ある限られた地質時代に生成した火山が密に分布する地帯。同義の火山脈という語は,地下に諸火山を結ぶマグマの脈が存在するかのように誤解されかねないので,近年は使われない。ただ火山帯といえば,新生代第四紀の火山帯をさすのが普通である。火山は地球上に一様に分布してはおらず,限られた地域に偏在しているが,最も顕著なのは太平洋を取り巻く大陸の縁や弧状列島に発達している環太平洋火山帯で,〈太平洋の火の環〉と称される。ほかにインドネシア火山帯,地中海火山帯,東アフリカ火山帯などもある。大陸内部や海洋底地殻上では,火山が列をなしているところはあるが,帯状分布はまれである。大洋の周囲の火山帯は新生代の造山帯と一致し,現在も地殻変動が激しく行われており,地震帯ともほぼ一致し,地殻構造上最も不安定な弱線にあたる。日本など弧状列島上の火山帯の火山岩は,概して二酸化ケイ素SiO2に富み,特に安山岩や流紋岩が多く,噴火は一般に激しい爆発型で,火山形態は成層火山が多い。
日本列島は環太平洋火山帯の一部で,日本火山帯と呼ばれるが,列島上のどこにも第四紀火山があるのではなく,北海道を東西に横断し,東北地方の西寄りを走り,中部地方の北部から伊豆諸島,硫黄(火山)列島を経てマリアナ諸島へ南下する地帯と,山陰地方から九州を経て南西諸島に至る地帯に分布する。前者は東日本火山帯(または東北日本火山帯),後者は西日本火山帯(または西南日本火山帯)と呼ばれている。この両火山帯では,太平洋側の縁寄りほど火山が密に存在し,大陸側(日本海側)ほど乏しい。つまり,太平洋側の限界線は明らかであるが,大陸側でははっきりしていないので,太平洋側の限界線は〈火山前線〉と呼ばれる。この前線から大陸側へ離れるほど,火山の噴出物の量は概して少なくなり,かつ,その化学組成も漸移し,例えば二酸化ケイ素の含量もしだいに減っている。プレートテクトニクスによれば,日本海溝-伊豆・小笠原海溝から太平洋プレートが大陸プレートとフィリピンプレートの下へ,南海トラフ-南西諸島海溝からフィリピンプレートが大陸プレートの下へ沈み込んでおり,この沈み込みに伴って火山活動が発生していると考えられている。しかし,火山前線が存在する理由はよくわかっていない。このように,日本の諸火山が二つのプレートの沈み込み帯にそって分布することから,東・西の両火山帯に大きくまとめるのが妥当だと考える学者が圧倒的に多い。
しかし,明治時代から日本の諸火山は,その地理的分布によって,便宜上数個の火山帯に細分された。その後,火山帯に地質構造や岩石成因上の意義をも付加させ,火山帯の編成変えが行われてきており,現在では千島,那須,鳥海,富士,乗鞍(御嶽),大山(白山),霧島(琉球)の7火山帯にまとめるのが普通である。
カムチャツカ半島の東岸に沿って縦走し,弧状の千島列島を経て,知床半島から北海道中央高地の大雪山,十勝岳に至る火山帯。環太平洋火山帯の一部で,千島弧に沿って火山は雁行状に配列する。活火山が多く,噴火の記録が残っているのは択捉(えとろふ)島の茂世路(もよろ)岳,散布(ちりつぷ)山,指臼(さしうす)山,焼山,阿登佐岳,ベルタルベ山,国後(くなしり)島の爺爺(ちやちや)岳,羅臼山,泊山,北海道知床半島の硫黄山,雌阿寒岳,十勝岳である。輝石安山岩や玄武岩からなる成層火山が多いが,大雪山,十勝岳などの十勝火山列には角セン石安山岩も産する。北海道北東部には,大規模な火砕流噴火に伴う山体の陥没で形成された屈斜路,摩周,阿寒などのカルデラが存在し,また千島列島のシムシル島やオネコタン島にもカルデラがある。雌阿寒岳,十勝岳では気象庁が常時火山観測を行っている。
