加持(読み)カジ

デジタル大辞泉 「加持」の意味・読み・例文・類語

か‐じ〔‐ヂ〕【加持】

[名](スル)《〈梵〉adhiṣṭhānaの訳。所持護念とも訳す》仏語。
仏の加護
密教で、仏の慈悲の力が衆生に加わり、衆生がそれを信心によって受持し、仏と衆生とが相応すること。
真言行者が、手に印を結び、口に真言を唱え、心を仏の境地におき、仏と一体になること。三密加持
神仏の加護を受けて、災いをはらうこと。祈祷きとうと同意に用いる。
[類語]祈り祈念祈祷黙祷祈願誓願立願代願発願願掛け願う

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精選版 日本国語大辞典 「加持」の意味・読み・例文・類語

か‐じ‥ヂ【加持】

  1. 〘 名詞 〙 ( [梵語] adhiṣṭhāna の訳語。「所持」「護念」などとも訳す ) 仏語。
  2. 仏、菩薩が人びとを守ること。加護すること。〔八十華厳経‐六〕
  3. ( 真言密教で、「加」を仏、菩薩の大悲のはたらき、「持」を人の信心と解して ) 仏、菩薩の力が信じる人の心に加わり、人がそれを受けとめること。また、真言行者が口に真言を誦し、意(こころ)に仏、菩薩を観じ、手に印を結んで、この三密(さんみつ)を行ずるとき、仏、菩薩の三密と平等相応して、相互に融け合い、一体となること。→三密加持
    1. [初出の実例]「加持者表如来大悲与衆生信心。仏日之影現衆生心水加。行者心水能感仏日持」(出典:即身成仏義(823‐824頃))
  4. 転じて、真言密教で行なう修法上の呪禁の作法をいう。三密相応させて、欲するものの成就を得ること。
    1. [初出の実例]「さうでんの法を不断に行ひ、かぢしたる水をすずり水にしてたてまつれ給ふ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)菊の宴)
  5. また転じて、祈祷と同義に用い、わざわいを除くため、神仏に祈ること。虫加持、病人加持、井戸加持、帯加持などという。
    1. [初出の実例]「行者を請して率て来て加持せしむるにやや久(ひさしく)ありて焼せむる事をまぬかれぬ」(出典:観智院本三宝絵(984)中)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「加持」の意味・わかりやすい解説

加持
かじ

一般には、如来(にょらい)の不可思議力(ふかしぎりき)によって衆生(しゅじょう)を加護することをいう。サンスクリット語アディシュターナadhihānaの訳で、原意は「下に立つ」「支えとなる」。護念(ごねん)、加護(かご)ともいう。とくに密教では、空海の『即身成仏義(そくしんじょうぶつぎ)』により、仏の大悲(だいひ)が衆生に加わり、衆生の信心に仏が応じて感応道交(かんのうどうこう)しあうことをいい、加持感応という。仏の大悲が衆生の宗教的素質に応ずるのが「加」であり、信心する衆生が仏の加被力を受持するのが「持」である。これは本来、仏と衆生の本性とが平等不二であるとされるからであり、仏の境地が衆生に直接体験されると考える。そして、行者の功徳力と如来の加持力と法界力の三力によって、われわれの行為とことばと心とが仏のそれらと合一することを三密(さんみつ)加持という。すなわち、行者が手に仏の印契(いんげい)を結び(身密(しんみつ))、仏の真言(しんごん)を唱え(口密(くみつ))、心が仏の境地と同じように高められれば(意密(いみつ))、この身のままで仏になれる(即身成仏)と説く。

 加持は、供物(くもつ)、香水(こうずい)、念珠(ねんじゅ)などを清める作法をもいい、それぞれ供物加持、香水加持、念珠加持などと称する。一般には祈祷(きとう)の意に用いられ、加持祈祷と並称される。それは、祈祷が仏力を信者に加付し、信者にその仏力を受持させるものであるから、同義に用いられるようになったもので、病人加持(病気治癒)、井戸加持(井戸水の清め)、帯(おび)加持(安産の祈祷)など災いを除くために仏の加護を祈る作法として用いられる。しかし、加持の意の本義は即身成仏への導入のことである。

[小野塚幾澄]

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百科事典マイペディア 「加持」の意味・わかりやすい解説

加持【かじ】

護念とも。一般には加護と同義。密教では仏の慈悲が衆生に加えられることを〈加〉,行者が仏の慈悲を感得することを〈持〉という。民間では祈祷(きとう)とともに加持祈祷と呼ばれ,病人加持,井戸加持,帯加持(安産)などが,現世利益(げんぜりやく)の加持とされる。
→関連項目修験道御衣木加持

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「加持」の意味・わかりやすい解説

加持
かじ
adhiṣṭhāna

仏教用語。所持,護念ともいう。仏の大慈悲心が人々に加わり,人々の信心に仏が感応してお互いに感得し合い道交すること。また,祈祷を通して仏力を信者に与え,信者はその仏力をおさめ保つことができるから祈祷を加持ともいう。現在は病人加持,帯加持など,現世利益の祈祷として流布している。

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世界大百科事典(旧版)内の加持の言及

【加持祈禱】より

…なんらかの願望がかなえられるよう神仏に対して行う一種の呪術作法。本来密教では加持は如来の大悲と衆生の信心を指し,祈禱は攘災治病等の現世求福を意味するものとして区別されるが,一般には両者は同義に使用される。加持では真言行者が手に印を結び口に真言を誦し心に仏菩薩を観じ,いわゆる三密加持を行う。…

【仏教】より


[密教の形成]
 哲学的論争と精密な理論の確立は,他面,大乗仏教から宗教運動としての迫力を薄くしたようで,民衆の新しい要求は新宗教運動として密教を生み出した。密教は仏の絶対性が超越的なものというより,人間に内在的に働くことを強調し,これを如来の三密(身・口・意による3種の秘密業)による加持(仏が絶対的慈悲から,衆生のために身・口・意のさまざまな形を示し,その形の中に住すること)と説明する。その由来するところは,ベーダ以来のインド的な,言葉のもつ呪力に対する崇拝にあり,大乗経典でも陀羅尼の形で多く説かれている(密教でいう真言,すなわちマントラとは,元来,ベーダの文句のもつ呪力を指す。…

※「加持」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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