死後の世界である冥府(めいふ)で亡者を裁く10人の王をいう。すなわち、秦広王(しんこうおう)、初江王(しょこうおう)、宋帝王(そうたいおう)、五官王(ごかんのう)、閻魔王(えんまおう)、変成王(へんじょうおう)、泰山王(たいせんのう)、平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんのう)の総称である。十王信仰の発祥は、中国で仏教と道教の両信仰の混成物として五代ころには成立していたと考えられている。唐代に四川(しせん)省の成都で沙門蔵川(しゃもんぞうせん)によって、『仏説閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土経(ぶっせつえんらおうじゅきししゅうぎゃくしゅうしょうしちおうじょうじょうどきょう)』(略名を『仏説預修十王生七経』または『十王経』と称する。偽経)が製作され、冥府の十王を説く。日本では鎌倉時代の初めに、『仏説地蔵菩薩発心因縁(ぶっせつじぞうぼさつほっしんいんねん)十王経』すなわち『地蔵十王経』がつくられている。同経によると、死者が冥途(めいど)に赴くとき、中有(ちゅうう)の存在として初七日に秦広王、二七日に初江王、三七日に宋帝王、四七日に五官王、五七日に閻魔王、六七日に変成王、七七日に泰山王のところを過ぎ、さらに百か日には平等王、一周忌には都市王、三回忌には五道転輪王のところをそれぞれ過ぎて、生前の罪業(ざいごう)の軽重により裁断を受けて、未来の生処を定められるという。その場合、裁断の規準となるのは逆修(ぎゃくしゅう)(生前に死後になすべき仏事を修すること)と追善(ついぜん)の仏事であった。この経も蔵川の著述とされるが、死出の山、三途(さんず)の川、罪業を映す鏡など日本的要素がみられ、日本での偽作とされている。『十王経』は、十仏事の流行を促し、逆修、追善の仏事を定着させるうえで大きな力をもった。なお、十王にそれぞれ本地仏をあてたが、室町時代ごろ、それにさらに三仏を加えて、おのおのの仏・菩薩を初七日から三十三回忌までの忌日の本尊とする十三仏(ぶつ)の信仰が広まった。
[伊藤瑞叡]
茨城県北東部、多賀郡にあった旧町名(十王町(まち))。現在は日立市(ひたちし)の北部を占める一地区。1955年(昭和30)櫛形(くしがた)、黒前(くろまえ)2村と高萩(たかはぎ)市の一部が合併して十王村が成立し、1956年町制施行。2004年(平成16)日立市に編入(多賀郡は消滅)。旧町域の大部分は多賀山地、海岸は台地をなし、十王川が流れる。名称は、この十王川に由来する。JR常磐(じょうばん)線、国道6号が通じる。常磐自動車道の日立北インターチェンジが近い。常磐炭田南端の炭鉱が水戸藩の大砲製造用の石炭を産して以来、主産業となったが、1973年閉山。山地は肉牛肥育と林業が行われ、台地はミカン栽培の北限地。いぶき山イブキ樹叢(じゅそう)は国指定天然記念物。かつては高萩市にまたがってKDDI茨城衛星通信センターがあった。「日本の衛星通信発祥の地」として知られ、国立天文台茨城観測局のパラボラアンテナなどがある。
[櫻井明俊]
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…これは《仏説閻羅王五天使経》または《閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土経》に拠ったものであろう。後者は《預修十王経》ともよばれるように,閻魔王のほかに9王を加えて10王とし,閻魔王を裁判長として陪審の形をとっている。しかし奈良時代までは閻羅王使の鬼が死者を迎えに来て閻羅王宮に引き立て,その裁判によって地獄の責苦を受けることになる。…
…中国および日本でつくられた,民俗仏典の一つで,諸本がある。唐の蔵川の《仏説地蔵菩薩発心因縁十王経》や,《仏説預修十王生七経》は,その代表的なもの。死後,主として中陰期間中に,亡者が泰広王,初江王,宋帝王など,10人の王の前で,生前の罪業を裁かれる次第を述べ,来世の生所と地蔵菩薩の救いを説いて,遺族の追善供養をすすめるもの。…
※「十王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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