中世,地下百姓といわれた農民たちの共同責任において,荘園の年貢や公事納入を請け負う制度。百姓請ともいう。地下とは本来殿上の間に昇殿する資格のないこと,またその人を意味したが,のちに京都・本所に対する地方・現地,あるいは百姓を意味するようになり,地下請の称も生まれた。1240年(仁治1)東大寺領大和国窪荘において,農民たちが百姓請所として年貢40石の納入を請け負ったのがもっとも早い例に属する。しかし鎌倉時代には紀伊国阿氐河(あてがわ)荘上村のように,百姓逃亡跡の公事課役を残留百姓の連帯責任として納入を強制的に請け負わされる例が多く,必ずしも百姓側の自主的な要求にもとづく請負ばかりではなかった。南北朝以降とくに畿内・近国の荘園村落においては,土豪・地侍・有力名主を中心とした自治的な惣荘・惣村の形成とともに,積極的に年貢・公事の定額請負を望む傾向が強まった。それは守護・地頭・荘官らの荘園への介入や侵害を排除しようとする荘園領主と地下百姓の共通の利害にもとづいて実施されたともいえる。1347年(正平2・貞和3)醍醐寺領伊勢国曾禰荘では,鎌倉時代の文永年間(1264-75)に行われた検注によって定められた年貢高をそのまま百姓一同で請け負うことが誓約され,96年(応永3)三宝院領讃岐国東長尾荘でも,農民たちの要求で地下請が実現された。1417年室町幕府は相国寺塔頭(たつちゆう)の崇寿院領となった和泉国堺南荘の年貢を地下請としている。これらの事例は,14世紀以降の地下請が,地下百姓の農業生産力向上や兼業にもとづく経済力の強化等を背景にした惣結合,自治組織の結成,あるいは商業活動による蓄富等をひとつの前提として成立したことを示唆している。なお1415年東寺領大和国河原荘においては,地下番頭10人により25貫文の年貢が請け負われているが,畿内・近国荘園において広くみられる番頭制による年貢貢納も一種の地下請に類するものといえる。
執筆者:佐々木 銀弥
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荘園(しょうえん)領主に対して、荘園の百姓が年貢を請け負う制度。百姓請ともいう。荘園年貢の請負制度としては、ほかに地頭(じとう)請、代官請、守護(しゅご)請などがあったが、地下請の初見は1240年(仁治1)の東大寺領大和(やまと)国窪(くぼ)庄(奈良市窪之庄町)の事例である。これ以降、鎌倉時代には有力名主(みょうしゅ)による年貢請負が増加した。その代表的なものとして、1318年(文保2)の東寺領丹波(たんば)国大山(おおやま)荘(兵庫県丹波篠山(ささやま)市)の事例がある。大山荘では非法代官を訴えて、その改易に成功するとともに、自らの手で検注を行い、領主との間に斗代定(とだいさだめ)(反別の年貢高の確定)をして地下請を成立させた。南北朝期以降になると、その事例が増加するだけでなく、旧来の名主に対する一般の小百姓の影響力が強まり、村落結合の役割が大きくなって、この自治的村落=惣(そう)が請負の主体となってくる。
[黒川直則]
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百姓請とも。荘園の年貢・公事(くじ)を村落の名主・百姓らが共同で請け負う制度。南北朝期以降,一定の年貢を契約して領主から荘園の所務を委任された請所(うけしょ)が一般化する。守護請も多くなるが,守護勢力による荘園侵略を招くおそれがあったため,一方では,村落の自治組織に年貢徴収を頼ることもあった。この時代の畿内やその周辺地域では村落の惣(そう)結合が進み,荘園領主から支配を任されるほど成長していた。守護勢力を排除したい荘園領主と,自立を強めたい村落の意向が結びついた場合に地下請が行われた。地下請の展開は荘園制の崩壊をおし進め,惣村を発展させる契機ともなった。
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…請所のはじまりは平安末期に地方国衙の在庁官人らが荘官に代わって荘園年貢を徴収して本家,領家に送ったり,源平合戦の混乱期に地方の武士が荘園の管理を委任され,年貢納入を請け負ったことにあるとされている。その成立を年代を追ってみてゆくと,当初は下司ら荘官の請負が,ついで鎌倉時代には幕府口入(くにゆう)(推薦)や私契約にもとづく地頭の請所が多数成立し,南北朝・室町時代には守護や守護代による請負,禅僧や京都の土倉,酒屋など商業高利貸資本による代官請,さらには自治的な惣結合を強めていた荘園村落の農民たちによる地下(じげ)請,百姓請さえあらわれた。 鎌倉幕府はその草創期に御家人に対する一種の恩賞として関東の荘園,たとえば武蔵国河肥荘,相模国吉田荘などの請所の権利を御家人に口入した。…
※「地下請」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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