改訂新版 世界大百科事典 「企業グループ」の意味・わかりやすい解説
企業グループ (きぎょうグループ)
現代社会では,企業が孤立して存在することはなく,企業間においてさまざまな形での結合が行われている。とりわけ日本では企業間結合が広範囲に,そして密接に行われているが,これは,日本における取引全体に占める企業間取引のウェイトが高いことと密接な関連がある。企業は企業間取引を安定化,長期化させるために企業間結合を行うが,逆に企業間結合が広範囲に進められているために企業間取引が多くなるということにもなる。このような企業間結合の形態としては第1に企業系列,第2に企業集団があるが,これらを総称して企業グループという場合がある。
企業系列は,大企業が傘下に多くの子会社,関係会社,系列会社を抱え,これらを支配しているもので,一般にはタテの系列と呼ばれる。企業系列という言葉は日本では第2次大戦中に使われだしたが,下請制の発展したものとしてとらえられている。現在も企業系列化の動きは盛んで,大企業による中小企業との賃金格差の利用,リスク回避,大企業組織の肥大化対策などの目的で行われている。系列化のための武器として使われているのが株式所有,役員派遣,融資などだが,これらは同時に親会社(親会社・子会社)と系列会社との間の取引関係を安定化させることを目的にしている。企業系列がタテの支配形態であるのに対し,第2の企業集団は大企業間でのヨコの結合形態である。このようなタテの企業系列,ヨコの企業集団という結合形態は,他の資本主義国にも存在する。ドイツのコンツェルン,アメリカの利益集団(インタレスト・グループ)などであるが,企業間結合のあり方,内容はそれぞれの国によってかなり異なる。
企業集団
日本の企業集団は,以下の六つの標識を備えたものをいう。(1)株式相互持合い(株式相互保有ともいう) 日本では大企業間で株式の相互持合いが盛んに行われているが,とりわけ企業集団内の企業間で進んでいる。そこでは,A社がB,C,D,……社の株式を所有し,B社もA,C,D,……社の株式を所有するというように,多角的,有機的で,円環状の持合いになっている。(2)社長会の結成 企業集団メンバーの会長,社長による会合が定期的に開かれており,そこでは企業集団メンバーの企業にかかわる重要な問題が討議される。この社長会は秘密会で,法的な拘束力はもたないが,しかし株式相互持合いを基盤にした人的組織である以上,事実上の大株主会としての性格をもっている。(3)系列融資 各企業集団の中核メンバーには都市銀行がなっており,これが,同一グループの信託銀行,生命保険会社などと協力して,グループ・メンバーの企業に系列融資を行っている。一般に系列融資を行う銀行をその企業にとってのメイン・バンクと呼ぶが,企業集団メンバーのメイン・バンクには中核銀行がなっており,その地位が変動することはめったにない。(4)集団内取引 企業集団メンバーは互いに商品の取引を行っているが,多くの場合この集団内取引を仲介し,さらに集団メンバーと集団外企業との取引を仲介しているのが総合商社である。各企業集団はそれぞれ中核に都市銀行と並んで総合商社をもっており,この総合商社は商品の売買だけでなく,企業集団メンバーによるさまざまなプロジェクトのオルガナイザーとしての役割もはたしている。(5)共同投資 企業集団メンバーが協力して共同投資会社を設立する動きは,すでに昭和30年代初頭に原子力,石油化学等の分野でみられたが,40年代にはデベロッパー,情報産業,石油資源開発などで盛んになった。リスクの大きい巨大プロジェクトに対して企業集団メンバーが協力してあたろうとするもので,同時にこれが企業集団の結束を強める役割をはたしている。(6)総合的な産業体系 企業集団は,特定の産業分野だけの企業構成ではなく,総合的な産業体系をもっている。もっとも,各企業集団とも重化学工業分野の企業が主要メンバーになっており,重化学工業偏重の体質をもっている。
