強制執行の基本となる債務名義に執行力が現存することおよびその範囲を公証する文言。執行文の付された債務名義を〈執行力ある正本〉(執行正本と略称することもある)と呼ぶ。具体的には,執行文は,裁判所書記官等が,債務名義の正本の末尾に,債権者がその債務名義に基づいて債務者に対して強制執行ができる旨を付記するという形式で付与される。
執行文の機能は,二つに分けられる。第1は,債務名義の執行力を公証する機能である。確定判決(民事執行法22条1号)であっても,再審によって取り消されていれば,執行力が失われるし,仮執行宣言付判決(同条2号)も,判決が上級審で取り消されれば,執行力が失われる。したがって,現実に強制執行が開始される前に,これらの債務名義の執行力が現存するかどうかを審査する必要があり,執行文は,この必要を満たすものである。債務名義に表示された請求権が条件付きである場合に,この条件が成就したかどうかを判定するのも,執行文の同様の機能である。
執行文の第2の機能は,強制執行の範囲を拡大する機能である。債務名義に表示されている当事者のほかに,民事執行法23条1項は,一定範囲の者のために,または一定範囲の者に対して強制執行が行われる余地を認めているが,執行文は,この範囲を具体的に確定する機能を持つ。いわゆる承継執行文が,その例である。
以上のような機能を持つ執行文は,原則としてすべての債務名義に要求される。ただし,少額訴訟判決,仮執行宣言付支払督促,仮差押え・仮処分命令については,執行文を必要としない(25条,民事保全法43条1項本文)。これは,この種の債務名義に基づく執行に関して,とくに簡易性および迅速性が強調されるためである。しかし,前述の承継執行文は,この種の債務名義についても要求される。強制執行における債権者または債務者の範囲を拡張する場合には,より慎重に手続を要するというのが,その趣旨である。
執行文を付与するのは,執行証書については,その原本を保存する公証人,それ以外の債務名義については,事件記録の存在する裁判所の書記官である(26条1項)。これは,執行力の有無に関する調査資料がその手もとにあるという理由に基づいている。いずれにしても,執行官あるいは執行裁判所などの執行機関は,執行文の付与に関与せず,執行文の付与された執行正本に基づく強制執行を実施する責任のみを負う。
通常の執行文は,上記の付与機関に対して債権者が申立てをなし,審査のうえ付与されるが,請求権が条件付きの場合,および承継執行文を求める場合には,債権者は,文書の提出によって条件成就あるいは承継の事実を証明することが要求され(27条1項,2項),その証明ができなければ,〈執行文付与の訴え〉を提起しなければならない(33条1項)。債務者の側から執行文を付与すべきでないことを主張する手段としては,〈執行文付与に対する異議〉(32条),および〈執行文付与に対する異議の訴え〉(34条)がある。
執筆者:伊藤 真
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…この差異は,〈請求異議の訴え〉において債務者が,いかなる範囲の事由を主張できるかという相違としてあらわれる(35条1項,2項)。 また,現実に強制執行を開始するには,債務名義だけでは足らず,それに執行文が付記されなければならないのが原則である(これを〈執行力ある正本〉という)。執行文とは,その時点で債務名義が有効であり,執行力が備わっていることを公証するものである。…
※「執行文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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