人が不当にその身体を拘束されない自由をさす。身体の自由ともいう。伝統的な自由権の一つである。身体の自由が保障されない限り、人はいっさいの対外的活動が抑制される。その意味で、人身の自由は人間にとって基本的な自由である。明治憲法もこれを保障していたが、その保障は不完全で、不法監禁、拷問などの人権蹂躙(じゅうりん)が多く行われたので、日本国憲法は、人身の自由につき詳細な規定を設けた。人身保護法(昭和23年法律199号)の制定もこの趣旨に沿ったものである。
[池田政章]
日本国憲法に定められた人身の自由は次のとおりである。
(1)原則的規定 だれでもどのような奴隷的拘束を受けず、強制労働のように意に反する苦役は、犯罪による処罰以外は禁止される(18条)。したがって、労働者の監獄部屋(たこ部屋)や人身売買などの前借金による拘束制度、あるいは戦時中の国民徴用のような制度は許されない。ただし、議院や裁判所に証人として出頭し証言する義務や、非常災害など緊急の場合における応急的な労務負担などは苦役の強制とはいえない。また、被疑者・刑事被告人の自由の拘束について、適法手続の保障を規定し(31条)、権力の濫用を制限した。この適法手続の保障は刑事手続のみならず、行政手続にも適用されるものと解されている。
(2)被疑者の権利 不法な逮捕に対する保障として、令状(逮捕状、勾引(こういん)状、勾留状)を必要とし(憲法33条)、現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)と緊急逮捕(同法210条)だけが例外とされた。そして抑留、拘禁に際し弁護人依頼権が保障されている(憲法34条)。また私生活の中心である住居の不可侵(35条)と公務員による拷問の禁止(36条)が規定されている。
(3)刑事被告人の権利 公平かつ迅速な公開裁判を受ける権利と、被告人に有利な証言をすると思われる証人の出廷を認め(37条)、黙秘権を保障し(38条)、遡及(そきゅう)処罰の禁止および一事不再理(39条)などが規定されている。
[池田政章]
身体活動の自由のことで,身体の自由ともいう。その保障は古くはマグナ・カルタ(1215)にさかのぼるが,この自由は資本主義経済の前提条件をなし,その保障が一般化するのは,市民革命後である。この自由は対私人の意味ももつが,それは刑法(たとえば逮捕・監禁罪)や民法(不法行為に基づく損害賠償)によって保護される。したがって,このような保護の体制の確立後は,人身の自由は主として対国家権力の意味でいわれる。この意味での自由は刑事手続(捜査,公判,刑の執行)で侵害されることが多いが,行政手続(たとえば課税に関する調査)でも問題になりうる。人身の自由は,精神的自由権や経済的自由権とともに,自由権を構成する基本的人権の一つである。また,議会制民主主義の前提条件としても,参政権や精神的自由権に準ずる重要な意味を持つ。明治憲法も人身の自由に関する規定(22,23,25条)を含んでいたが,実際には非常に不当な侵害が行われ,拷問も珍しくなかった。それに対して,日本国憲法は人身の自由や刑事手続に関する非常に詳細な規定をおいている。その基本原則である適法手続主義を規定する31条は,手続と実体(犯罪と刑罰の内容)の両面について,法律で適正に定めることを要求している(したがって罪刑法定主義を含む)。またこれは行政手続にも準用される。
日本国憲法は,さらに,手続面から,主として被疑者の権利として,逮捕(33条),抑留・拘禁(34条),住居侵入・捜索・押収(35条)に対する保障,拷問の禁止(36条)を,また主として被告人の権利として,法廷手続における権利(37条),自白における保障(38条),〈二重の危険〉の禁止(39条。〈一事不再理〉の項参照)を規定している。実体面については,居住・移転の自由(22条),奴隷的拘束・苦役からの自由(18条),残虐刑の禁止(36条),事後法の禁止(39条)が定められている。このような規定にもかかわらず現に身体の自由を不当に拘束されている者は,人身保護法に基づいて,裁判によって救済を求めることができる。しかし,別件逮捕や自白の強要等,刑事手続における人身の自由の侵害が問題となる事例は現在も跡を絶たない。
執筆者:浦田 一郎
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