海嶺(読み)カイレイ(その他表記)(oceanic)ridge

改訂新版 世界大百科事典 「海嶺」の意味・わかりやすい解説

海嶺 (かいれい)
(oceanic)ridge

細長くて幅が狭く,こう配の急な斜面を両側に有する海底の高まりをいう。中軸沿いに浅い地震の列が観測され,海底が生成・拡大しつつあることが明瞭な大洋中央海嶺mid-oceanic ridgeと,地震活動の列がみられず,中軸部の岩石の年齢も古い非活動海嶺aseismic ridgeとに分けられる。太平洋の南東部に見られる長大な高まりはこう配が比較的ゆるく,起伏もなめらかなので東太平洋海膨と呼ばれるが,成因的にはこれも大洋中央海嶺の一種である。

 大洋中央海嶺の中軸部には中軸谷をもつもの(大西洋中央海嶺,インド洋中央海嶺)ともたないもの(東太平洋海膨,レイキャネス海嶺)があるが,いずれにもきわめて若い深海性ソレアイトと呼ばれる玄武岩の枕状溶岩が露出している。ふもとには厚い堆積物が存在するが,その下にはやはり深海ソレアイト質玄武岩があって,その年齢は中軸から離れるほど古くなっている。水深は岩石の年齢の平方根に比例して深くなることが知られている。大西洋では拡大速度が東太平洋に比べて遅いので,中軸から一定距離の所では大西洋の方が太平洋よりもずっと古く,海嶺全体の地形のこう配はずっと急になる。重力のフリーエア異常は,大局的に見れば海嶺を通じてほぼ0で,重力均衡が成り立っている。中軸から離れるほど海底が古くなって冷え,リソスフェア(岩石圏)の厚みを増すので,その重さとつりあうように水深が深くなると考えられている。地殻熱流量も大きく見れば中軸から離れるほど小さくなり,海底がしだいに冷えていることを示している。しかし,中軸付近では熱流量の値は局所的に激しくばらつく。これは新しい岩石層中に熱水の循環があって,熱を運んでいるためで,熱流量値は熱水のわき上がり口で大,沈み込み口で小になる。

 大洋中央海嶺はトランスフォーム断層とその延長である断裂帯によって数百kmおきに刺身のように切られながらつながって世界中を取り巻いている。全長は7万5000kmにおよぶ。これに対し,非活動海嶺に属する太平洋中部のハワイ海嶺,西太平洋の九州・パラオ海嶺,インド洋の東経90度海嶺などにはハワイ島を除けば地震活動はなく,海底が拡大している証拠はない。これらはそれぞれホットスポットの軌跡,古島弧の残り,断裂帯の一種と考えられている。九州・パラオ海嶺北部の駒橋第二海山からは島弧特有の花コウセン緑岩が採取されている。大西洋のウォルビス海嶺のように,ホットスポットの軌跡か断裂帯か議論の分かれるものもある。東太平洋にはかつては拡大軸であったが,拡大軸が別な線上にとび移ったために現在は休止しているマセマティシャンズ海嶺やガラパゴス海膨という古海嶺も知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海嶺」の意味・わかりやすい解説

海嶺
かいれい
ridge

急な斜面で囲まれた細くて長い海底の高まり。外形だけで定義され、構造、成因などによらない。海嶺の頂部にリフト(中軸谷)を有し、浅い地震のおこっているものは、中央海嶺として別に定義されている。海嶺は構造や組成により、大和海嶺(やまとかいれい)のように大陸の一部が取り残されたもの、九州・パラオ海嶺のような古い島弧(とうこ)の沈んだもの、ネッカー海嶺のようにホットスポットでできたものなどに分けられる。

[安井 正]

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百科事典マイペディア 「海嶺」の意味・わかりやすい解説

海嶺【かいれい】

急斜面を有する海底の細長い高まり。海底山脈とも。規模はさまざまで陸上の山脈に相当。成因的にもさまざまなものがある。大きなものは大洋中央海嶺となり大洋を多くのプレートに分け,拡大しつつある。小さいものでも陸上の山脈よりはるかに大きい。
→関連項目インターリッジ計画海底地形大西洋

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海嶺」の意味・わかりやすい解説

海嶺
かいれい
oceanic ridge

長く狭い海底の高まりで,比較的急な斜面をもつ。成因は一様ではない。斜面の勾配がゆるやかな海底の高まりは海膨(かいぼう)と呼ぶ。大洋の中央部の海嶺を一般にさしているが,日本近海のように弧状列島系に関連した海嶺も多い(→パラオ-九州海嶺)。

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岩石学辞典 「海嶺」の解説

海嶺

大洋底にそびえる山脈の高まりで,急斜面の側面をもち,起伏の多いさまざまな規模の地形を示す.北大西洋では海嶺の中心部に地裂谷が発達している.海嶺にほぼ直交するいくつかの分岐海嶺があり,それが東西両海岸にまで延びている.その上に火山島が点在する.中央大西洋海嶺は,東太平洋海膨と同様に,地震活動の盛んな地帯で,熱流量が平均値の6倍にも達する特徴がある.これらのことからマントル内の熱対流の上昇部にあたると解釈されている.

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デジタル大辞泉プラス 「海嶺」の解説

海嶺

北方謙三の長編海洋冒険小説。2001年刊行。神尾修シリーズ。

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世界大百科事典(旧版)内の海嶺の言及

【海底地形】より

… 海盆basin平面的にみて,おおよそ丸い凹みで,大きさはさまざまである。 海嶺ridge(1)急峻な斜面を有する細長い高まり。(2)細長い高まりで,しばしば大洋の海盆を分ける。…

【海底地形】より

…これらプレートの運動によってプレート境界に起こる相対的運動は,プレート同士が離れるか,ぶつかるか,すれ違うかの3種類に限られる。 離れるプレート境界ではアセノスフェアが海底近くまで上昇し,中央海嶺を形成する。中央海嶺は,北極海,大西洋,インド洋などの大洋のほぼ中央に連なる海底の大山脈で,太平洋では南東部に走る東太平洋海膨となっている。…

【地球】より

…これに対して海洋底の岩石の年代は最も古いものでも2億年と大変若い。 プレートテクトニクスによれば,大西洋,太平洋,インド洋の海洋底には海嶺と呼ばれる大山脈が連なっているが,海嶺では下からマントル物質が湧き出して新しい海洋底がつくられ,両側に広がり,やがて海溝をつくって大陸の下に沈み込んでいく。そのため海洋底の岩石や堆積物の古いものは大陸の下へ消滅していき,現在では古いものでもたかだか2億年の年代しかないと説明される。…

※「海嶺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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