以上の標識を備えているものとして三菱,三井,住友の旧財閥系3グループと芙蓉(ふよう),第一勧銀,三和の新興3グループがあり,これらを総称して六大企業集団と呼ぶ。これらは6標識をほぼ備えており,旧財閥系3グループのほうがより完全で,新興3グループは不完全であるという相違がある。歴史的にみれば,日本の企業集団は第2次大戦前の財閥の延長線上にある。戦後アメリカ占領軍によって財閥解体が行われたあと,企業集団として再編成されたのが旧財閥系3グループであり,戦前の二,三流財閥,新興コンツェルン系の企業や独立系の企業が大銀行を中心に集まり企業集団を形成したのが新興3グループである。戦前の財閥と戦後の企業集団とを比べた場合,前者は財閥本社である持株会社を頂点にしたピラミッド型のコンツェルンで,財閥家族が究極的支配者であったのに対し,後者は企業間の株式相互持合いで,家族支配ではなくなっている点が最大の相違点である。
独立系大企業
公正取引委員会の調査によれば,1981年度の金融業を除く総資産上位100社のうち六大企業集団の社長会メンバーは54社である。これら企業集団メンバー以外の大企業を独立系大企業と呼ぶ。独立系大企業はいずれも傘下に数多くの系列会社を抱えており,その点では企業集団メンバーの大企業と同じである。ただ,企業集団内の大企業どうしのようなヨコの結合はない。もちろん独立系大企業も,それぞれ取引先の銀行や企業と株式を持ち合い,それぞれがメイン・バンクをもって系列融資を受けており,結合商社との取引関係もある。しかし,その株式相互持合いは,企業集団のような円環状の持合いではなく,個々の企業と複数の銀行や企業との放射状の持合いにとどまっており,それだけ独立系大企業は経営者の相対的独立性が強い。もちろん独立系大企業といえども孤立して存在しているのではない。その多くは六大企業集団と近い関係を保っている。たとえば日立製作所(日立グループ)は,芙蓉,第一勧銀,三和の3新興グループの社長会に重複して加入しており,3新興グループに近い独立系大企業ということができる。また松下電器産業(松下グループ)のように,いずれの企業集団の社長会にも属していないが,その内容からみると住友グループに最も近い,というようなものもある。こうして独立系大企業の多くは1個ないし複数の企業集団と親しい関係にあったり,あるいは独立系大企業どうしで結びついていたりで,完全に独立の大企業というものは存在しない。
日本の支配的資本
95年度における六大企業集団の社長会メンバーは185社(金融・保険を除くと161社)で,日本の全法人企業約245万社に対して社数では0.008%にすぎないが,総資産では約49%,資本金では約19%を占めている。なお,金融・保険を除く161社についてみると,総資産で11%,資本金で14%となっている(東洋経済新報社の資料による)。1941年に九大財閥が日本企業全体に占める払込資本金の比率は18.5%であったから,95年度に六大企業集団が日本経済に占める地位は戦前の財閥より高くなっているといえる。現在の日本の大企業体制のなかで支配的地位を占めているのは六大企業集団と独立系大企業群とであり,それらは一方において競合しながら他方では直接,間接につながりあっている。経団連(経済団体連合会)をはじめとする財界団体においても,これら企業集団と独立系大企業の経営者が支配的な地位を占めている。ただ,産業構造の変化につれて,支配的資本の勢力地図も変化してくる。これまで優位であった重化学工業中心体質の企業集団が,今後の産業構造の変化で,その地位に変化が起こることも予想される。
日本の企業集団に対して近年外国からさまざまな批判や非難が寄せられるようになった。とりわけ貿易摩擦の問題がクローズアップされるとともに,日本の企業集団が貿易摩擦の原因ではないかという批判がアメリカの議会や政府,さらにEC(ヨーロッパ共同体)から出されている。具体的には,企業集団メンバーが集団内取引を優先して,そのため外国製品の輸入を阻害しているという批判だが,これに対し日本政府や財界団体は,集団内取引のウェイトはそれほど高くないと反論している。しかし単に集団内取引に限らず,企業集団が株式相互持合い,社長会,系列融資などによって堅く集団内で結合していることは厳然とした事実であり,さらに企業系列を含めて日本における企業間結合が他国に例をみないほど広範囲で,かつ密接であるという事実は否定できない。このような企業間結合,その結果としての企業グループに対し,日本の独占禁止法は株式所有などの面で規制を行っているが,アメリカやヨーロッパに比べその規制は弱い。したがって,他に例をみないほど進展した日本の企業間結合,企業グループの存在が他国から強い批判を受けるのである。
執筆者:奥村 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報