那須岳を盟主とし,北海道南西部から南下して,奥羽山脈を経て,長野県北東部に至る火山帯。東日本火山帯の一部をなす。これに属する諸火山は,おもに輝石安山岩,デイサイトからなり,有珠(うす)山や岩手山にはアルカリ(ナトリウム,カリウム)に乏しい玄武岩を産する。成層火山が多く,ときには溶岩円頂丘を伴い,また北海道の支笏,洞爺,濁川,北奥羽の八甲田,十和田などのように,大規模な火砕流噴出に伴った山体の陥没で生じたカルデラが多い。かつては北海道北西方の利尻島(利尻山)もこれに属させたが,利尻火山はアルカリに富む玄武岩,輝石安山岩からなっており,岩石成因上から,近年はこの火山帯から除外されている。この火山帯の諸火山は,那須火山群以北と日光火山群以西では岩質がかなり違い,後者では角セン石安山岩も多く出現する。それで那須火山帯の西側を並走,南下してきた鳥海火山帯がこの火山帯と接合するあたりでは,両者は岩石学的には区別できない。さらに長野県で那須火山帯が富士・乗鞍両火山帯と会合するあたりでは,それらの火山帯の岩石学的性質も互いに似てきて区別しがたい。富士火山帯との会合点付近にある浅間山など会合点付近にある個々の火山をどちらの火山帯に属させるかということは,あまり本質的な問題ではない。この火山帯には樽前山,有珠山,駒ヶ岳(北海道),恵山(えさん),恐山,八甲田山,焼山(秋田),八幡平,岩手山,駒ヶ岳(秋田),栗駒山,鳴子火山群,蔵王山,吾妻山,安達太良(あだたら)山,磐梯山,那須岳,白根山(日光),赤城山,白根山(草津),浅間山と,全国総数の1/3近い活火山が属している。また樽前山,有珠山,駒ヶ岳(北海道),吾妻山,安達太良山,磐梯山,那須岳,白根山(草津),浅間山の9山では気象庁が常時火山観測中で,全国で観測中の17火山の過半数を占め,那須火山帯に極めて活動的な火山が多いことがうかがえる。この火山帯では近年,ほとんどが爆発的な噴火で,溶岩流の発生はごく珍しい。
活火山である鳥海山を盟主とし,北海道南西海上の渡島大島から東北地方の日本海岸に沿って南下し,岩木山,寒風山,鳥海山などを経て,新潟県北東部の守門(すもん)岳,浅草岳までは東側の那須火山帯とほぼ並走するが,それ以南では那須火山帯と接合してしまう火山帯。東日本火山帯の一部をなす。那須火山帯に比べ,火山の数が少なく,はなればなれに分布するため,一つの地帯としてのまとまりが悪い。噴出物は那須火山帯に比べややアルカリに富み,おもに角セン石安山岩や輝石安山岩の成層火山が多く,しばしば溶岩円頂丘を伴っている。男鹿半島の一ノ目潟,二ノ目潟などはマールの典型とされているが,噴出物中には上部マントル物質が見いだされ,その源の深さがうかがえる。渡島大島はアルカリ玄武岩と安山岩からなる。噴火記録があるのは渡島大島,岩木山,鳥海山の3山だけである。
新潟県南西部の焼山を北端とし,フォッサマグナに沿い,本州中央部を横断して伊豆半島に達し,さらに南下して,伊豆諸島,硫黄列島を経てマリアナ火山帯に連なる火山帯。環太平洋火山帯ないし東日本火山帯の一部をなす。成層火山が多く,箱根山,大島(伊豆),三宅島,八丈島,青ヶ島などにはカルデラがある。活火山だけでも焼山から硫黄列島南硫黄島付近までに19を数え,さらに南方のマリアナ諸島との間の公海では,近年も三つの海底火山(南日吉海山,日光海山,福神海山)の活動が盛んである。大島,三宅島では気象庁が常時火山観測中。津屋弘逵(ひろみち)は,この火山帯を玄武岩の性質の相違に基づいて北部の焼山,妙高山,飯縄(いいづな)山,霧ヶ峰,八ヶ岳,茅ヶ岳,富士山,天城山などの富士火山帯(狭義)と南部の箱根,多賀,大室などの諸火山および大島以南の諸火山からなる大島火山帯とに二分した。その後久野久は狭義の富士火山帯の代りに富士火山帯北帯の語を用い,岩石成因論的見地から巣雲,大室などの諸火山や伊豆諸島の新島,式根島,神津島もそれに含め,また箱根,湯河原などの諸火山や大島,三宅島から硫黄島,南硫黄島に至る海底火山などを富士火山帯南帯と名付けた。北帯の諸火山はおもに輝石安山岩,角セン石安山岩からなるが,玄武岩や流紋岩(神津島など)も産する。南帯の諸火山は北帯に比べてアルカリに乏しい玄武岩,輝石安山岩からなるものが多く,角セン石安山岩はない。南帯と北帯の境は不連続的ではなく,漸移する。さらに富士,那須,乗鞍の諸火山帯は長野県付近に集まるが,互いに近づくにつれて岩石の性質もほとんど共通になり,輝石安山岩と角セン石安山岩の共存が特徴である。
