他人が製作中の物を,完成したら買いたいとか,買いたい土地があるが,今は金がないので1年以内に金を用意して必ず買えるようにしたいという場合には,他日売買契約をすべき旨の約束がなされる。このように,将来一定の契約(本契約--この例では売買契約)を締結すべきことをあらかじめ約する契約を,予約という。予約のねらいは,将来締結したいと望む本契約のため,事前に相手方を拘束しておくことにある。予約には,予約上の権利者が本契約を成立させようとする場合に,(1)相手方が承諾の義務を負うものと,承諾なしにただちに本契約が成立するもの(すなわち,予約完結権を認めるもの)との2種がある。そして,(2)予約上の権利者が当事者の一方であるか(これが多い),双方であるかによって,普通は,(1)が片務予約と双務予約に,(2)が〈一方の予約〉と〈双方の予約〉に,分かれる。当事者はこの4種類のいずれを選ぶこともできる。しかし,民法はとくに売買の一方の予約について規定し(民法556条),これを他の有償契約に準用する(559条)から,もし当事者の意思が不明のときは,一方の予約と推定するのが妥当であろう。
予約は,本契約の成立に必要な意思表示(ただし,要物契約(契約が成立するために,当事者の合意のほかに物の引渡し等の給付を要する契約)の場合は同時に物の引渡しを伴う)をなすべき債務を発生させる契約だといってよいから,それ自体は債権契約(債権・債務の発生を目的とする契約)だが,本契約は,売買契約などの債権契約に限られず,質権・抵当権の設定の契約とか婚姻・養子縁組の契約とかであることもありうる。本契約が不能または不法の内容をもつために無効な場合は,予約も無効である。本契約が一定の方式に従うことを要する要式行為である場合に,予約も同一の方式を備える必要があるかどうかは,要式行為とされる理由のいかんによって異なる(たとえば,贈与の予約と手形振出しの予約)。予約上の権利者の本契約締結の申込みに対し,義務者がその義務に反して承諾の意思表示をしないときは,権利者は訴えにより義務者の意思表示に代わる判決を求め(414条2項但書),または債務不履行として損害賠償を請求し(415条),あるいは予約の解除をすることができる(541条以下)。この反面,権利者の本契約締結の意思表示につき期間が定められていないときは,義務者の法的地位が不安定のまま続くおそれがあるので,義務者には予約上の拘束から離脱しうる機会が与えられている(556条2項,559条)。
予約の経済的作用は広い。債権者が,債務者などの特定の財産につき〈代物弁済の予約〉や〈停止条件付代物弁済契約〉をさせ,債務不履行の場合はその財産を代物弁済に当てることが行われる。ことに不動産等については,予約上の権利がこれを仮登記(仮登録)することにより第三者にも対抗できることを利用し,いわゆる仮登記担保として賞用される。また,金融の手段として〈再売買の予約〉(〈買戻し〉の項参照)も多く用いられる。
民法は,消費貸借を要物契約とし(587条),その予約は当事者の一方の破産により失効する旨定める(589条)が,借主となるべき者の財産状態が悪化したにとどまるときは,当然に失効するのではなく,貸主となるべき者は予約を失効させうる,と解されよう。これに対し,近時は諾成的消費貸借を有効と認める学説が有力に主張され,銀行実務も場合によりこの立場をとるようである。また,将来婚姻をなすべきことを約する契約すなわち婚姻予約(婚約)は,これを理由として相手方に婚姻の成立(届出はもとより同棲も)を強制しえず,正当な理由なしに婚約を破棄した者に損害賠償を求めうるにとどまるという点で特色がある。
一般に予約と呼ばれていても,単に履行期が将来になるだけで,すでに本来の契約関係が発生しているものは,ここでいう予約ではない。試みに,新刊書,切符,ホテル,会場などの予約を考えると,たとえば新刊書の予約は実質的には本契約であり,またホテルの予約については,これを本契約と解する説と一方の予約だとする説とが対立している。要するに,名称にとらわれず,それぞれの実態に即して具体的法律効果を考えるべきである。
執筆者:中馬 義直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
日常用語としては、予約購読、ホテルの予約、建築中の住宅の購入予約などと多義的に用いられるが、法律用語としての予約は、将来本契約を締結することを約する契約をいう(本来の予約という)。当事者は本契約を締結する債務を負うが、相手方が本契約の締結に応じないときは、訴えを提起して勝訴判決を得なければならない。しかしこれは実用的でないので、民法は売買の予約につき「売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる」と規定した(556条1項―売買の一方の予約)。売買の一方の予約は当事者の一方に予約完結権があり、予約完結の意思表示をすると、相手方の承諾を待たずに本契約たる売買契約が成立する。双方に予約完結権がある場合には、売買双方の予約という。
ある不動産について売買の予約がなされても、売買の本契約は成立していないので所有権の移転登記はできないが、予約完結権を仮登記して権利を保全しておくことができる。また予約完結権は譲渡することができる。譲渡は債権譲渡の方法(民法467条)によるが、仮登記された予約完結権の譲渡は仮登記移転の付記登記をすれば足りる。仮登記された予約完結権は、債権担保の機能をもち、仮登記を用いた債権担保については、1978年(昭和53)に成立した「仮登記担保契約に関する法律」が適用される。
[伊藤高義]
『内田貴著『民法Ⅱ 第2版 債権各論』(2007・東京大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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