原子核の励起された状態が崩壊してよりエネルギーの低い状態に遷移する場合に,γ線を放出するかわりに,軌道電子をたたき出す現象。一度γ線が放出され,それが電子に吸収されるという二次的な過程として起こるものではなく,γ崩壊とは独立に起こるもので,したがって,その分だけ崩壊定数は大きくなっている。放出される電子のエネルギーは,遷移エネルギーから電子の束縛エネルギーを差し引いたものとなり,γ線のエネルギーよりやや小さくなる。また電子がたたき出された後の空孔が高い軌道の電子で埋められるために,X線やオージェ電子の放出を伴う。
内部転換を引き起こすのはγ崩壊と同様に電磁相互作用であり,内部転換の確率Neは理論的に計算されるが,ふつうγ崩壊の確率Nγに対する比(内部転換係数という),α=Ne/Nγを用いて議論する。傾向は,低いエネルギーの崩壊に対してαは大きく,また選択則によってγ崩壊が禁止されているようなときでも,内部転換だけが起こる場合もある。内部転換は放出された電子が原子のどの殻にあったかによってK内部転換,LI内部転換などに分類することが可能で,それぞれについて内部転換係数が定義され,さらに遷移の多重度にも依存するので,などは多重度別に表とされている。転換の確率は原子核位置での電子密度に比例するので,αKがもっとも大きく,重い核ほど重要になる。αKなどの多重度依存性,すなわち,低いエネルギーに対しては高い多重度のほうがαは大きく,同じ多重度では磁気放射(M1,M2,M3,……)のほうが電気放射(E1,E2,E3,……)よりも大きいことを利用すると,多重度とM1とE2が共存するような場合には,その混合比を比較的容易に決定することができる。γ崩壊と異なるもう1点は,電気単極子遷移が可能なことで,γ線では完全に禁止される,始めと終りがともにスピンが0である状態間も,パリティが同じであれば許容される。内部転換電子の測定は,高いエネルギー分解能をもつ磁気スペクトロメーターなどによって行われる。なお,遷移エネルギーが電子の束縛エネルギーよりも小さくなっている場合,励起準位の寿命は外殻電子による内部転換だけによることになり,寿命が化学状態の影響を受けることもありうる。
執筆者:山崎 敏光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原子核がその励起エネルギーを核外電子に与えて電子を放出する過程をいう.このとき,電子のもつエネルギーは,励起エネルギーと電子-原子核間の結合エネルギーとの差に等しく,β崩壊にもとづく電子の場合と異なり,単一エネルギーである.また,原子核の構成にはなんの変化も起こらず,核外の軌道電子が飛び出すだけであるから,この点でもβ崩壊とは異なる.なお,空になった軌道には,さらに外側の軌道から電子が落ち込み,このとき遊離されるエネルギーが特性X線として放出されるか,ときにはほかの軌道電子の一つを飛び出させる.ある放射性同位体から放出されるγ光子数に対する内部転換電子数の比を内部転換係数といい,記号としてαを用いるが,励起核がそのエネルギーを失う過程は,γ線を放出して行われる確率のほうが大きいので,αは通常1以下である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… γ線は原子核の励起状態がより低い励起状態,または基底状態へ遷移する際に放射される波長の短い電磁波(光子)である。実際にγ線が放射されるほかに,そのエネルギーがまわりをとりまく電子の一つに吸収され,電子が放出される過程もあり,内部転換と呼ばれている。遷移は放射される電磁波の多重極により電気双極子(E1),電気四重極子(E2),磁気双極子(M1)などのように特徴づけられる。…
※「内部転換」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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