六訂版 家庭医学大全科 「咽頭がん」の解説
咽頭がん
いんとうがん
Pharynx cancer
(のどの病気)
どんな病気か
咽頭がんは
中咽頭は上咽頭の下方で
下咽頭は中咽頭の下方で、食道入口部までが範囲です。下咽頭の前方には
中咽頭がんや下咽頭がんでは、食道がんとの重複がんが多いのが特徴です。
原因は何か
中咽頭がんや下咽頭がんではアルコールやたばこ、食物、環境因子などと因果関係があるとも報告されています。
近年、咽頭がんでは、パピローマウイルスの関与が注目されています。
症状の現れ方
①上咽頭がん
②中咽頭がん
咽頭痛や
③下咽頭がん
のどが詰まった感じや咽頭の違和感に始まり、嚥下痛、咽頭痛、声のかすれなどの症状が出ます。進行すると食事が通らなくなります。頸部リンパ節腫大もあります。
検査と診断
①上咽頭がん
鼻咽腔ファイバースコープ(内視鏡)検査で直接がんを観察します。CTやMRIで腫瘍の周囲組織への広がりや
②中咽頭がん
直接観察ができるので視診と触診が重要です。CT、MRIもがんの範囲やリンパ節転移を診断するのに有用です。
③下咽頭がん
直接肉眼的に見ることはできないので、内視鏡検査による観察が必要です。そのほかに食道造影検査、CT、MRIなどを行います。最近ではNBI(狭域帯)内視鏡が有用です。表在がんなど小さいがんも容易に見つけることができます。食道の観察にも用いられています。食道がんとの重複がんを調べるためには、上部消化管ファイバースコープ(内視鏡)検査が必要です。
治療の方法
①上咽頭がん
放射線治療と抗がん薬治療(化学療法)を組み合わせて行うのが一般的で、手術が第一選択になることはありません。放射線治療後に補助化学療法を行う方法や放射線照射に抗がん薬を同時に併用して行う方法、全身的に抗がん薬治療を行い、そのあとに局所の上咽頭を中心に放射線を照射する方法などがありますが、抗がん薬同時併用放射線照射が主流です。
放射線治療と化学療法の2つを組み合わせることにより、治療成績は著しく向上しています。最近ではIMRT(強度変調放射線治療)により口腔乾燥を軽くすることができます。
②中咽頭がん
Ⅰ期やⅡ期のがんでは放射線治療となります。外照射では治療後の唾液腺の分泌障害による口腔乾燥症が問題となります。また小さいがんでは、口腔内の変形は残りますが、切除もよい治療法です。
一方、Ⅲ期、Ⅳ期の進行がんでは手術治療になり、その場合には再建手術も必要になります。軟口蓋を大きく切除したり、舌根部を大きく切除した場合には嚥下機能障害が術後に生じる場合があるため、嚥下障害に対する手術が必要になります。また舌根がんが下方に進行している場合には、喉頭も合併切除します。
③下咽頭がん
手術治療が第一選択となります。初診時にすでに進行がんになっていることが多いので、咽頭喉頭食道摘出術という下咽頭とともに喉頭を摘出する手術を行い、
最近では、限局した下咽頭がんでは、がんを部分的に切除して喉頭を温存し再建する方法や、表在がんでは内視鏡で切除する手術方法もあります。また早期のがんであれば、放射線治療で治癒します。
病気に気づいたらどうする
咽頭がんが疑われたり、咽頭がんと診断された場合には、がん専門施設や頭頸部がんの専門医のいる病院を紹介してもらい、受診するのがよいでしょう。
加藤 孝邦
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報