分光学の理論と実験を応用して,物質の構造や分析方法を研究する分野.原子スペクトルによる元素分析や,赤外,可視・紫外領域の吸収スペクトルの分析化学への応用は,従来から行われている分光化学の主要分野である.同時に,分子構造を解明する分野での分光化学もいちじるしい進歩をとげている.可視・紫外に現れるいわゆる電子スペクトルの解析によって分子の電子状態が,さらには帯スペクトルの微細構造の振動解析によって分子の励起状態における振動状態が明らかにされ,赤外に現れる振動スペクトル,マイクロ波領域に現れる回転スペクトルの解析によって細部の分子構造が解明されている.一方,レーザーの発明とその改良により分光学の範囲は拡大された.従来のラマンスペクトルはレーザー光を光源として発展しつつあり,またせん光分光法にも応用されて,励起分子や寿命の短い反応中間体の測定の対象が従来より拡大された([別用語参照]せん光光分解法).真空紫外スペクトルにより簡単な分子の電子構造が,また軟X線の照射による光電子スペクトルの測定により,分子の基底状態の細部の電子構造が明らかにされつつある.核磁気共鳴吸収や常磁性共鳴吸収など,磁気分光学的方法が化学研究に応用され,遊離基の電子構造が研究されてきた.分光化学の分野は,上記のように各種の分光機器の発達と普及によって,マイクロ波からX線の領域にわたる広範なエネルギー領域に関係のある分子の構造および挙動が,深くかつ広く解明されつつある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
物質が吸収あるいは放出する光のスペクトルを測定し、これを解析して、物質の構造や分析を研究する化学の一分野。分光化学の始まりは、原子の発光スペクトルの利用である。原子の発光スペクトルは元素に固有である。したがって、いわゆる湿式の化学分析(各種の試薬の作用による分離、確認に基づく分析)が分析の主たる方法であった20世紀の前期に、比較的少量の試料を用いて、その発光スペクトルを測定し、その元素組成を明らかにすることができるようになった。さらに各種の着色した試料の吸収スペクトル(電子スペクトル)の測定が分析に利用された。湿式の化学分析が主流であった往時には、これらの分光化学的手法はきわめて新しいものであった。しかし、今日の化学研究では、多くの無機および有機化合物の分析にあたって、各種のスペクトルを測定するのが通常となったので、これらをあえて分光化学とはよばなくなってきた。またスペクトルを基にして物質の構造を詳細に研究する分野は構造化学とよばれるようになった。分光化学という語はおそらく、日本で分光化学による分析を開拓した柴田雄次(しばたゆうじ)の著書『分光化学』(1921)によるもので、大正末期以来第二次世界大戦直後まで頻用され、また東京大学理学部には「分光化学研究センター」という名称の研究センターが1976(昭和51)年から91年(平成3)スペクトル化学研究センターに改組されるまでの間設置され、建物には柴田雄次の直筆によるセンター名のプレートが掲げられた。現在では個々のスペクトル法はたとえば電子分光、振動分光、磁気分光のようによばれるが、これらを一括した分光化学という用語はむしろ伝統的な感じで用いられることが多い。
[徳丸克己]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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