不動産について本登記をするのに必要な条件が完備しない場合に,後日行われる本登記の順位を確保しておくため,登記簿にしておく予備的な登記をいう(不動産登記法2条)。仮登記は次のような場合に利用される。(1)登記すべき権利変動(所有権の移転,抵当権の設定など)はすでに生じていて,本登記をするための法律上の実質的要件は備わっているにもかかわらず,登記申請に必要な手続上の条件が完備しない場合。たとえば,所有権の登記名義人が,その不動産を売り渡したり,抵当権を設定したにもかかわらず,所有権移転の本登記や抵当権設定の本登記の申請に協力しないときなどがこれにあたる。(2)まだ登記すべき権利変動は生じていないが,将来その権利変動を生じさせるべき請求権が法律上生じている場合(たとえば,不動産の売買予約がされ,予約権利者が将来売買予約を完結させる旨の意思表示をすることにより所有権を移転させることのできる請求権が生じている場合)に,その請求権を保全しておこうとする場合である。(3)登記すべき権利変動の時期が一定の条件にかかっている場合(たとえば,農地が売買され,所有権の移転が農地法上の許可にかかっている場合)に,その条件が具備するまでの間,その権利を保全しておく場合などである。
仮登記は,仮登記名義人となる者(仮登記権利者)と仮登記に応ずる義務のある者(仮登記義務者。たとえば,所有権の仮登記の場合は所有権の登記名義人)の共同申請によって行うのが原則である(26条)が,仮登記義務者の承諾書または仮登記仮処分命令の正本(仮登記権利者が仮登記原因を裁判所に疎明した場合発せられる)を添付した場合は,仮登記権利者が単独で申請することもできる(32,33条)。仮登記は,それ自体では権利を第三者に対抗する効力を有しないが,本登記の順位保全の効力を有するので,のちに本登記がされれば,その本登記の順位は仮登記の順位による(7条2項)。たとえば,AからBへの所有権移転の仮登記がされた後に,AからCへの所有権移転の登記がされた場合において,後日,AからBへの仮登記に基づく所有権移転の本登記がされると,この順位は初めの仮登記の順位によることとなる。その結果,Bの本登記と抵触するCの所有権移転登記は,Bの本登記をする際に抹消される(105条2項)。このように,仮登記をすれば,順位保全の効果が得られ,また仮登記の手続が簡便であるところから実務上かなり利用されている。
→登記 →不動産登記
執筆者:坂本 昭
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不動産の本登記をするのに必要な要件が備わらない場合に、将来の本登記の順位を保つためにあらかじめする登記をいう。仮登記は、不動産の売買がなされたものの、登記の申請に必要な書類が完備しない場合(不動産登記法105条1号)や、売買の予約で、買い主がまだ所有権を得てはいないが予約者としての権利を確保する必要がある場合(同法105条2号)などに利用される。仮登記は、当事者双方の申請を原則とするが、相手方の承諾書をつけて申請することもでき(同法107条)、相手方の承諾がない場合には、裁判所に申請して仮登記仮処分命令を出してもらうことによっても仮登記ができる(同法108条)。本登記に比べて手続も簡単で、登録免許税も安いので、乱用される傾向にある。仮登記はそれだけでは登記としての効力(たとえば、あとから出てきた者に自分の権利を主張する力)をもたないが、あとで本登記をすれば、その本登記の順位は、仮登記の順位による(同法106条)。
[高橋康之・野澤正充]
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