本州中部の飛驒山脈(北アルプス)上をほぼ南北に走る火山帯。御嶽火山帯ともいい,東日本火山帯の一部をなす。白馬大池を北端とし,南方へ弥陀ヶ原(立山),鷲羽(わしば)岳,焼岳,乗鞍岳,御嶽山,上野山(岐阜)などの諸火山が連なるが,小規模な火山帯で,火山列と称するほうが妥当だとする学者もある。弥陀ヶ原,焼岳,乗鞍岳,御嶽山は活火山で,焼岳,御嶽山は近年も噴火したが,気象庁が常時火山観測中のものはない。この火山帯に属する諸火山は成層火山や溶岩円頂丘で,乗鞍岳と御嶽山は大規模な成層火山であるが,他の諸火山は噴出物が比較的少量で,基盤の地形も起伏に富むので,火山地形はあまり明瞭ではない。噴出物は輝石安山岩,角セン石安山岩,黒雲母安山岩からなり,流紋岩や玄武岩もある。黒雲母安山岩は,富士火山帯以東の諸火山帯にはみられず,この火山帯以西の諸火山帯に産する。
中部地方北西部の白山,戸室山などを東縁とし,中国地方の大山,三瓶(さんべ)山,青野山,四熊ヶ岳などや周防灘の姫島を経て,九州の両子(ふたご)山,鶴見岳,由布岳,九重山,金峰山,雲仙岳,多良岳へと続く火山帯。白山火山帯ともいう。これらの火山は,九州を除けば,とびとびに存在し,一火山帯にまとめるのは人為的すぎるきらいもあるが,噴出物の性質や火山の構造に著しい共通性が認められる。つまり,噴出物はおもに角セン石安山岩や黒雲母安山岩またはデイサイトで,砕屑丘(さいせつきゆう)上に溶岩円頂丘群が生じているものが多い。活火山は白山,鶴見岳,九重山,雲仙岳だけで,すでに活動を終わった火山が多い。近年,この火山帯を狭義の大山火山帯と白山火山帯に分ける学者が多い。前者は大山~多良岳の一連の諸火山,後者は白山とその付近の諸火山からなる。青葉山(福井)などは新生代第三紀の火山であり,両者間にかなりの空白地域があることが判明したためである。前者は西日本火山帯,後者は東日本火山帯の一部である。
活火山である霧島山を盟主とし,九州から南西諸島を経て台湾北端に至る火山帯。琉球火山帯ともいい,西日本火山帯の主要部分をなす。かつては霧島山以南とされていたが,第2次大戦後,瀬戸内火山帯が第三紀のものであることが判明してからは,九州中部の活火山阿蘇山も含める。霧島山の南西方では,桜島,開聞岳,硫黄島(鬼界ヶ島),口永良部島,中之島,諏訪之瀬島,鳥島(沖縄)と活火山が並んでいるが,それより先では,1924年に西表(いりおもて)島の北北東方での海底噴火の記録があるだけで,実態はほとんど不明である。この火山帯は,南西諸島では主弧状列島の内側(大陸側)を走っている。北部には阿蘇,加久藤,姶良(あいら),阿多,鬼界の大規模なカルデラが並んでおり,山体の陥没でそれらができる直前に出された多量の火砕流堆積物(通称,阿蘇溶岩,シラスなど)が九州中~南部を広くおおっている。阿蘇五岳で代表される阿蘇中央火口丘群,霧島火山群,桜島,開聞岳,硫黄島などは,カルデラ形成後にその内部か外側に生まれた成層火山や溶岩円頂丘であり,現在も活動的なものが多い。噴出物はおもに輝石安山岩で,角セン石安山岩,デイサイトもある。阿蘇山,霧島山,桜島では気象庁が常時火山観測中である。なお台湾北端の大屯山および付近の火山島や海底火山は,この地域一帯の地質構造区分上,霧島火山帯から除外するのが妥当だとする学者が多い。
→火山
執筆者:諏訪 彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多数の火山があるかたまりとして分布している地帯。火山帯は、新生代第四紀(過去約258万年間)のものをさすのが普通である。外国では、環太平洋火山帯、地中海火山帯、東アフリカ火山帯などがある。これらの火山帯は海溝や大陸の大地溝帯とほぼ平行に配列する。日本列島は環太平洋火山帯の一部にあたる。日本では、地理的分布と火山岩の組成の類似性から、千島(ちしま)、那須(なす)、鳥海(ちょうかい)、富士、乗鞍(のりくら)(御嶽(おんたけ))、白山(はくさん)(大山(だいせん))、霧島(琉球(りゅうきゅう))の7火山帯に分類されていた。瀬戸内火山帯とされたものは1300万年前前後の火山帯である。最近では、プレートテクトニクスの視点から、近畿地方を境にして東日本火山帯と西日本火山帯の二つに大きくまとめられている。両火山帯の分布は深発地震面の100キロメートル以深の場所と一致し、海溝側ほど火山の分布密度が高い。海溝側の分布の限界を、天気図になぞらえて火山フロント(前線)とよぶ。
[諏訪 彰・中田節也]
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