厄払い(読み)ヤクハライ

デジタル大辞泉 「厄払い」の意味・読み・例文・類語

やく‐はらい〔‐はらひ〕【厄払い】

[名](スル)《「やくばらい」とも》
神仏に祈るなどして、身についたけがれを払い落とすこと。厄落とし。
近世門付け芸で、節分大晦日おおみそかの夜などに、町を歩き、厄年の人の家の門口などで厄払いの祝言を唱えて豆や金銭をもらうもの。また、その人。 冬》
歌舞伎世話狂言せりふで、美文調の縁語掛けことばを多用した章句2に似た独特の抑揚で言うもの。つら一種で、幕末に流行。
[類語](1厄落とし厄除け

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精選版 日本国語大辞典 「厄払い」の意味・読み・例文・類語

やく‐はらい‥はらひ【厄払】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 神仏に祈るなどして災難を払い落とすこと。厄落とし。
    1. [初出の実例]「当年のやくはらい目出度候」(出典:北野社家日記‐慶長四年(1599)正月二五日)
  3. 大晦日または節分などの夜に、厄年に当たる人の家の門などで厄難を払うことばを唱えて銭を請い歩くこと。また、その人。昔の追儺(ついな)遺風という。《 季語・冬 》
    1. 厄払<b>②</b>〈人倫訓蒙図彙〉
      厄払人倫訓蒙図彙
    2. [初出の実例]「心さしなやらふとよへやくはらい〈重頼〉」(出典:俳諧・犬子集(1633)六)
  4. 歌舞伎の世話狂言におけるせりふで、特に美文調で、縁語・掛詞を用い、独特の抑揚をつけたことば。で唱えることばに似ているところからいう。「三人吉三」のお嬢吉三のせりふ「月もおぼろに白魚の…」など。
    1. [初出の実例]「やく払出しなに壱つやって見る」(出典:雑俳・柳多留‐初(1765))

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「厄払い」の意味・わかりやすい解説

厄払い
やくはらい

災厄・厄難を払い落とすこと。本来は厄祓(はら)いで、祓(はら)えという呪(じゅ)的行為の一つである。定期的な行事として、あらかじめ厄を払っておくものと、災難や疫病が身に迫ってから、あるいは二度と厄難を受けないために、これを払い落とすものとがある。厄落とし、厄除(よ)け、魔除けなどと似通った点があり、厳密に区別することはむずかしい。その方法としては、まず形代(かたしろ)流しがある。体内の罪、穢(けがれ)、厄を、物に移して流し去るという考え方で、6月と12月の晦日(みそか)に行う大祓(おおはらえ)、三月節供(せっく)の雛(ひな)流し、七夕(たなばた)の眠り流し、厄年の人が身についたものを捨ててくる行為などがある。虫送りなどの鎮送呪術も同類のものである。厄年の行事はほとんどが厄払いで、餅(もち)や豆を投げて災厄を分散し、多人数の力を結集して対抗しようとする。また社寺では厄払いの御札(おふだ)を発行し、職業的な神人(じにん)が年末などにかまどを祓い、また門付(かどづけ)して厄を払って歩く者もある。

[井之口章次]

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百科事典マイペディア 「厄払い」の意味・わかりやすい解説

厄払い(演劇)【やくはらい】

歌舞伎のせりふの一種。世話物で,場面のクライマックスに主要な役が述べる音楽的な七五調のせりふ。江戸時代の厄払いの門付(かどづけ)のいいまわしに似ているためこの名がある。《三人吉三》におけるお嬢吉三の〈月も朧に白魚の〉というせりふなど。

厄払い(民俗)【やくはらい】

年越や節分に行う厄難を払う民俗行事。煎豆(いりまめ)をまいて,年の数より一つ多く食べるとか,袋に入れて身体をさすり,のち賽銭(さいせん)とともに社寺に奉納するなどした。また〈御厄(おんやく)払いましょ,厄落し〉と唱えて門付(かどづけ)する者も厄払といった。→厄年

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デジタル大辞泉プラス 「厄払い」の解説

厄払い

古典落語の演目のひとつ。

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世界大百科事典(旧版)内の厄払いの言及

【歌舞伎】より

…〈せりふ〉も同様で,それぞれの様式に独自の一種のリズムを持つ。〈つらね〉や〈言立て(いいたて)〉のようにしゃべる技巧,〈糸に乗る〉という音楽的に語る技巧,〈厄払い〉のように七五調の美文を朗々とうたいあげる技巧などのほか,幾人かでせりふを分けあう〈割りぜりふ〉や〈渡りぜりふ〉の技法もある。せりふを登場人物相互の意思伝達の用とだけ限定せず,観客の聴覚に訴える効果音的な用法に至るまで,自由に活用していることがわかる。…

【宝船】より

…中世には除夜に米俵をつんだ船の絵を敷き,悪夢を見るとその絵を水に流した。また宮中では,帆に夢を食うとされる中国の想像上の動物である〈(ばく)〉の字を書いたものが配られており,本来は厄払いのためのものであったと考えられる。すなわち,災厄は海のかなたに流し去り,福徳もまた海のかなたからもたらされるという,海上他界観に由来する行事であろう。…

【厄】より

…これは33が〈さんざん〉,42が〈死に〉に通ずるところから近世あたりにはじまったといわれている。厄年になるとそれを避けるために厄払いや厄よけなどの祈願や呪法を行う。年のはじめに親類や近隣の者を招いて年祝をするとか,神社や寺院に参って厄祓いの祈願をするのがふつうであるが,自分の年の数だけの銭を紙に包み,道の辻や橋などの境に持っていって捨てたのち,あとを振りかえらずに帰ってくる呪法が広く行われている。…

※「厄払い」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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