六訂版 家庭医学大全科 「分娩後異常出血」の解説
分娩後異常出血
ぶんべんごいじょうしゅっけつ
Postpartum hemorrhage
(女性の病気と妊娠・出産)
どんな病気か
周産期管理の発達により母体の死亡率は低下したものの、分娩時と分娩後の出血は産後の
原因は何か
分娩後の異常出血の原因になりうる疾患および病態はさまざまで、また、原因が単独の場合と、重複して存在する場合とがあります。内科的な疾患、とくに血液疾患の合併が原因の異常出血にはより注意が必要です。分娩後の異常出血の主な原因を、次の2分類により示します。
①分娩後出血発症までの時間による分類
a.早期分娩後出血(分娩後24時間以内)
弛緩(しかん)出血、
b.晩期分娩後出血(分娩後24時間~6週まで)
感染、胎盤ポリープ、先天性凝固障害
②要因部位による分類
a.子宮外の要因による出血
血液学的疾患、出血性素因、
b.子宮内の要因による出血
弛緩出血、胎盤遺残、卵膜遺残、子宮内反、子宮破裂、羊水塞栓、産科DIC(播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群)
症状の現れ方
出血の原因によって症状の現れ方が異なるため、以下に分娩後異常出血を来す代表的な疾患について、それぞれ述べます。
①弛緩出血
胎盤が
②産道裂傷
胎児娩出直後から起こる持続的、鮮紅色の出血が特徴です。
③
分娩後の産道痛と、あまり出血していないにもかかわらず、血圧低下や頻脈などの貧血症状がみられる場合に本疾患が疑われます。症状は分娩後しばらくしてから現れます。産道痛は血腫が増大するとともに強まり、鎮痛薬を使ってもあまり軽快しません。痛みの程度は明らかに正常分娩後と異なり、血腫形成部の疼痛と腫脹もあります。周囲組織の圧迫による肛門部の痛みがあることもあります。
④
胎盤娩出時に生じる急激な疼痛と持続性の出血がみられます。疼痛は非常に強く、疼痛性のショックを示すこともあります。一見、
⑤子宮破裂
帝王切開術や子宮筋腫
検査と診断
出血の原因を調べるために、緊急の内診および超音波診断を行います。同時に、全身状態の評価のために、血圧・脈拍数・血球数算定・凝固能検査なども行われます。さらに必要に応じてCT、MRI検査も行われます。内診では、色調、凝固の有無などの血液性状、産道裂傷・血腫の有無、子宮収縮の状態、とくに痛みを訴える部位がないかどうかをみます。
出血の原因を特定するためには、出血部位の特定が重要です。超音波では腹腔内の出血の有無を診断します。症状の項で述べたような、各疾患の臨床症状を考え併せて、さらに出血原因を探ります。
治療の方法
全身状態を改善するための治療と並行して出血に対する産科的な止血処置が必要です。全身の管理としては、出血性ショックやそれに続く産科DICの予防のためにも、輸液、輸血療法が行われます。各疾患ごとの止血処置の詳細については、それぞれの項を参照してください。
病気に気づいたらどうする
専門医の処置を受けてください。
菊池 昭彦
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報