外交官が接受国において一般外国人よりも手厚い保護を受ける権利のことで,外交特権の一部にあたる。古代においては外国人は敵と同一視され,殺されたり奴隷にされたりするのがふつうであったが,中世イタリアの都市国家の間で通商が盛んになるにつれ,相互に国家の代表を常駐させる必要が生じてきた。不可侵権は,そのために,一般の外国人と区別してこれら使節に特別に認められるようになった権利の一つであり,今日では,常駐使節だけでなく,元首や国際会議に派遣される全権委員などに対しても認められる。この権利の裏返しとして,接受国は,外国の外交官の生命,身体,名誉,財産,書類,個人的住居をみずから侵害しない義務を負うだけでなく,一般の私人が侵害しないように特別の注意を払う義務をも負い,もし侵害が生じたならば,とくに手厚い救済措置をとらなければならない。
外国の使節団の公館の不可侵権にならって,外国の軍艦および軍事基地も不可侵権を有するとされるので,艦長,船長または司令官の要請または承諾がないかぎり,接受国(領域国)の公務員はこれらの場所に立ち入ることができない。また,公文書,書類,公用返信も不可侵なので,接受国は,外国の使節団が用いる暗号をみだりに解読してはならない。こうした外交官の不可侵権は,1961年の〈外交関係に関するウィーン条約〉に詳しく定められているが,それにもかかわらず,外交官が人質となる事件が頻発したため,73年には〈外交官を含む国際的保護を受ける者に対する犯罪の防止と処罰に関する条約〉が,79年には〈人質行為防止条約〉が採択された。外国の領事も不可侵権を有するが,外交官の不可侵権が国際慣習法として確立しているのに比べ,領事の不可侵権は条約--たとえば,1963年の〈領事関係に関するウィーン条約〉--によって定められた範囲内においてのみ認められるにすぎない。
執筆者:波多野 里望
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国際法上、外国人は現に滞在する国家の管轄権に服するのを原則とするが、例外的に、通常の管轄権行使以上に丁重に手厚い保護を受ける場合があり、これが権利として認められるのが不可侵権である。外交官の不可侵権は外交特権にあたる。外交使節は本国の威厳を代表するとともに特別の任務に携わる外国の国家機関として、接受国の介入を排除するとともに、接受国は敬意をもって丁重に待遇することを要する。接受国は、その身体・名誉に関しては一般の外国人以上に手厚い保護を与えなければならず、また、使節の館邸や文書はこれを侵してはならない。したがって、使節の逮捕、抑留、拘禁、侮辱などは許されず、接受国はその保護にとくに留意し、侵害ある場合には侵害した者をとくに重く処罰しなければならない。接受国の官憲は職務執行のためでも使節の同意なしには館邸およびその個人的住居に立ち入ることはできず、令状の送達も原則として許されない。
このほかに、外国にある国家元首、外務大臣、軍艦、軍隊、軍用機、領事などにも、国際慣習法または条約によって不可侵権が認められる。
[広部和也]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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