中国の清代以降の非宗教的反体制秘密結社の総称。会も党も“なかま”の意味で,もとは単に会といったが,清末に孫文ら革命党が合作を働きかけていらい,会党と連用するようになった。権力の側からいえば,反体制秘密結社のメンバーはなべて〈匪〉であるが,〈匪〉は宗教的迷信を結合紐帯とする〈教匪〉と,宗教をもたぬかあるいは主要な要素としない〈会匪〉とに大別され,後者が会党である。前近代には白蓮教などほとんど〈教匪〉一色だったのにたいし,近代に会党が簇出(そうしゆつ)したのは時代の一特色なのである。会党の起源は清初の天地会に求められるが,近代で著名なのは華南の三合会,華中の哥老会など,いわゆる紅幇(ホンパン)である。同性質のものでも名称を異にするものはきわめて多く,青幇(チンパン)も広義には会党に含められる。
およそ一定の成熟段階に達した社会には,洋の東西を問わず,かならず社会のはみだし者としての遊民=ルンペンプロレタリア層が析出され,そこになんらかの仲間的結合が生みだされるものだが,会党はその中国版である。アヘン戦争(1840-42)敗北後,中国社会の半植民地半封建社会化にともない,かつてないほどの遊民層が析出され,会党簇生の基盤となった。旧来の王朝体制下の地主の収奪にくわえて,列強による資本主義,帝国主義の収奪がおこなわれたためである。その一部は移民(華僑,苦力(クーリー)など)として国内外へ流れ,一部ははみだし者(行商人,人足,博徒など)として社会的差別をうけながら在地社会に不安定に存在した。このようなはみだし者の組織としての会党(もちろん正業に就いている成員もいたが)は,まず第1に仲間の相互扶助組織であり,第2に外にたいして仲間の利益をまもる行動組織であった。ゆえに,〈劫富済貧〉のスローガンを掲げて富者を劫掠(ごうりやく)することもあったし,極限的には〈反清復明〉のスローガンを掲げて清朝支配に“造反”することもあったのである。
会党の結合紐帯は〈義気〉である。義気とは日本語の義俠心にほぼ当たろう。劉備,関羽,張飛が義兄弟の契りを結ぶ《三国演義》のあの〈桃園の結盟〉を想起すればよい。少林寺の5僧の反清結盟を起源とする天地会の起源伝説に代表されるような,歴史的事実をいくらか反映した開創伝説をどの会も持っているが,それはその会の系譜を示し,擬制的同族意識を確立するためのものである。会の創設はまず山堂を開くことから始まる。山中などの秘密の場所で神位(少林寺五祖,関聖帝など)を祭り,規約を立て,結盟の儀式をおこなう。各山堂は同じ哥老会のものでも,当時の社会経済の分散状況を反映して,それぞれに独立しており,原則的に対等の関係にある。会内では首領(正竜頭)以下,ヒエラルヒー(位階制)はあるが,上下関係は比較的ゆるやかである(青幇はかなりきびしい)。規約は,対内的な相互扶助,団結保持と,対外的な秘密厳守とを主眼にしたものである。権力の敵として生命をかけねばならないのだから,保証人,宣誓など,入会条件はきびしい。会員はまず組織に忠誠でなければならず,仲間の窮乏,官憲に追われるなどの困難にたいして無条件に援助せねばならない。仲間内での詐欺盗姦などはもちろん厳禁である。禁を犯した者には,笞刑(ちけい),耳削(そ)ぎから死刑にいたる刑罰が執行される。会員には独特の符牒文字を用いた会員証が渡される。会員身分は秘密だから,日常,公衆の面前では,隠語と茶碗陣などの方法で身分確認などの〈対話〉をおこなう。茶碗陣とは喫茶のさいに,一方がある形に並べた茶碗を相手が特定の形に並べかえることによって意思を疎通する,一種のサインである。
会党は反清の伝統をもつほとんど唯一の社会的勢力だったから,清末の革命党はそれを革命のために利用しようとした。興中会は華南の三合会,華中の哥老会のいくつかの山堂の首領と連絡して,会党と革命党の連絡組織としての興漢会を作り,さらに海外の洪門(致公堂)とも連絡した。また華興会,光復会も哥老会と結んでそれぞれ同仇会,竜華(りゆうげ)会を組織した。それらはいずれも会党が革命党の理論と指導を受けいれてできたものである。これは会党史上に新局面を開くことだったが,その歴史的役割は基本的に辛亥革命で終わった。
執筆者:狭間 直樹
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中国で秘密結社のことをいう。中国には古くから各種の異端信仰を中心とする民間秘密結社が多数存在していた。とくに18世紀後半以降、旧社会の解体が進むにつれ、遊民や交通労働者、鉱夫、小商人、農民、下層吏員、失業兵士などを中心に、一部の在野読書人も参加した各種の「会」が多数生まれた。18世紀後半に福建で生まれた天地会、その支派である小刀会、三合会、山東の白蓮(びゃくれん)教の流れをくむ大刀会などはとくに知られ、却富済貧(こうふさいひん)、替天行道などのスローガンを掲げてしばしば蜂起(ほうき)し、平時は首領を中心に家父長制的なギルド(帮(パン))的結合によって相互扶助の機能をも果たした。太平天国運動以後、それらのなかには滅満興漢、ないし反満復明(みん)の宗旨を掲げて地方政権を樹立するものも出現した。とくに四川(しせん)におこった哥老(かろう)会は19世紀後半以後、華中一帯に拡大し、反キリスト教暴動にも大きな役割を果たした。
辛亥(しんがい)革命前、孫文(そんぶん)ら革命派はこれらの「会」の武力に着目して提携しようとし、彼らを「会党」と総称するようになった。
[小島晋治]
政治的色彩を強く帯びた中国の秘密結社。清末の中国各地ではさまざまな反乱や蜂起が続き,不安を抱いた民衆は救済を求めて相互扶助的な集団を形成した。天地会,哥老(かろう)会,三合会などはその代表。民間宗教団体のほか,同業者組織もその紐帯となり,辛亥(しんがい)革命では革命派の一翼を担った。
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