳3(1454)
[没]?
室町時代の能役者,作者。禅竹の孫。俗称八郎元安。父宗 筠の死後,金春太夫となり,その活躍は父や祖父よりもはなばなしかった。没年は未詳であるが,孫の話などからみて,かなり長生きしたらしい。『嵐山』 (1518) ,『生田敦盛』『一角仙人』『東方朔』『初雪』の5曲は彼の作と認められ,新しい趣向をもつ曲と評されている。能楽論『毛端私珍抄』『五音之次第』『音曲五音』『禅鳳申楽談儀』などがある。

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百科事典マイペディア 「金春禅鳳」の意味・わかりやすい解説

金春禅鳳【こんぱるぜんぽう】

室町時代の能役者,能作者。実名元安。金春流の大夫。祖父金春禅竹らの指導を受けた。《囃之事》《五音之次第》などの著作,《嵐山》《一角仙人》などの作品がある。

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世界大百科事典(旧版)内の金春禅鳳の言及

【嵐山】より

…神物。金春禅鳳作。前ジテは木守(こもり)明神の化身。…

【一角仙人】より

四番目物五番目物金春禅鳳作。シテは一角仙人。…

【能】より

…次にその例を挙げるが,この中には,作者について多少の疑問を残しているものや,後に改作されて現在に伝えられていることの明らかなものも含めてある。 (1)観阿弥 《松風》《通小町(かよいこまち)》《卒都婆小町(そとばこまち)》《自然居士(じねんこじ)》,(2)世阿弥 《老松(おいまつ)》《高砂(たかさご)》《弓八幡(ゆみやわた)》《敦盛》《忠度》《清経》《頼政》《実盛》《井筒》《檜垣(ひがき)》《西行桜》《融(とおる)》《鵺(ぬえ)》《恋重荷(こいのおもに)》《砧(きぬた)》《班女(はんじよ)》《花筐(はながたみ)》,(3)観世元雅 《隅田川》《歌占(うたうら)》《弱法師(よろぼし)》《盛久》,(4)金春禅竹 《芭蕉》《定家(ていか)》《玉葛(たまかずら)》《雨月(うげつ)》,(5)宮増(みやます) 《鞍馬天狗》《夜討曾我》,(6)観世信光 《遊行柳(ゆぎようやなぎ)》,《鐘巻(かねまき)》(《道成寺》の原作),《紅葉狩》《船弁慶》《羅生門》《安宅(あたか)》,(7)金春禅鳳 《嵐山(あらしやま)》《一角仙人》,(8)観世長俊 《大社(おおやしろ)》《正尊(しようぞん)》。
【曲籍】
 一日の公演に演ずる能の数は,南北朝時代までは4~5演目にすぎなかったが,その後増加の道をたどり,室町時代中期から桃山時代にかけては7番から12番ぐらいの例が多く,一日17番という例さえ見られる。…

【風流能】より

…美少年が小歌,曲舞(くせまい),羯鼓(かつこ)などの芸能を尽くす《花月》,武士の鬼退治をみせる《土蜘蛛》,天人の舞が中心の《羽衣》など,人間の心理や葛藤を描くよりも見た目のおもしろさや舞台上のはなやかな動きを中心とした能を指し,広い意味では脇能(神霊が祝福を与える内容)も含まれる。なかでも観世信光作《玉井(たまのい)》《竜虎(りようこ)》《愛宕空也(あたごくうや)》,金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)作《嵐山》《一角仙人》,観世長俊作《江野島(えのしま)》《輪蔵(りんぞう)》などは,華麗な扮装の神仏,天仙,竜神などが次々と登場して舞台を動き回り,大がかりな仕掛けの作り物を活用し,アイ(間)も《玉井》の〈貝尽し〉,《嵐山》の〈猿聟〉,《江野島》の〈道者〉のように,にぎやかにくふうを凝らす(ただし,今日これらのアイは特別な場合しか上演しない)など,全体がスペクタクル・ページェント・ショーとして統一されている。日本では,スペクタクルやショーに類するものを古来〈風流〉と称したので,この種の能を風流能と名づけた。…

※「金春禅鳳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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